新しい隊員 その七
空の上から見張りをしているアメリアにも、休憩を言い渡す。
持ってきた果物を、おいしそうに食べていた。
船でお留守番しているステラにも、果物を置いてきたけれど食べているだろうか。
『パンケーキノ娘、見テ! 木ノ実、見ツケタ~!』
アルブムくらい食いしん坊だと、何も心配いらないのだけれど。
ほどよくお腹が満たされたところで、調査を再開。
スラちゃん製のロープに引っ張られながら、岩から岩へと移動する。
そしてようやく、海岸沿いの開けた場所にある密漁者のアジトに到着した。
物置小屋のような建物で、洗濯物が干してあったり、簡易的なかまどがあったりと、生活感がある。
「わっと」
余所見をして歩いていたら、地面の突起に足を引っかけてしまった。
石を踏んだと思いきや、じゃりっという音に違和感を覚える。
「これは──」
ベルリー副隊長が手にしたのは、二枚貝の殻。
地面に埋まっていたようで、剥ぐように拾い上げていた。
「もしかして、密漁した貝ですか?」
「そうみたいだ」
よくよく見てみれば、足元には貝の殻がたくさん埋まっていた。
「これ、ぜんぶ密漁した貝、ですよね?」
「だな。おそらく、ここで貝を加工して、どこかに出荷しているのだろう」
「ええ~~……」
貝を拾い、証拠品として持ち帰ることにした。
それにしても、なんてことをしでかしてくれるのだろうか。
王都周辺の海域は漁師さんが漁獲量を制限したり、貝を育てて海に放ったりと、生態系を壊さないようにしている。
だから、特定種類の魚介類には漁業権があるのだ。
ランスは興味津々とばかりに、ベルリー副隊長の説明を聞いていた。
「しかし、漁業権か。面白い仕組みを考えるな」
「フォレ・エルフの村では、ありませんでしたものね」
けれど、漁業権に似た約束はある。
「暗黙の了解で、薬草や木の実は採り過ぎないように、と教わって育ちました」
「採り過ぎたら、小動物の餌がなくなるからな」
そうやって、皆が皆、約束を守ることにより、自然と共栄共存してきた。
それを破る密漁者は、絶対に赦せない。
隊長は小屋の窓を覗き込む。
「人の気配はないみたいだな」
内部を調査するらしい。
扉の持ち手を捻ったが、鍵がかかっていた。
「仕方がないな」
諦めるのかと思いきや、隊長は思いっきり扉を蹴った。すると、鍵が開く。
扉を壊さずに蹴り開けるとは。
ランスは口をぽかんと開いて驚いていた。
「な、なんだ、ありゃ。どうやったら、壊れずに扉が開くんだ!?」
「天性の才能なんでしょうね」
隊長が山賊じゃなくてよかったと、改めて思ってしまった。
さっそく、内部を覗き込む。
「こ、これは!?」
内部は瓶詰された貝がたくさん並んでいた。布団や枕といった、生活必需品も置いてある。
やはり、密漁者はここで魚介類の加工を行っていたようだ。
証拠が揃ったところで、あとは密猟者を迎えるばかりである。
いったん外に出て、木々のかげに身を隠す。
一応、現行犯逮捕が望ましい。
「おい、ランス。密漁者が来ても、一人で飛び出すなよ」
「わかっているよ」
「ああ?」
「……わかりました。了解です。一人で飛び出しません。これでいいか?」
「あとの三言が余計なんだよ」
ランスの軽口は、簡単に治りそうにない。まあ、怒られているうちに、学習するだろう。
ウルガスは注目がランスにばかりいくので、ホッとしているようだった。
「ウルガス、油断しないほうがいいですよ。隊長は、目敏いので」
「ええ、明日は我が身ですよね」
──ランスの振り見て、我が振り直す。
私も胸に深く刻んでおこう。
密漁者を待つ間、軽食を食べる。
乾燥果物入りのクッキーだ。これが、地味にお腹にたまる。
クッキー生地に乾燥果物の甘酸っぱさが染み込んでいる。時間を置けば置くほど、おいしくなるのだ。
アメリアにも、しばし休憩してもらう。
その間、ランスの魔眼で遠くを見るようにお願いしていたら──。
「おい、密漁者らしき船が戻ってきたぞ」
ようやく、戻ってきたようだ。
人数は六名ほどで、二十歳から三十歳くらいの年齢層らしい。
手には、銛や網などを持っているという。武装はしていないようだ。
「ここに来るまで、二十分くらいか」
ランスの言葉通り、二十分後に密漁者は船を桟橋に付け、上陸してきた。
網の中に入った貝が、大量に持ち込まれている。
「いやはや、今日も大漁、大漁!」
「なんでこんなにいるのに、港町の漁師は獲らないんすかね」
「本当だよ」
べらべらと勝手なことを喋っている。
隊長が拳を握ったのを、見逃さなかった。なるべく穏便に解決してほしいけれど、どうなることやら。
「先生のおかげで、海兵部隊も敵じゃないっすわ」
「先生さまさまだ!」
密漁者たちは、「先生」と呼ぶ人物を振り返りながら言う。
先生とは──小柄で顔を覆うように髭を生やした、ドワーフ族のような男性だ。
ただ、ドワーフっぽいだけで、本物のドワーフではないけれど。
恰好はシャツにズボンと、他の漁師と変わらない。
手には、木の枝のような魔法の杖を握っている。
「俺の幻術魔法で、海兵部隊なんぞイチコロだ。びびって、近づいてこないだろうが」
「さすがっす」
「世界最高の魔法使いっすわ」
やはり、ランスの言っていたとおり、幻術魔法の使い手だった。
力技でなんとかできる相手ではない。
私達の連携が、犯人逮捕の決め手となるのだ。
隊長が左手を上げる。
作戦実行の合図だった。




