最終決戦! その十七
そろそろ集合時間である。
食べられそうなキノコや木の実、狩猟肉を持ち帰った。
私達は味見と称して、間食を取った。一方で、リオンさん達は飲まず食わずでシエル様の捜索をしていたはずだ。さぞかし、お腹が空いているだろう。
集合場所に戻ると、リオンさんとリヒテンベルガー家の親子、ミル、ランスがいた。
思っていた以上に道が入り組んでいるからと、深入りしないようにしたのだとか。
「すまない。こちらは成果なしだ」
「こっちはこれを、アルブムが発見した」
隊長がシエル様の冑をリオンさんに差し出すと、ハッとなる。
「これは、お祖父様の――!」
やはり、シエル様の冑で間違いないようだ。
「中身は、入っていなかったのか?」
中身って……。
さすがの隊長も言葉を失っていたようだが、生首状態での発見ではなかったと告げる。
「お祖父様はこの森のどこかで、おそらく生きている。それがわかっただけでも、よしとしよう」
リーゼロッテとリヒテンベルガー侯爵が、シエル様の冑を使って魔力の解析をしてくれるらしい。
魔力の種類が特定できたら、それを使って捜し出すことができるそうだ。
親子は真剣な眼差しで、シエル様の冑から魔力を読み取ろうとしている。実に、頼もしい。
私も、できることをしなくては。
「あ、あの、お腹、空いていますよね? 食事を、用意しますので」
「ああ、感謝する」
一応、飲まず食わずで活動をしていたわけではないらしい。
ミルが生食可能な木の実を見つけ出し、ランスが木登りして採ったものを食べていたとか。
「エルフ達には、助けられた」
「そうだったのですね」
隊長の振り分けは、的確だったというわけだ。
さっそく、調理を開始する。
いつものように、アメリアとステラが石や木の枝を集め、簡易かまどを作ってくれる。
採取したキノコと鳥肉を木の枝で串打ちし、水晶岩塩をまぶして焼く。
火に炙られた食材が、じわり、じわりと汁を滴らせていた。その様子を、ミルはキラキラした目で覗き込む。
「わー、いい匂いがする。お腹ペコペコ!」
ミルは疲れている様子はない。あの、リオンさんやリヒテンベルガー家の親子、ランスという気難しそうな人々の中でも、上手くやっていたようだ。
我が妹ながら、羨ましくなる。
結局水は見つけられなかったので、水分の多い果物を一緒に食べてもらう。
「完成しましたー!」
皆に配ったあと、アルブムは自分で拾ったらしいキノコを串打ちし、火で炙っていた。
いつの間に、自分で調理できるようになったのか。
アルブムに気を取られていたら、隣でキノコにかぶりついたミルが叫ぶ。
「熱っ!」
かぶりついたところ、アツアツの汁が溢れてきて、舌を火傷してしまったらしい。
「うう~! おいしいけれど、熱くて食べられない」
「裂いて食べたほうがいいかも」
キノコを串から外し、縦に裂く。そして、フーフーして冷ましてから、ミルの口へ運んだ。
「ミル、はい、あーん」
「あーん」
キノコを頬張ったミルは、目をキラキラと輝かせた。
「わー、このキノコ、とってもおいしい! コリコリしていて、味が濃くて! 塩がいい感じにしょっぱいのも最高!」
「それ、水晶岩塩だからね」
「えっ、水晶岩塩って、実在しているんだ! 絵本の中に出てくる、空想の食べ物かと思っていた」
水晶岩塩に、リオンさんやリヒテンベルガー侯爵も驚いていた。
「なるほど、だから、野生肉がこんなにもおいしいのだな」
「料理人が時間をかけて作ったものより、おいしい」
さすが、水晶岩塩と新鮮な食材達。
それに加えて、空腹も最大のスパイスになっていそうな気もするけれど。
キノコが焼き上がったアルブムは、一串ウルガスに分けていた。
アルブムも、ウルガスの「おいしそうだなー」という視線に気付いていたようだ。
「ええー、いいんですか? アルブムチャンサンの、大事なキノコなのに」
『イインダヨ。ミンナデ、食ベタホウガ、オイシイカラ』
「アルブムチャンサン……!」
ウルガスとアルブムは、並んでキノコを食べていた。
豪快にかぶりついて、「熱っ!!」と叫ぶタイミングまで同じだった。
隊長とベルリー副隊長、ザラさんとリオンさんは集まって、これからどうするのか会議している。
目の前では、ガルさんがスラちゃんで作ったあやとりを、ミルとしていた。なんだか楽しそう。
ぼんやりしていたが、耳元でガサリ、という物音を拾った。
慌てて振り返ったが、何もいない。気のせいだったか。
そう思ったが、草の一部が風もないのにワサワサと揺れていた。
「だ、誰ですか!?」
私の声に反応し、びくりと草が不自然に揺れたあと、ピョコンと跳び上がった。
『ワッ!』
小さな叫び声を上げつつ、姿を現したのは――コメルヴに似た生き物。
二足歩行をする、大根状の生き物だ。
私を見て、円らな瞳をぱちくりさせている。
「あ、あなたは?」
問いかけると、答えてくれた。
『メルヴダヨ』




