表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

315/412

最終決戦! その一

 ついに、邪龍討伐遠征の当日を迎える。

 フォレ・エルフの村から王都まで、馬車と船、歩いて移動して半月ほどかかった。途中、迷ったり、寄り道もしたりしたので、かなりの長旅だったのだ。

 今回は、馬車と馬、船、アメリア、ステラで移動する。

 私が旅したルートは遠回りだったらしく、半月もかからないだろうとのこと。

 隊長の予想では、十日くらいではないかと。

 行き帰りだけでも二十日。今までの中でもっとも長い遠征だろう。

 気を引き締めていかなければ。


 結局、シエル様は戻ってこなかった。何かトラブルに巻き込まれているのかもしれない。心配だが、シエル様は大英雄である。アリタも一緒だし、きっと大丈夫だろう。今は、そう思っておく。

 正直なところ、邪龍退治のことで頭がいっぱいで、緊張していてガクブルと膝が震えている状態だ。


「皆、集まったか」


 隊長が騎士舎前の広場にやってきて、一人一人顔を見る。

 新婚旅行帰りの隊長は、ひげを剃ってキリリとしていた。もう、山賊とは言わせない。そんな気概すら、漂わせている。

 ベルリー副隊長も、髪を今まで以上に短く切っていた。遠征中はお風呂に入れない。今回は長期に亘る遠征だというので、思い切って切ったそうだ。ウルガスよりも短い。少年のような雰囲気を漂わせている。こういう人を、男装の麗人というのだろう。

 ガルさんは、冬毛でもふもふしている。短く切りそろえると痒くなるので、毛足が長い部分は三つ編みにしていた。尻尾もたくさんの三つ編みが束となっている。

 襟足の長い毛も三つ編みにしていて、おさげのように垂れていた。

 この、たくさんの三つ編みは、ガルさんの家族とスラちゃんが編んでくれたらしい。素敵ですねと褒めたら、スラちゃんが誇らしげに胸を張っていた。

 ウルガスはいつものウルガスだった。変に気負わず、自然体でいるところが彼らしい。

 ランスも同じく、いつもと変わらない。

 王都に来たばかりなのに、フォレ・エルフの村に帰りたくないとぼやいていた。

 ミルは私と同じ、三つ編みにしていた。いつもは頭の高い位置で結んでいる髪型だったが、「お姉ちゃんとおそろい!」だなんて可愛いことを言っていた。

 うちの妹が可愛くて、朝から困ってしまった。


 アメリアとステラは、鞄を背負い準備万端でいた。表情も凜々りりしい。

 アルブムは私の首元で襟巻きと化している。食料も準備していたようだが、ニクスの中に詰め込むしっかり者だ。

 エスメラルダは、私が持つ天鵞絨を敷いたカゴの中で優雅にくつろいでいる。いいご身分だった。


 そうこうしているうちに、ザラさんがやってきた。王族近衛このえ隊の白い制服がまぶしい。

 長い前髪は整髪剤で後ろに撫で付けてある。


「ザラさん、前髪上げるの初めてですよね?」

「ええ、そうなの。少し気合い入れすぎかしら?」

「いいえ! とっても素敵です」

「よかった!」 


 そんな会話をしていたら、隊長から注意される。


「おい、ザラ、リスリス、仕事場でいちゃつくな!」

「なっ!?」

「いちゃついてませんよ!」


 なんてことを言うのか。意識していなかったのが、周囲からはそう見えてしまったのか。なんだか、恥ずかしくなる。

 私とザラさんが照れている間に、リヒテンベルガー家の親子がやってきた。


「遅くなってごめんなさい!」


 リーゼロッテは侯爵様からもらった杖を持ち、服装は詰め襟の上着にズボンという男装姿でいる。長い遠征となるので、大正解の格好だろう。

 侯爵様も、幻獣保護局の制服ではなく、動きやすい分厚い外套がいとうに頑丈な長靴と、旅装束をまとってきたようだ。


 最後に、リオンさんが全身鎧姿でやってくる。


「ふむ。全員そろっているようだな。さっそく、出発しよう」


 リオンさんは空を指さす。

 何か、上空にあるのだろうか?


「あ、あれは!?」


 侯爵様が秒で反応を示す。


「え、なんですか?」

「竜よ!」


 リーゼロッテに言われて気づく。空の高い位置に、竜が旋回していることに。


「竜は王都の外に降ろす。そこから、乗り込んでくれ」

「え?」


 皆、目が点となる。リオンさんは一人、首を傾げていた。


「フォレ・エルフの村まで、竜で行くと言わなかったか?」

「い、言っていないです」

「ふむ」


 リオンさんは腰に手を当てて、胸を張った姿勢で言った。


「フォレ・エルフの村まで、竜で行くぞ!」


 ウルガスと私とリーゼロッテの「ええ~~!?」という声が響き渡る。


「まさか、馬と船で行くつもりだったのか?」

「そのまさかです」

「あのような辺境、何日かかると思っているのだ?」


 その辺境で育ったフォレ・エルフ一同――私とミルとランスは、遠い目をする。

 思えば、ずいぶんと遠い場所から来たものだと、しみじみしてしまった。


「竜で移動することに、何か問題はあるか?」

「あの、私は幻獣を連れているのですが……」


 馬並みの大きさのアメリアと、ステラである。竜に乗ることも、あとからついて行くのも難しいだろう。


「その点は問題ない。一番大きな竜馬車を持ってきたからな」

「竜馬車ですか?」

「ああ」


 竜馬車とは、竜が引く馬車のようなものらしい。魔法の浮力を使い、空の上を走るようだ。


「そんなものがあるのですね!」


 空を走るなんて、ドキドキする。


「他に、気になることはないか?」

「そうですね――」


 そうつぶやいた瞬間、背後から悲鳴が聞こえた。


「きゃあ! お父様が!」


 振り返ったら、侯爵様が鼻血を噴いて倒れていた。


「うわあ! 衛生兵、衛生兵~~!」

「衛生兵はお姉ちゃんでしょう?」

「そうだった!」


 ミルに指摘されて気づく。


 侯爵様は竜に乗れると聞いて、興奮して倒れてしまったらしい。

 前にも、こんなことがあったような……。


 侯爵様を介抱したのちに、出発することとなった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ