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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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最終決戦! その三

『そろそろ出発するぞ。離陸するときは、少し揺れるから、何かに掴まっておけ』


 客室にある水晶から、リオンさんの声が聞こえた。

 ついに、飛び立つようだ。

 隊長はあぐらを組んで座り、ベルリー副隊長は壁にある手すりに掴まっている。ガルさんは大事そうにスラちゃんを胸に抱えていた。ウルガスは丸くなって、床に這いつくばっている。リヒテンベルガー親子は、アメリアとステラの間に正座していた。先ほど、侯爵様が失神したので、アメリアとステラが心配して間に座らせてくれたようだ。なんて心優しい娘達なのか。

 アルブムは急いで床に置いてあるニクスの中に飛び込んでいた。アルブムの重みでニクスが倒れると、アルブムの『ギャ~~、離陸ノ衝撃スゴスギルウウウウ!』と叫ぶ。律儀なニクスは、『まだ、飛んでないよん』と教えてあげていた。


 私はエスメラルダのカゴを片手に、どのような体勢で離陸を迎えればいいのか悩んでいた。


「お姉ちゃん大丈夫? ザラお兄さんとかに手を握ってもらっていたほうがいいんじゃないの~?」


 ミルがニヤニヤしながら、余計なことを言ってくれる。

 ザラさんも困っているだろう。そう思って振り返ったら、にっこり微笑んでくれた。それだけではなく、優しい言葉をかけてくれる。


「メルちゃん、念のため、掴まる?」


 両手を差し出してくれたので、お言葉に甘えて掴まらせていただくことにした。


 ミルは大きな窓を覗き込む体勢で、離陸を待っている。


『準備はできたようだな。飛び立つぞ』


 リオンさんがそう言うと、ゴゴゴゴと音を立て、動き出す。ガタン! と、客室が大きく揺れた。

 踏ん張って立つことができず、ザラさんに抱きついてしまう。


「どわっ!」

「メルちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

「座っていたほうが、よさそうね」

「え、ええ」


 ザラさんは私の腰を支え、座らせてくれた。


『キュキュウ~~~!!』


 抗議の声が聞こえ、振り返る。先ほどの衝撃で、エスメラルダはカゴから飛びだしてしまったようだ。よくよく見たら、持っているカゴが空であることに気づく。


「エ、エスメラルダ、すみません」

『キュッフー!!』


 エスメラルダは怒りつつ、揺れる中をズンズン歩き、私がいるほうへ迫ってくる。


『キュキュキュキューウ!!』


 激しく文句を言いながら、私の膝にどっかりと座った。

 もう、このようなことはないようにと、お叱りを受ける。


『キュッフ!!』

「はい、気をつけます……」


 客室は依然としてガタガタ揺れている。

 あぐらをかいている隊長は、さすがと言えばいいのか。これだけ揺れる中でも、微動だにしない。むしろ、少しくらい揺れて欲しいが。あそこだけ空間が歪んでいるのだろうか。謎だ。

 ベルリー副隊長も、立ったままの体勢を保っていた。さすがである。

 ガルさんは振動でぷるぷる震えるスラちゃんを、じっと見つめていた。

 ウルガスは、踏ん張ることに失敗したのか、床の上をコロコロ回転していた。悲鳴もあげずに、大人しく転がっている。

 リヒテンベルガー親子はアメリアとステラに囲まれて幸せそうな上に、竜が飛び立ったことに感動し、涙していた。なんていうか、よかったね。

 隊長の手によって、帽子かけにかけられたニクスだったが、中に入り込んだアルブムが暴れるので、左右に揺れていた。


『コノ乗リ物、スゴイ揺レルウウウウ!』

『大人しくしたら、揺れなくなるよん……』


 おバカなアルブムに助言してあげる、ニクスの優しさよ。


 ミルは窓際で嬉しそうに、景色を楽しんでいる。この状態を楽しめるなんて、羨ましい性格だ。


「け、けっこう、揺れますね」

「そうね。たぶん、空の上にでたら、安定すると思うけれど」


 私は座った状態でザラさんに抱きついたまま、飛行が安定するのを待つ。


「わー!」


 ミルの歓声が聞こえ、視線を窓に移す。もくもくの白い雲の中に入ったようだ。


『どわー!!』


 通信水晶から、ランスの悲鳴が聞こえた。むき出しの身で竜に跨がっているので、大変な状態になっているのだろう。たぶん、魔法で結界はあるので大丈夫だろうが。


「お姉ちゃん、見て、雲の中にいるよ!」

「う、うん」


 なんだか不安になっているのは、私だけだったようだ。ミルは目を最大限にまでキラキラにさせている。


「メルちゃん、大丈夫よ。あと少しで、雲から出るから」

「は、はい」


 ザラさんの優しさが、身にしみる。

 五分ほどで、雲の中から脱出できた。

 窓の外に広がる景色は、どこまでも続く澄んだ青。


「わっ……きれい!」

「本当に。夢みたいな青ね」


 子どものときに、空と海は鏡合わせのように存在するから、共に青いという話を聞いたことがあった。


 海が青いから空は青いのか。

 空が青いから海は青いのか。


 わからないくらい、きれいな青だった。


「海も深いと思いましたが、空も深いのですね」

「そうね。まるで、おとぎ話の世界にいるみたいだわ」


 フォレ・エルフの森に住んでいたときには、絶対に見ることができない景色だ。

 ただただ、目の前の空の青に感動して、目を奪われてしまう。


 そんな中、キラリと銀色に光る何かを発見した。


「あれは、なんでしょうか? ザラさんにも、見えましたか?」

「ええ。今、何か光ったように見えたわ」


 ミルにも見えたのだろう。振り返って叫ぶ。


「お姉ちゃん、翅がある、お魚がいたよ!」

「翅がある、お魚!?」


 なんだ、それは。そんな疑問に答えてくれたのは、リオンさんだった。


『あれは、天空魚スカイ・ポワソンだ。うまいぞ。釣ってみたらどうだ?』

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