謎の客人 その四
竜で移動したら大変目立つので、アメリアとステラに跨って移動することにした。
リオンさんはアメリアに乗る。
自己紹介と、「背中に乗せていただくがよろしい?」という丁寧な挨拶をしていたので、アメリアは好印象を抱いているようだ。
「ふむ。鷹獅子に騎乗するのは初めてだ。ドキドキする。上手く乗れるだろうか」
普段、竜を乗り回している人が、何を言っているのだろうか。
やはり、アイスコレッタ家の人達は変わった感性を持っている。
それよりも、気になることがあるので質問してみた。
「あの、すみません。こういう時、リオンさんを王族に紹介したらいいのか、それとも騎士隊に紹介したらいいのか、わからないのですが」
「騎士隊は王族の指示を受けて動くから、王族のほうがいいだろう」
「了解です」
ならばザラさんを呼び出して、王太子に話を通したほうがいいだろう。
本当に邪龍が復活するならば、大変なことになる。
「では、行きましょう」
「ああ、頼むぞ」
アメリアとステラに、なるべく速くお願いしますと言った。
すると、今までにない速さで森を駆け抜けてくれる。
「思っていたよりも、かなり早い!」
舌を噛んでしまった。危ないので、黙っておく。
あっという間に、王都を象徴する建物王城へと辿り着いた。
守衛所で、ザラさんを呼び出す。
「すみません、王太子殿下の近衛部隊に所属している、ザラ・アート・エヴァハルトさんを呼び出していただきたいのですが」
「あ~、またあんたか」
「……」
守衛所の中年騎士が、私をニヤニヤした目で見る。
以前、ザラさんが騎士隊の腕輪を忘れた際に、届けたことがあったのだ。その際に、私はザラさんの幼妻扱いをされてしまった。
既婚騎士が腕輪を忘れ、妻が届けることは騎士隊あるあるらしい。しかし、私達はそういう関係ではない。否定しても、聞いてくれないのだ。
「あの、一大事ですので、今すぐ呼び出してください」
「いってらっしゃいのチューでも忘れたのか~?」
「は!?」
そんなことなどしていない。そう反撃しようとした瞬間、リオンさんが高速で守衛所のおじさん騎士の胸倉を掴み、持ち上げる。おじさんのつま先が、浮いていた。
「う、うぐう!」
「ごちゃごちゃうるさいぞ。セレディンティア大国最強の騎士、リオン・アイスコレッタが緊急事態を伝えに来たと、さっさと報告しろ。それだけだ」
「ひ、ひゃい」
リオンさんから解放された守衛所のおじさん騎士は、面会申請用紙を書く前に走っていってしまった。
ザラさんは五分で走ってやってきた。
「メルちゃん!! アイスコレッタ家の人が来たって本当!?」
「え、ええ、まあ……この通り」
全身鎧のリオンさんを見て、ザラさんはぎょっとする。
「私はセレディンティア大国の第一騎士、リオン・アイスコレッタである。この国の危機を救いにやってきた。まずは、王太子殿下にお目通りを願いたい」
「ええ、わかりました。こちらへ」
リオンさんは「さあ、ゆくぞ」と言って、私の手を握って歩きだす。
やはり、私も同行しなければならないようだ。
ザラさんが颯爽と歩くあとを、リオンさんと一緒に付いていく。
夜会の時に王城へ入ったことがあるが、王太子殿下の拠点となる階層は赤い絨毯が敷かれていて、天井が高い。高そうな壺や肖像画が飾られてあったので、うっかり壊さないように慎重な足取りで進む。
王太子殿下の執務室は、長い廊下の突き当りにあった。
重厚な二枚扉に、見張りの騎士が二名配置されていた。二人共精悍かつ筋肉質で、熊のようにガタイがいい。なんていうか、王族付きの騎士は顔がよくないと入れないというのは、都市伝説だったのか。
と、そんなことを気にしている場合ではなかった。
ザラさんがボソボソと何かを囁くと、扉はすぐに開かれる。
一歩、足を踏み入れると、毛足の長い絨毯に驚く。
大きな窓があり、太陽の光が差し込む前に執務机と椅子が置かれていた。
そこに腰かけるのが、王太子殿下ルードルフ様。御年四十で、亡くなった最初の王妃様の忘れ形見でもある。
立派な髭をたくわえ、騎士のように筋肉質だった。
なんていうか、世間の王子様のイメージからかけ離れている。
リオンさんは兜を脱ぎ、その場に片膝を突く。ザラさんと私も、同じように頭を低くした。
「セレディンティア大国、第一騎士、リオン・アイスコレッタである。王太子殿下にお会いできて、至極光栄だ」
「頭を上げよ。アベラルド王国のルードルフだ。私も、会えて嬉しいぞ」
王太子殿下とリオンさんが、握手を交わす。
「ちなみに、アイスコレッタ閣下にはまだ一度もお会いしていないが」
「祖父が失礼した」
「いや、いい。正式訪問でないゆえ。ただ、昔から憧れていたから、一度会いたいと思っているのだが」
「次に会った時に、祖父に伝えておこう」
「感謝する」
長椅子に腰かけ、本題へと移る。私とザラさんはリオンさんの背後に立ち、待機していた。
「なるほど。邪龍復活か……」
「一刻も早く、討伐が必要になるかと」
「そうだな」
「それで、私の背後にいるフォレ・エルフ、メル・リスリスに案内を頼もうと思っている」
「ほう?」
いきなり話を振られてしまった。騎士隊の敬礼をしながら、名乗ってみる。
「エノク第二部隊衛生兵、メル・リスリスであります」
「ほう? お主は第二部隊の衛生兵だったか」
「え、ええ」
「いやな、各所で噂になっておって」
どんな噂かなんて、恐ろしくて聞くことはできない。
「だったら、討伐任務には第二遠征部隊を同行させるようにしよう」
「あまり、大人数を連れて行かないほうがよいのだが」
「安心されよ。第二部隊は少数精鋭。ああ、そうだ。そこなエヴァハルトも、第二部隊出身だったな」
「はい」
「では、お前も同行せよ」
「仰せのままに」
なんと、ザラさんまでも邪龍退治に同行することとなったようだ。




