最終決戦! その十四
ひとまず、アメリアに乗って空から森林大亀の規模と、水晶岩塩のある位置を調べることになった。
「あー、そうだな。アメリアは、女だったら二人乗せることは可能か?」
『クエ!』
アメリアは空中視察は任してくれと言わんばかりに、胸を張って答えていた。
隊長は私に視線を向けるが、「いや、こいつじゃないな」と小さな声で呟いていた。
フォレ・エルフの耳は囁き声をしっかり拾いますので。心の声は、外に出さないでほしい。
続いて、リーゼロッテに視線を向ける。隊長は険しい表情を浮かべ、「いや、飛び込んだりしたら危ないな」などと呟いていた。
これには、私も同意してしまう。
「あー、とりあえず、ベルリーと、ウルガス、それからアルブムがアメリアに乗って、上空から水晶岩塩があるか見てきてほしい」
「え、ちょっと待ってください隊長。俺とベルリー副隊長を、アメリアさんは乗せることが可能なんですか?」
アメリアは女性二人だったら乗せることは可能だと言っていた。ウルガスは男子だ。重量的に大丈夫なのか。
『クエクエ、クエ!』
「ウルガスだったら、小柄だから大丈夫だと」
「あ、そっすか」
一応、ウルガスはベルリー副隊長より背は高く、体重もしっかりある。が、隊長やガルさん、ザラさんと比べたら小柄なのだ。
「ジュンは育ち盛りだから。あと一年後には、私と同じくらいの身長になるんじゃないかしら?」
「アートさん……励ましのお言葉、ありがとうございます」
ザラさんの言葉を、ウルガスは励ましだと言っていたが、この一年半でウルガスはぐぐっと身長が伸びた。きっと、一年後にはもっともっと大きく成長しているだろう。
ベルリー副隊長とウルガスがアメリアの背に乗ったあと、アルブムにも乗るように急かした。
「アルブム。あとは、あなたが乗るだけですよ」
『エー、アルブムチャンモ、ナノー?』
「ええ。早く乗ってください」
『デモー、ナンテイウカー、チョット、パンケーキノ娘ト一緒ジャナイト、不安ダナーッテ』
「は?」
アルブムはもじもじしながら言う。
もしかして、人見知りをしているのだろうか。
いいから早く行けとアルブムの体を持ち上げたが、ジタバタと暴れだす。
『アー、アルブムチャンハー、パンケーキノ娘トー、一緒ガイイノー!』
「ちょっと、暴れないでください! 大人しく、水晶岩塩を、探しに行ってください」
『パンケーキノ娘ー! パンケーキノ娘ー! パンケーキノ娘ー!』
そんな熱烈にコールされましても。
アメリアの呆れたような視線が突き刺さる。
「あー、もう。じゃあ、ウルガスとリスリス、交代しろ!」
「ええっ!」
「ウルガス、アメリアから降りろ!」
「あ、はあ」
ウルガスは素早くアメリアの背中から降りて、サッと手で「どうぞ」と指し示す。
「リスリス、乗れ!」
「ええー……はい」
しぶしぶと、アメリアの背に跨がった。
リーゼロッテの羨ましそうな視線が突き刺さるが、隊長がぼやいていた通り、興奮するあまりアメリアの背から落下したら大変だ。口が裂けても「代わってあげようか?」なんてことは言えない。
「リスリス衛生兵、大丈夫か?」
「はい、大丈夫、だと思います。たぶん」
「私に掴まっていていいから」
「はい、ありがとうございます」
私が不安げに見えたからか、隊長がスラちゃんもついていくように命じていた。
リーゼロッテの腰に巻き付いていたスラちゃんが、今度は私の命綱になってくれる。
「スラちゃん、ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
頼もしいことに「スラちゃんに任せなさい」とばかりに、力強い眼差しを向けてくれた。
アルブムはニクスの中に潜り込み、元気よく『アルブムチャンモ、準備デキタヨー』と叫んでいる。
『クエクエー!』
アメリアの「出発するよー」というかけ声と共に、空を舞う。
高くそびえる木々よりも高く、アメリアは飛んだ。いつもより高いので、戦々恐々としてしまう。
恐ろしくなり、スラちゃんの命綱があるにもかかわらず、ベルリー副隊長に抱きつくように掴まってしまった。
「あ、森林大亀って、そんなに大きくないんですね」
「みたいだな」
直径五メトルほどか。
この辺の森一帯が森林大亀だと思っていたが、根が広い範囲で張っていたので、多くの木々を引きずって移動していたようだ。
ゆっくり、ゆっくりと移動している。
甲羅部分に水晶岩塩が生えているとアルブムが言っていたが、草花や木が生えているので、正直どこにあるのかさっぱりである。
『ア、水晶岩塩、見ツケター!』
「え、どこですか?」
『アッチトコッチト、ムコウ』
私にはまったく見えない。
「あの、ベルリー副隊長は見えますか?」
「いいや」
アルブムにしか見えていないようだ。
「えー、そんなわけで、私、考えました」
『何ヲ?』
「アルブムにスラちゃんを巻き付けて、釣りのようにして森林大亀の甲羅に垂らし、水晶岩塩を持ってきてもらう任務を」
『ヤダー!!!!』
「アルブム、これしか作戦は思いつかないのです」
実はスラちゃんを隊長が手渡すさい、私に命じたのだ。
スラちゃんをアルブムに巻き付け、森林大亀の甲羅に下ろして水晶岩塩を探させるようにと。
『ヤダヤダ、一人ジャヤダ! パンケーキノ娘、一緒ニ行コウ?』
「えっ、私もですか!?」
アルブムだけに危険な目に遭わせるのは、可哀想な気もするが……。
『クエクエ、クエー』
ここで、アメリアの突っ込みが入る。
アルブムを垂らすくらいならば問題ないが、私の体重を下ろした場合、空中でバランスを取れないと。
「あ、そうですよね」
『クエー』
「えー、アルブム。私を下ろすのは、難しいようです。そんなわけで、お願いできませんか?」
『怖イヨオ』
「邪龍退治の任務が終わって家に帰ったら、パンケーキ百枚焼いてあげるので」
『ワーイ! アルブムチャン、ガンバリマース!』
パンケーキ百枚と引き換えに、あっさりとやる気になった。
「じゃあ、お願いしますね。スラちゃんも」
そんなわけで、水晶岩塩採掘が始まる。アルブムの胴にスラちゃんを巻き付け、釣りの要領で森林大亀の甲羅に垂らす。
『オオオオ、高イー!! ン、ギャアア、アルブムチャンガー、強風ニ、サラサレテイルー!』
ギャアギャアと騒ぎながら、アルブムは降りていった。果たして、大丈夫なのか。
アルブムを垂らしてから五分後、スラちゃんが動き出す。
「あ、終わったようですね」
意外と仕事が早かった。もしかしたら、見つけられなかったのかもしれないけれど。
『パンケーキノ娘ー!』
アルブムは、何か器のような物の中に入っていた。キラキラ光っているのは、水晶岩塩なのか。
『タダイマー!』
「おかえりなさい」
『水晶岩塩、アッタヨー』
群晶状の水晶が、三つ入っていた。アルブムは発見した水晶岩塩を、すべて採ってきたようだ。
気になるのは、水晶岩塩入れにしている器だ。
近くで見たら、器でないことがわかる。
「これってもしかして、シエル様の冑ですか!?」
『タブン、ソウダト思ウ』
本人はいなかったようだ。
なぜ、森林大亀の背中にシエル様の冑が落ちていたのか。
謎が深まる。




