ミルと一緒の休日
明日は早起きして、日の出とともに庭で薬草摘みをしよう。
なんてことをミルは言っていたが、太陽が顔を出しても爆睡していた。
きっと、疲れているのだろう。私も、騎士になりたての頃はそうだった。
大きな寝台の上には、私とミル、アメリアにステラ、エスメラルダにブランシュ、ノワール、天蓋から吊された寝袋の中にアルブムが眠っている。
ニクスは寝台の柱にぶら下がっていた。あの体勢(?)が、一番落ち着くらしい。
幻獣と妖精てんこ盛りの寝台から起き上がる。同じように目を覚ましたのはステラ。次に、アメリアだ。
まだ眠っていてもいいと言うと、アメリアは上げた顎を再び布団に沈ませる。
ステラは目が覚めたようで、私についてきた。
「う~~ん、お姉ちゃん」
ミルはそんな寝言を呟き、エスメラルダに抱き着こうとしたが前足で拒否されていた。
エスメラルダの前足が頰に沈んでいる状態でも、ミルはすやすやと眠っている。
その間に、朝食を作ることにした。
顔を洗い、着替えをして外に出る。
シエル様が作った野外台所を借りることにした。ステラが薪を持ってきてくれる。
「助かります!」
『クウ!』
早起きステラは働き者だ。かまどの中に薪を並べ、着火用の枯れ葉まで用意してくれた。
朝食は、ミルが食べたいと言ったものである。
一品目は猪豚のあばら肉を骨ごと焼いた照り焼き。
朝から肉にかぶりつくのが夢だったらしい。私は遠慮しようかなと思ったが、朝から動いていたのでお腹が肉を受け入れる態勢を作っているような気がした。
塩コショウで下味を付けたあばら骨を焼いて、火が通ったら濃厚なソースを塗ってカリカリになるまで焼く。
香ばしい匂いがあたりに漂う。そのタイミングで、背後から声をかけられた。
『パンケーキノ娘ェ~、手伝ウコトハアル?』
出た、食いしん坊妖精アルブム。最近、手伝いをしたら料理を貰えることを学習したのか、よく手伝ってくれる。
「では、少し離れた場所に敷物を敷いて、そのあとミルを起こしてくれますか?」
『ワカッタ!』
あばら肉の照り焼きは完成したので、皿に盛りつける。
二品目は、カスタードトースト。
昨日の晩からカスタードクリームに浸していたパンを、バターを敷いた鍋で焼くだけ。
カスタードクリーム液でひたひたになったパンを、バターを溶かした鍋におく。
すると、じゅわ~~という音とともに、甘い匂いがふんわりと漂ってきた。
幸せの匂いである。
裏表、カリカリになるまで焼いて、粉砂糖を振りかける。甘酸っぱい木苺のソースを添えたら完成だ。
ここで、ミルが起きてきた。アメリアやブランシュ、ノワールもやってきた。
エスメラルダはまだかと思いきや、よくよく見たらアメリアの背中の上にいた。相変わらず、女王然としている。
「お姉ちゃん、ごめん! 寝坊しちゃった!」
「大丈夫だよ。よく眠れた?」
「うん。みんなふわふわで、温かくて、ゆっくり眠れた」
「それはよかった」
朝食ができていると言うと、ミルは目を輝かせていた。
「うわ~~、おいしそう!」
「温かいうちに食べよっか」
「うん!」
幻獣組の朝食は、侍女さんが用意してくれていた。
まずは、あばら肉の照り焼きから。牡蠣ソースと香辛料で作った甘辛いソースを全体に塗っている。ナイフとフォークという上品な食べ方はせず、骨を手掴みで持って豪快にいただく。
「んん、おいしーっ!!」
ミルは口の端にソースを付けながら、嬉しそうに食べていた。
私も、食べてみる。
肉はあっさりと、骨から外れた。ほどよい歯ごたえがあって、嚙むとじゅわっと肉汁が溢れ、かすかに甘みを感じる。ソースと肉の相性も申し分ない。
朝だからそんなに食べられないと思いきや、どんどんかぶりついてしまう。
「あ~~、本当においしい。やっぱり、お姉ちゃんの料理は世界一だ~~!」
ミルは私の料理を食べて育った。やはり、故郷で食べていた料理の味が一番なのだろう。
カスタードトーストは、古くなって硬いパンを食べさせるための苦肉の策だった。それが、兄弟姉妹には案外好評だったのだ。
実家の余り物のパンは丸一日浸していたが、王都で食べているようなパンは一晩漬けるだけでいい。
こちらは、ナイフとフォークで上品にいただく。
ナイフをいれると、パンがプルンと揺れる。まるで、プリンのように弾力があって、しっとりしている。
「はあ~~! これ、この味! 最高!」
これだけ喜んでくれたら、早起きして作った甲斐がある。ニコニコ笑顔で食べるミルを見ていたら、他の家族も思い出してしまった。
「みんな、元気かな」
「元気だよ、きっと」
一年ぶりに会えるのだ。なんだか、ドキドキしてしまう。
朝食後は、約束していた追いかけっこをすることとなった。
私は一年間、遠征で足腰を鍛えている。簡単には捕まらないだろう。
そう思っていたが──。
「お姉ちゃん! 捕まえた~」
「うっ!!」
あっけなく捕まってしまう。ミルの運動神経は、家族の中でも一、二を争う。
最下位を末っ子と争っていた私が、逃げきれるわけではなかった。
追いかけっこを一回しただけで、バテてしまった。
朝食後、寝転がったアルブムと同じく、横になってしまう。
そんな私に、濡れ布巾を額に置いてくれたのはステラ。アメリアは翼で心地よい風を送ってくれる。
エスメラルダは頭上から、見下ろすだけ。心配してくれているのだろう。
みんな、優しい。
ミルはブランシュ、ノワールと追いかけっこを始めた。
遊び相手がいて、本当によかった。




