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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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311/412

挿話 ルードティンク隊長とメリーナさんの結婚式

 リーンゴーン、リーンゴーン……と、礼拝堂の鐘が鳴り響く。

 将来を誓い合った男女が、婚礼を挙げているのだ。

 第二部隊の面々に加えザラさんは騎士隊の正装姿で参列している。リーゼロッテやリヒテンベルガー侯爵などもいた。

 今日は隊長と婚約者メリーナさんの結婚式。

 いろいろあったけれど、ようやく結婚できたようだ。

 隊長のお兄さんがまだ結婚していないので、まだまだ婚約期間は続きそうだと言っていた。けれど、予定を早めて結婚式を挙げたようだ。


 通常、兄弟がいた場合、生まれた順に結婚するのがここの国の習わしらしい。

 それを破って結婚したのは理由がある。邪龍退治の任務が入っているからだ。


 通常、任務に就いては家族といえども口外することは禁じられている。

 だが、邪龍退治に限り、家族に話してもいいという許可が出たようだ。


 というのも、前回、セレディンティア大国に邪龍が出現した際、討伐に行った騎士達は一人も生きて帰らなかったのだとか。


 大変危険な任務なのである。

 そのため、家族も覚悟を決めなければならないのだ。


 隊長はメリーナさんに、婚約を解消しようかと持ちかけたようだ。

 婚約関係というだけなら、メリーナさんに恩給は入ってこない。それどころか、婚約者を亡くした気の毒な女性というイメージが付いて回る。

 そうなる前に、関係を清算しようと言いだしたのだとか。

 そんなことを言われてしまったメリーナさんは、隊長の頬を思いっきり叩いたらしい。

 隊長が死んでも、他の男性と結婚する気はないと宣言したようだ。

 もしもそれで生きていけなくなったら、修道院に行くと。

 メリーナさんの意思は固かった。

 隊長はメリーナさんを路頭に迷わせないよう、結婚を決意したらしい。

 もしも邪龍退治で死ぬことがあったら、騎士隊から恩給が入ってメリーナさんの暮らしを支えてくれる。


 そんなわけで、周囲の理解を得て、結婚するまでに至ったようだ。


 隊長のお兄さんが結婚しないので、メリーナさんは随分と待つことになっていただろう。

 花嫁衣裳を着たメリーナさんは、本当に嬉しそうだ。

 騎士隊の正装を纏う隊長は、いつもの山賊めいた雰囲気は鳴りを潜めている。

 頼もしい上に、カッコよく見えた。


 挙式を終え、披露宴を無難にこなす。

 隊長の実家が開く宴は豪華絢爛。場違い感が半端ではない。

 リヒテンベルガー侯爵の背後に隠れ、事なきを得た。


 二次会は第二部隊主催の手作りパーティーだ。エヴァハルト邸を飾り立て、料理を用意した。


 ザラさんは二段重ねのケーキを焼き、私は軽く摘まめる料理をエヴァハルト家の料理人と共に用意した。

 キノコのキッシュに山兎のミートパイ、チーズオムレツに丸鳥スープ、魚グラタン、塩猪豚肉のピリカラソース添え、三角牛のワインソース煮込み、猪豚団子、鶏の串焼きなどなど。

 大変だったけれど、隊長とメリーナさんのために頑張った。


 ベルリー副隊長は第二部隊を代表して、新婚夫婦となった隊長とメリーナさんに贈り物を手渡す。

 お揃いのグラスだ。表面に花模様が描かれていて、ワインを注ぐと鮮やかな花が咲いたように見える。


 ウルガスは隊長への感謝の手紙を読んだ。


「ルードティンク隊長には本当にお世話になっていて、訓練中も容赦なく投げられていましたが、おかげで接近戦の受け身が上手くなりました。ありがとうございます」


 ……ウルガスよ、他に感謝するところはなかったのか。


 ウルガスがたどたどしく手紙を読んでいる姿を見たメリーナさんが、感動して涙を流していた。

 一方、隊長は山賊めいた鋭い視線でウルガスを睨んでいる。

 ガルさんに手紙を代筆してもらったほうがよかったのでは?


 ガルさんはスラちゃんと共に、手品を見せてくれた。

 カード当てや何もないところから花を出したり、箱の中のスラちゃんが突然いなくなったり、まったく仕組みが分からなかった。

 スラちゃんとガルさんの息の合った手品は、大いに盛り上がる。


 リーゼロッテは分厚い幻獣図鑑を手渡していた。

 隊長は迷惑そうにしていたが、メリーナさんは「いい暇つぶしになりそうですわ」と言って喜ぶ。

 リヒテンベルガー侯爵は、鷹獅子のぬいぐるみを贈っていた。幻獣保護局が作る幻獣グッズの最新作らしい。誇らしげな様子で、市場にはまだ出回っていないことを説明していた。

 メリーナさんは可愛いと大喜びだったが、隊長は微妙な表情で受け取っていた。

 相変わらず、正直な人だ。


 ミルは護身用の魔石セットを作ってきたようだ。


「まあ、綺麗な石ね」

「でしょう? これは爆発、これは炎上、これは爆風、こっちは洪水」

「これは、俺が預かっておく」


 ミルはとんでもない品を持ち込んでいたようだ。


 ランスは子どもの時に拾った石を磨き、二人に贈ると言っている。

 透明で、拳大の大きな石だ。


「なんだ、これは。水晶か?」

「ち、違いますわ。これは──ダイヤモンドの原石!」


 ええええ~~、ダイヤモンドだと?


 皆、集まってじっと見る。


「確かに、これはダイヤモンドだわ」

「間違いない」


 リヒテンベルガー親子もそうだと言うので、間違いなくダイヤモンドなのだろう。


「あの石、どこで見つけたのですか?」

「フォレ・エルフの森の、岩が剥きだしになっている崖っぽいところがあるだろう? そこだ」

「え、知らない場所です」

「まあ、俺以外、知らないかもな」


 もしや、フォレ・エルフの森にダイヤモンドが発掘できる場所があるのだろうか?

 だとしたら、一攫千金も夢じゃないだろう。


「こんなに大きなダイヤモンドの原石、本当にいただいてよろしいの?」

「ああ、別に暇つぶしに磨いていただけだから、好きにしろよ」


 他にもたくさん持っているのだという。今まで、換金したことなどなかったらしい。

 ホイホイ人にあげて、価値を分かっているのかいないのか。

 まあ、いい。ランスがしたいようにすればいいのだ。


 その後も、ワイワイと会話が盛り上がった。楽しい時間を過ごす。


 最後に、花嫁の花束を投げる儀式をするらしい。受け取った人は、次に結婚できるという、縁起担ぎの儀式のようだ。異国の地から伝わったものが、結婚式の行事として広がっていったという。フォレ・エルフの森にはないものなので、興味津々だ。


「では、行きますわよ~~!」


 メリーナさんは私達に背を向け、思いっきり花束を投げる。

 くるくると弧を描いて飛んでいった花束は──ベルリー副隊長が受け取った。


「特に、相手はいないのだが」


 困った表情を浮かべつつも、どこか嬉しそうだ。

 優しいベルリー副隊長は、私とリーゼロッテに花を分けてくれた。


 そんなこんなで、二次会は終了となる。


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