ザラと一緒の休日
メルとザラの恋愛要素を含んだエピソードです。苦手な方は飛ばしてください。
ミルと楽しく過ごした翌日は、ザラさんとのんびり過ごす。
久々に、お休みがかぶったのだ。
ミルは、アメリアやステラ、アルブム、ブランシュとノワールと一緒に、幻獣保護局に遊びに行った。邪龍退治に向けての、壮行会があるようだ。
ただの幻獣交流会なんじゃあ? と思わなくもなかったが。まあ、いい。
エスメラルダは部屋でのんびり眠っている。お世話は侍女さんに任せているのだ。エスメラルダがいるだけなのに、部屋には五名も侍女が付いていた。
それを、当たり前のように世話させているエスメラルダは、女王様のようだと思った。
今日はザラさんと一緒にクッキーを作ろうという話になった。
ここ最近、なんだかんだと忙しかったので、こうして二人きりでお菓子作りをするのは本当に久しぶりだ。
ただ、小麦粉の分量を一緒に量るだけでも楽しい。
バターたっぷりの生地に、森で拾った木の実を混ぜる。筒状に丸めて、ナイフで切ると型抜きのように生地に無駄な部分が出ない。
油を塗った鉄板にクッキーを並べ、熱したかまどの中でしばし焼く。しばらくすると、クッキーのいい匂いが漂ってきた。
「は~、幸せの匂いですね」
「本当に」
ザラさんと二人、かまどの前にしゃがみ込み、クッキーの焼け具合を確認する。
「もう少しかしら?」
「ちょっと分厚く切りすぎましたね」
「こういうクッキー、温かいミルクに浸して食べたらおいしいのよね」
「わかります! 実は、それを想定して、分厚く切ったんですよ」
「さすがメルちゃんね!」
木の実のクッキーは、なんにでも合う。ジャムやチーズを載せたり、スープと一緒に食べたりしてもおいしい。
「しょっぱいスープと甘いクッキー、無限に食べられる組み合わせなのよね」
「そうなんですよー!」
クッキーが焼けたらすぐに食べられるように、蜂蜜を垂らしたミルクを温めておく。
「メルちゃん、クッキーが焼けたわ」
「はーい! ミルクの準備もできました」
完成したクッキーをカゴに入れて、庭に出る。部屋で食べると使用人に囲まれてしまうので、ゆっくり食べたい時はもっぱら庭なのだ。
風が冷たく、肌寒い。そんな時は、温室に向かう。
お茶が楽しめるよう、温室にはテーブルと椅子があるのだ。
温室の中では、薔薇の花が育てられていた。中に入ると、濃い芳香に包まれる。
壁に沿うように植えられたつる薔薇に、立派な大輪の薔薇の苗、それから小さな薔薇もある。
「いい香りですね」
「ええ。本当に」
薔薇の温室は、エヴァハルト夫人が好んで世話をしていたらしい。体調を崩してからは、ザラさんがお世話をしていたようだ。
「せっかくだから、薔薇の花をテーブルに生けましょうか」
「いいですね!」
「とげには気を付けてね」
「了解です」
どの薔薇でもいいというので、深紅の薔薇をナイフで切った。
とげは先にそぎ落としておく。
「ああ、いい香りです」
花の中でも女王級の薔薇は、香りも豊かで見た目も美しい。天鵞絨のような照りを持つ花びらは、他の植物にはない特徴だろう。
ザラさんは白い薔薇を摘んできていた。
「ザラさん、白い薔薇が似合いますね」
「あら、そう?」
薔薇を手に持って佇んでいるだけで、すばらしく絵になる。私が大富豪だったら、絵師にザラさんの肖像画を依頼していただろう。
テーブルの上には花瓶が用意されていて、摘んできた薔薇を生けた。
「きれいです!」
「本当に」
しばらく二人して満足げに眺めていたが、ザラさんがあることに気づいた。
「やだ! ミルクが冷めてしまったわ。メルちゃん、ごめんなさい。私が薔薇を摘みたいだなんて言ったから」
「いえ、大丈夫です。温室の中は暖かいので」
そうだった。ここへは、クッキーを食べにきたのだ。
ザラさんが椅子を引いてくれたので、お礼を言って座る。
「では、食べましょうか」
「ええ」
ザラさんのレシピで作ったクッキーを頰張る。
「んん~~!!」
生地はサクサクで、バターの香りを口いっぱいに感じる。香ばしく炒られた木の実も、味わいを深めてくれた。このクッキーがまた、ミルクと合うのだ。
幸せなひとときを味わう。
「遠征前に、メルちゃんと過ごせてよかったわ」
「私もです。ザラさん、緊張していますか?」
「どうして?」
「なんか、さっきからそわそわしているように思えて」
「あ、そうなの。実は、メルちゃんのご両親に会うことを考えたら、緊張してしまって」
「邪龍じゃないんですね」
「邪龍よりも、ご両親に会うほうが緊張するわ」
「大丈夫ですよ。ごくごく普通の夫婦ですから」
「私が、メルちゃんをくださいって言っても、怒らないかしら?」
「言わないですよ。どうぞどうぞ、お好きに持って行ってくださいって言うと――って、ええ~~!?」
私が立ち上がって驚くので、ザラさんもビックリしていた。
「あの、ごめんなさい。イヤだった?」
「イ、イヤじゃ、ないです。あの、ザラさんのことは、両親への手紙に書いていて……一緒に料理を作ったり、裁縫したりする大事な人だと、報告しているので」
「そう、嬉しい。メルちゃん、ありがとう」
ザラさんは私の手を握り、笑顔を浮かべていた。
「でも、ご両親、私が男だと思っているかしら?」
「あ!」
そういえば、ザラさんが男性だということは書いていなかった。
「すみません……」
「いいの。報告してくれたことだけでも、嬉しいから」
なんだか、私まで緊張してきた。
両親はいったいどんな反応を示すのか。ドキドキだ。




