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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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最終決戦! その十六

 解体した森鳥に塩を揉み込まないといけない。


「その前に、この水晶岩塩を砕かないとですね」


 群晶状のままでは、調理に使えない。細かくしないといけないのだ。


「乳鉢も、落としていますね」

「私に任せて」


 ザラさんは水晶岩塩を手に取り、ハンカチで丁寧に包む。

 大きな葉の上に置き、戦斧の柄でガンガン叩き始めた。


「おお、さすが、アートさん!」

「待ってジュン、これ――」

「どうかしたんですか?」

「とっても硬いの! さっきから、ぜんぜん、手応えがないわ」

「ええー!?」


 ザラさんの力でも、砕けない水晶岩塩とはいったい……。

 さすが、伝説級の高級食材だ。一筋縄ではいかない。


「だったら、こちらも伝説の男で対抗しましょう」

「リスリス衛生兵、うちの部隊に伝説っていましたっけ?」

「隊長です」


 伝説の山賊隊長、クロウ・ルードティンク。

 私達は彼に、水晶岩塩を砕いてもらうよう、頼むことにした。


 事情を説明すると、隊長は嫌そうな顔をしながら言った。


「はあ? 何言ってんだ。俺たちの中で一番力強いのは、ザラだろうが」

「そんなことないわ。私、クロウより力ないわよ」

「嘘言え! 新人時代にやった訓練で、俺をぶっ飛ばしたことがあっただろうが!」

「ごめんなさい、覚えていないわ」

「こいつ……!」

「それはそうと、クロウのその筋肉は、飾りなの?」


 ザラさんの一言に、隊長の眉毛がピクンと跳ね上がる。


「お前な……!」


 口でザラさんに勝てないと思ったのか、その場に座り込み、ナイフの柄で水晶岩塩を叩き始めた。


「は!? なんだこれは。岩じゃないか!!」

「そうなのよ」

「こんなの、人の力で砕けるわけがないだろうが」


 やはり、我が部隊の伝説の男でも、水晶岩塩に敵わなかったか。


「もういい。時間の無駄だ。そのまま焼け!」


 その命令に、ウルガスと私は「えー!」と、抗議の声をあげてしまう。

 山賊顔負けの怖い顔でジロリと睨んできたので、ウルガスと同時に顔を逸らした。


「せっかくアルブムちゃんさんが採ってきてくれたので、使って食べたいですよね」

「ウルガスに同感です」


 ここで、肩をぽんぽんと叩かれる。

 気配がまったくなかったので、驚いた。慌てて背後を振り返ったが、誰もいない。


「あ、リスリス衛生兵、スラちゃんさんです」

「あ、ああ」


 下のほうへと視線を移すと、スラちゃんが片手を上げていた。


「スラちゃん、どうしたんですか?」


 スラちゃんは水晶岩塩の形に変化したかと思えば、すぐに真っ平らに潰れる。


「あ、もしかして、スラちゃんが水晶岩塩を砕いてくれるのですか!?」


 スラちゃんは胸をドン! と叩き、ドヤ顔で私を見上げる。

 まるで、「スラちゃんに任せなさい!」と言っているようだった。


「あ、そういえば、スラちゃんさんは、これまでも――もがっ!」


 慌ててウルガスの口を塞ぐ。スラちゃんを使って調理していたことは、繊細な隊長には内緒なのだ。


「どうした?」

「あ、隊長。大丈夫そうなので、あとのことは私達にお任せください」

「スラを使って、どうやって水晶岩塩を砕くんだ?」


 自分ができなかったことなので、興味を持っているらしい。

 私はザラさんに目配せする。


「あ、そうだ。クロウ。お花摘みに行きましょう!」

「はあ!? 何でお前と一緒に仲良く用を足しに行かなければならないんだよ」

「いいじゃない。たまには」

「嫌だよ! おい、離せ! クソ、力強いな!」


 さすがザラさんだ。力業で隊長の隔離に成功していた。

 隊長がいなくなった隙に、スラちゃんに水晶岩塩を手渡す。


「スラちゃん、お願いいたします」


 スラちゃんは水晶岩塩をパクリと口に含み、ぶるぶると震え始める。

 ガリゴリと、スラちゃんの可愛い顔から想像つかないような音が鳴っていた。

 ウルガスが大きな葉を差し出すと、口から砕かれた塩を吐き出す。


「おおおおお!!」

「さすが、スラちゃんさんです!!」


 岩よりも硬い水晶岩塩を、いつもお店で買うようなサラサラの塩に仕上げてくれた。


「スラちゃん、ありがとうございます!」


 スラちゃんは「なんてことはない、気にするな」と、手をぶんぶん振っていた。

 これで、水晶岩塩を料理に使える。スラちゃん様々サマサマである。


 他に粗めの塩も作ってもらった。下ごしらえに使うのは、こちらである。

 森鳥のお腹にキノコと臭み消しの薬草を詰め、表面に粗塩を揉み込む。

 この大きさなので、まず大きな葉っぱに包んで、蒸し焼きしなければならない。

 ベルリー副隊長とリーゼロッテ、ガルさんが作った焚き火で調理する。

 火が通ったら、表面を炙ってパリパリになるまで焼いた。

 こんがりと焼き色が付いたら、『森の恵みの山賊風鳥の丸焼き』の完成だ。


「わー! おいしそうに焼けましたね!」

「ウルガスがきれいに解体してくれたおかげで」

「それほどでもー!」


 一年半前まで、何もできなかったウルガスだったが、努力のおかげでいろいろできるようになった。

 私は褒めて才能を伸ばすタイプなので、言葉を惜しまない。


「食べましょうか」


 消毒させたナイフで、ザラさんが切り分けてくれた。

 大きな葉っぱを皿代わりに、配ってくれる。


 アルブムが果物を探し、みんなの分を用意してくれていた。甘みは薄いが、水分を多く含むものらしい。水分代わりになるだろうと。

 姿が消えたと思っていたら、そんなことをしていたなんて。

 アメリアやステラ、エスメラルダのために、探しに行ってくれたらしい。

 ウルガスと同じように、アルブムも褒める。


「アルブム、偉い。いい子です!」

『エヘヘヘヘ~~』


 ここで、じっとりとした視線を感じる。エスメラルダだった。今までニクスの中で大人しくしていると思っていたが、果物探しを手伝っていたらしい。


「エスメラルダも、偉いですね」

『キュッフ!』


 褒めてあげたら、機嫌が回復したようで、ひとまずホッ。


 まずは、水晶岩塩と果物を採りに行ったアルブムから食べてもらう。

 ふーふーと冷ましたあと、パクリとかぶりつく。


『アアアアアア~~!! 肉汁ガアアアアア!! オイシイ!! オイシイヨオ!!』


 お口に合ったようで、何よりである。続けて私達も食べることにした。

 食器がないので、みんなナイフに突き刺して食べる。

 まるで山賊の一味のようだが、気にしたら負けだろう。


「――お、おいしい!!」


 森鳥の肉は柔らかく、皮はパリパリ。

 水晶岩塩が、肉の旨味を最大限にまで引き出してくれる。

 味付けは塩だけなのに、ここまでおいしいとは。

 さすが、伝説の食材だ。


 心ゆくまで、堪能したのだった。

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