挿話 ルードティンク隊長とメリーナさんの結婚式
リーンゴーン、リーンゴーン……と、礼拝堂の鐘が鳴り響く。
将来を誓い合った男女が、婚礼を挙げているのだ。
第二部隊の面々に加えザラさんは騎士隊の正装姿で参列している。リーゼロッテやリヒテンベルガー侯爵などもいた。
今日は隊長と婚約者メリーナさんの結婚式。
いろいろあったけれど、ようやく結婚できたようだ。
隊長のお兄さんがまだ結婚していないので、まだまだ婚約期間は続きそうだと言っていた。けれど、予定を早めて結婚式を挙げたようだ。
通常、兄弟がいた場合、生まれた順に結婚するのがここの国の習わしらしい。
それを破って結婚したのは理由がある。邪龍退治の任務が入っているからだ。
通常、任務に就いては家族といえども口外することは禁じられている。
だが、邪龍退治に限り、家族に話してもいいという許可が出たようだ。
というのも、前回、セレディンティア大国に邪龍が出現した際、討伐に行った騎士達は一人も生きて帰らなかったのだとか。
大変危険な任務なのである。
そのため、家族も覚悟を決めなければならないのだ。
隊長はメリーナさんに、婚約を解消しようかと持ちかけたようだ。
婚約関係というだけなら、メリーナさんに恩給は入ってこない。それどころか、婚約者を亡くした気の毒な女性というイメージが付いて回る。
そうなる前に、関係を清算しようと言いだしたのだとか。
そんなことを言われてしまったメリーナさんは、隊長の頬を思いっきり叩いたらしい。
隊長が死んでも、他の男性と結婚する気はないと宣言したようだ。
もしもそれで生きていけなくなったら、修道院に行くと。
メリーナさんの意思は固かった。
隊長はメリーナさんを路頭に迷わせないよう、結婚を決意したらしい。
もしも邪龍退治で死ぬことがあったら、騎士隊から恩給が入ってメリーナさんの暮らしを支えてくれる。
そんなわけで、周囲の理解を得て、結婚するまでに至ったようだ。
隊長のお兄さんが結婚しないので、メリーナさんは随分と待つことになっていただろう。
花嫁衣裳を着たメリーナさんは、本当に嬉しそうだ。
騎士隊の正装を纏う隊長は、いつもの山賊めいた雰囲気は鳴りを潜めている。
頼もしい上に、カッコよく見えた。
挙式を終え、披露宴を無難にこなす。
隊長の実家が開く宴は豪華絢爛。場違い感が半端ではない。
リヒテンベルガー侯爵の背後に隠れ、事なきを得た。
二次会は第二部隊主催の手作りパーティーだ。エヴァハルト邸を飾り立て、料理を用意した。
ザラさんは二段重ねのケーキを焼き、私は軽く摘まめる料理をエヴァハルト家の料理人と共に用意した。
キノコのキッシュに山兎のミートパイ、チーズオムレツに丸鳥スープ、魚グラタン、塩猪豚肉のピリカラソース添え、三角牛のワインソース煮込み、猪豚団子、鶏の串焼きなどなど。
大変だったけれど、隊長とメリーナさんのために頑張った。
ベルリー副隊長は第二部隊を代表して、新婚夫婦となった隊長とメリーナさんに贈り物を手渡す。
お揃いのグラスだ。表面に花模様が描かれていて、ワインを注ぐと鮮やかな花が咲いたように見える。
ウルガスは隊長への感謝の手紙を読んだ。
「ルードティンク隊長には本当にお世話になっていて、訓練中も容赦なく投げられていましたが、おかげで接近戦の受け身が上手くなりました。ありがとうございます」
……ウルガスよ、他に感謝するところはなかったのか。
ウルガスがたどたどしく手紙を読んでいる姿を見たメリーナさんが、感動して涙を流していた。
一方、隊長は山賊めいた鋭い視線でウルガスを睨んでいる。
ガルさんに手紙を代筆してもらったほうがよかったのでは?
ガルさんはスラちゃんと共に、手品を見せてくれた。
カード当てや何もないところから花を出したり、箱の中のスラちゃんが突然いなくなったり、まったく仕組みが分からなかった。
スラちゃんとガルさんの息の合った手品は、大いに盛り上がる。
リーゼロッテは分厚い幻獣図鑑を手渡していた。
隊長は迷惑そうにしていたが、メリーナさんは「いい暇つぶしになりそうですわ」と言って喜ぶ。
リヒテンベルガー侯爵は、鷹獅子のぬいぐるみを贈っていた。幻獣保護局が作る幻獣グッズの最新作らしい。誇らしげな様子で、市場にはまだ出回っていないことを説明していた。
メリーナさんは可愛いと大喜びだったが、隊長は微妙な表情で受け取っていた。
相変わらず、正直な人だ。
ミルは護身用の魔石セットを作ってきたようだ。
「まあ、綺麗な石ね」
「でしょう? これは爆発、これは炎上、これは爆風、こっちは洪水」
「これは、俺が預かっておく」
ミルはとんでもない品を持ち込んでいたようだ。
ランスは子どもの時に拾った石を磨き、二人に贈ると言っている。
透明で、拳大の大きな石だ。
「なんだ、これは。水晶か?」
「ち、違いますわ。これは──ダイヤモンドの原石!」
ええええ~~、ダイヤモンドだと?
皆、集まってじっと見る。
「確かに、これはダイヤモンドだわ」
「間違いない」
リヒテンベルガー親子もそうだと言うので、間違いなくダイヤモンドなのだろう。
「あの石、どこで見つけたのですか?」
「フォレ・エルフの森の、岩が剥きだしになっている崖っぽいところがあるだろう? そこだ」
「え、知らない場所です」
「まあ、俺以外、知らないかもな」
もしや、フォレ・エルフの森にダイヤモンドが発掘できる場所があるのだろうか?
だとしたら、一攫千金も夢じゃないだろう。
「こんなに大きなダイヤモンドの原石、本当にいただいてよろしいの?」
「ああ、別に暇つぶしに磨いていただけだから、好きにしろよ」
他にもたくさん持っているのだという。今まで、換金したことなどなかったらしい。
ホイホイ人にあげて、価値を分かっているのかいないのか。
まあ、いい。ランスがしたいようにすればいいのだ。
その後も、ワイワイと会話が盛り上がった。楽しい時間を過ごす。
最後に、花嫁の花束を投げる儀式をするらしい。受け取った人は、次に結婚できるという、縁起担ぎの儀式のようだ。異国の地から伝わったものが、結婚式の行事として広がっていったという。フォレ・エルフの森にはないものなので、興味津々だ。
「では、行きますわよ~~!」
メリーナさんは私達に背を向け、思いっきり花束を投げる。
くるくると弧を描いて飛んでいった花束は──ベルリー副隊長が受け取った。
「特に、相手はいないのだが」
困った表情を浮かべつつも、どこか嬉しそうだ。
優しいベルリー副隊長は、私とリーゼロッテに花を分けてくれた。
そんなこんなで、二次会は終了となる。




