最終決戦! その九
邪龍の復活――!
やはり、リオンさんの言っていたことは本当だったのだ。全身に、鳥肌が立ってしまう。
「再び邪龍を封じるには、フォレ・エルフの生け贄が必要となるわけですね?」
「そうだ」
今まで邪龍の復活に備え、魔力値の高い子どもを選別していたのは先生の仕事だったらしい。
「供物として、送り出すのも私の役目だった」
「なぜ、ハイ・エルフである先生が、フォレ・エルフの村でそんなことを?」
「邪龍を封じた者との約束だ」
「それは?」
「アイスコレッタに決まっているだろうが!」
ドン! とテーブルを叩きながら先生は叫んだ。
当時、少年だった先生はアイスコレッタ家の女性に出会い、すばらしい薬学の知識を学ぶために弟子入りしていたらしい。
しかし、珍しい薬草を探しに旅する中、フォレ・エルフの森で事件は起こった。
「フォレ・エルフの青年が、邪龍召喚に成功してしまったのだ」
家族の反対で好きな娘と結婚できず、家族をちょっとだけ脅かそう。そんな軽い気持ちで召喚の儀式を行った。その結果、世界の終末、厄災とも呼ばれる邪龍の召喚に成功してしまった。
邪龍は森の半分を一息で焼き、多くのフォレ・エルフの森を喰らい力を増していった。
「さすがの師匠も、邪龍相手に苦戦した。倒すことはできず、封じることしかできなかった」
封じるだけでも、すごいだろう。問題は、そのあとだった。
「師匠は、私を置いて、じゃああとはよろしく! と言って去っていった」
ぶるぶる震えながら憤る先生に、恐る恐る質問した。
「も、もしかして、それからずっとフォレ・エルフの村にいらっしゃるのですか?」
「そうだ」
なんというか、気の毒になる。
それにしても、酷い人がいるものだ。先生を一人置いて、さっさといなくなるなんて。
「まあ、当時の私はすべて師匠の知識と技量を学んだあとで、何も習うものはなかった。しかし、共に過ごす中で、何か学べるはずだと旅に同行したことが間違いだった。面倒事を押しつけられるばかりで、師匠から学ぶものは、一つとしてなかった!」
先生は邪龍に細心の注意を払い、監視していたようだ。
「あの邪龍が復活したら、間違いなく世界は滅びる。一人の命は軽いとは言わないが、一人の命で多くが救われるとあれば、私は生け贄を送り込むことしかできなかった」
もちろん、長年身を粉にして邪龍を完全に封印できないか、研究していたらしい。それも、何百年と成果が出ていないという。
「昔の英雄伝のように、異世界から勇者の召喚も考えたが、失敗の繰り返しで。しかし、ついに、勇者が応えてくれたのだ」
「おお!」
勇者がいるから、生け贄を捧げるのを止めようと思ったようだ。
「異世界から召喚するのを諦め、この世界から勇者の適性がある者を召喚したのだ」
「そうだったのですね」
いったい、どんな人物なのか。
隊長のように屈強な人なのか。それとも、ザラさんみたいに美人なのか。
非常に気になる。
「それで、勇者様は邪龍退治に出かけたのですか?」
「ああ。案内を申し出たのだが、自分で邪龍の気配を探って行くからと言っていたのだが」
先生の眉間に皺がぎゅっと寄った。苦渋の表情を浮かべている。
「えっと、勇者様は、どうなったのですか?」
「……」
「まさか、逆に、倒されてしまったのですか?」
「いいや、邪龍はまだ、復活していない。倒す、倒さないの以前の問題なのだ」
「と、言いますと?」
「おそらく、フォレ・エルフの森で、迷子になっている」
「迷子……!」
勇者、迷子になる。物語の題名ならば、思わず手に取ってみたくなる。勇者が迷子って、どういうことなんだ、と。
しかし、現実の勇者にそんなことをされてしまったら困る。
「それで、誰かに勇者の捜索を頼もうとしていたのだが、誰に頼めばいいのやらと」
先生は現在、邪龍が森から出ていかないよう、結界を作りその要となっているらしい。
そのため、フォレ・エルフの村を離れるわけにはいかないと。
結界は昨日、勇者様が帰ってこないので急遽作った物だったらしい。
「あの、私達、邪龍の様子を見にきたんです。勇者様のことも、探しておきます」
「そうか、助かる。しかし、一週間以上も前に出たから、生きているのかわからぬが」
「一週間……!」
フォレ・エルフの森はキノコや薬草など種類豊富だ。しかし、正しい食材知識がないと意味がない。毒草や毒キノコもたくさんあるからだ。
「一応、死んでいるように見えても、間に合うかもしれない。埋葬せずに、連れてきてくれ」
「ええ、わかりました」
勇者様に薬草の知識があることを、祈るばかりである。
「しかし、騎士隊の一小隊が邪龍に挑むなど、無謀だぞ」
「挑むのではなく、調査だったのですが」
このままでは、挑むことになるだろう。でないと、世界が滅んでしまう。
「竜を連れたリオンさんもいるので、もしかしたら奇跡が起きるのかもしれませんが」
「竜だと? もしや、アイスコレッタ家の者なのか?」
「ええ、そうですけれど」
アイスコレッタ家の方々は、竜と縁を持つことで有名らしい。
「勇者も、アイスコレッタだぞ」
「え……! も、もしかして、勇者ってシエル様ですか?」
「そうだ。知り合いなのか?」
「ええ、存じています」
先生は、シエル様を勇者として召喚したようだ。アリタ、コメルヴも一緒らしい。
「だったら、大丈夫です。シエル様は、きっと生きています」
なんたって、邪龍との戦闘経験もある、大英雄なのだから。




