表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

316/412

最終決戦! その二

 竜に乗れることがわかり、興奮して気を失っていた侯爵様だったが、リーゼロッテが「足手まといになるから置いていこうかしら?」と言った瞬間に意識が戻る。

 侯爵様は失神なんてしていないとばかりにすぐに起き上がり、キリリとした顔で「ゆこうか」などと言っていた。


「お父様、遊びに行くのではありませんからね。竜を見て浮かれて、我を忘れることなどあってはならないわ」

「わかっている」


 なんというか、説得力のない「わかっている」だった。


 幻獣保護局からは、リーゼロッテの世話役の侍女二名に、侯爵様の助手と秘書が一名ずつ同行するようだ。

 竜馬車は最大三十名乗れるほど大きいようなので、問題ないとのこと。

 いったい、どういう規模のものなのか。まったく想像できない。


「では、行こうか」


 リオンさんの言葉をきっかけに、行動を始める。

 私たちはついに、邪龍退治に出かけるのだ。

 これで、長年邪龍の生贄となっていたフォレ・エルフの歴史も終わるだろう。


 王都郊外に、リオンさんの竜は鎮座していた。

 大きさは五メトルほど。ルビーのような赤い鱗が美しい。竜としては小柄なほうだという。

 侯爵様は全身震えていたが、唇を嚙みしめて自分の両方の足でなんとか立っていた。

 目には大粒の涙を浮かべている。

 リーゼロッテは感動し、涙をポロポロ流していた。


 そんなリヒテンベルガー家の親子をみたリオンさんが、憐憫れんびんの眼差しを向けながら問いかけてくる。


「あの者達はどうしたのだ?」

「幻獣大好きクラブの人たちです。希少な竜に出会えて、感動しているのかと」

「そうか」


 リオンさんはリヒテンベルガー家の親子に近づき、何かを差し出した。


「私の竜の、剝がれた鱗だ。記念にやろう」

「!?」

「!?」 


 リオンさんが差し出したのは、手のひら大の二枚の竜の鱗だった。

  侯爵様とリーゼロッテの目が最大まで見開かれ、リオンさんと竜の鱗を交互に見ていた。


「あ、あの、本当に、こんなに貴重なもの、もらっても、よ、よろしいの?」

「い、いくらなのだ? いい値で、買い取ろう」

「やると言っている。さっさと受け取れ」


 リオンさんは侯爵様とリーゼロッテの手に竜の鱗を握らせる。


「あ、ありがとう、ございます」

「心からの、感謝を」


 リヒテンベルガー家の親子は、頭を深々と下げ、感謝の気持ちを伝えていた。

 竜とリヒテンベルガー家の親子に気を取られていたが、竜の背後には竜馬車の車体があるようだ。

 平屋建ての一軒家みたいな建物が、ポツンと森の中に置かれている。これが、竜馬車らしい。


「うっわ! 大きい!」


 リオンさんに内部を案内してもらう。入り口を抜けた先にあったのは、ふかふかの絨毯じゅうたんが敷かれた瀟洒しょうしゃな部屋だった。

 壁紙は優雅な薔薇模様で、大きな窓がはめ込まれている。長椅子にテーブル、棚などの家具もそろえられていて、貴族の私室といった感じの豪華な内容だった。

 これに乗ってフォレ・エルフの村まで移動できるなんて。

 アメリアやステラが十分ゆったりくつろげる大きさだ。さっそく上がり、絨毯の上に座っていた。


『クエクエ~~!』

『クウ!』


 ふかふかの絨毯はお気に召したようである。


「すごいですね」

「そうだろう? 夜間や疲れた時など、この中で休めるよう、職人に造らせたのだ」


 ちなみに、普段は魔法で見えないようにしているが、常に車体を引いていたらしい。

 竜と車体は魔力で繫がっているようだが、目には見えない。

 部屋はここだけでなく、寝室に浴室、化粧室、台所、食堂、物置などもあるようだ。

 遠征時に、これがあったらどんなに便利なことか。羨ましく思った。


「私は竜に跨がる。飛行中、誰か、フォレ・エルフの村まで案内を頼みたい」


 誰か、というのは私かミルかランスだろう。


「はい、はーい! 私が案内したい!」


 一番に挙手したのはミルだ。頰を染め、瞳は好奇心で輝いていた。


「ミル、危ないから! 案内は私が」


 高いところは得意じゃないけれど、ミルを危険な目に遭わせてはいけない。


「お姉ちゃん、こういうの、あまり得意じゃ──むごっ!」


 余計なことを言うミルの口を塞いだ。

 ジタバタするので押さえようとしていたら、予想外の展開となった。


「俺が案内する」


 挙手したのはランスである。


「え、いいのですか?」

「ああ。竜馬車の中はあいつがいるからな。ちょうどいい」


 ランスが「あいつ」と言って指さしたのはザラさんだ。

 そうだった。すっかり忘れていたけれど、二人は喧嘩していたのだ。

 リオンさんのあとを、ランスが続く。


「お姉ちゃん、ランスとザラお兄さん、何かあったの? 喧嘩? さっきから、なんか二人がピリピリしているなって思っていたけれど」

「……」


 言えない。ザラさんとランスが私を巡って喧嘩したなどとは、私の口からはとても言えなかった。


「まあ、人には相性があるから」

「世界一優しいザラお兄さんを怒らせるって、よほどのことだよ。ランス、ヒドイやつだな」


 半分くらい私も悪い気がするけれど、黙っておいた。

 そのなんだ、ごめん、ランス。

挿絵(By みてみん)

最新5巻の口絵です。みんなかわいい!

アルブム(※一部)を探せ!ができる楽しい仕様です。


本日より新連載を始めています。どうぞよろしくお願いいたします。

挿絵(By みてみん)

https://ncode.syosetu.com/n3162fk/

『少女と猫とお人好しダークエルフの魔石工房』

家族をなくした少女と、そんな少女の保護者になるダークエルフの美女のお話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ