メル、社交界デビュー!? その十六
あのあと、騎士隊の事情聴取をこってりと受けた。
ランスも騎士隊に連れ込まれたが、別の部屋だったのでどうなったのかわからない。
ザラさんは魔法を使ったので、一週間の謹慎処分になってしまったようだ。
「ザラさん、私のせいで……ごめんなさい」
「これくらい、なんてことないわ。それに今は、エヴァハルト家が護ってくれるから、謹慎だけで済んだのよ」
通常、街中での魔法の発動は禁じられている。
しかし、ザラさんの使ったものは、正確に言ったら魔法ではない。幻獣より授かった、祝福のようなもの。
親衛隊に入る前にきちんと申請していたようで、大ごとにならずに済んだようだ。
「でも、あれは内緒だって言っていましたよね?」
「正直、呪文が死ぬほどダサくて、恥ずかしいんだけれど、これを弱みにしたくなかったから」
魔法ではないため、魔法研究局からの追及は逃れたらしい。
しかし、幻獣からの祝福ということで、今度は幻獣保護局に情報提供することになったようだ。
「た、大変ですね」
「まあ、そうね。でも、ブランシュが王都で平和に暮らせるのは幻獣保護局のおかげだから、恩返しだと思って頑張るわ」
ザラさんは侯爵様を嫌っていたようだけれど、心境の変化があったようだ。
侯爵様といえば──身元保証人としてわざわざやってきたので心底驚く。一応、義理の親子なのでおかしなことではないけれど……。
怒られると思いきや、事情は聴いていたのか私の肩をポン! と叩くだけだった。
侯爵様の肩にアルブムがいたので、ちょっぴりホッとする。
『パンケーキノ娘ェ、帰ロウ』
「ええ、そうですね」
アルブムを胸に抱き、リヒテンベルガー侯爵家に帰った。
◇◇◇
帰宅後、リーゼロッテに今日あったことの報告をする。
「あの、リーゼロッテ、先ほど、ザラさんと再会しまして」
「それで、結婚の確認はした?」
「し、しました」
「あら、意外」
「え?」
「あなたには、できないと思ったから」
ランスがいなかったら、聞けなかったかもしれない。そういう意味では、感謝しかない。
「あなたが言わなかったら、わたくしが聞いていたわ」
「それはそれは……」
自分で聞くことができて、よかった。心から思う。
「何か、きっかけみたいなことはあったの?」
「ええ。フォレ・エルフの森に住む元婚約者がやってきて」
「今更、何をしにきたの? 王都観光?」
「いいえ、婚約破棄は誤解だったって言いに来たようです」
「ふうん。それで喧嘩になったと」
「はい」
ザラさんが来てくれたおかげで、無事解決となった。
「もう、大丈夫です」
「メル、まったく大丈夫じゃないわ。そういう相手とは、きちんと話し合ったほうがいいわよ」
「え、でも、話すことはありませんでしたし」
「よくよく考えてみて。元婚約者は、納得して別れた?」
「……」
別れ際に見たランスは、悔しそうな表情をしていた。
彼はこのままフォレ・エルフの森に帰る、素直なエルフじゃない。
「たぶん、また、私のところに来そうな気がします」
「でしょう? 納得するまで話し合ったほうがいいわ」
「ええ」
しかし、私一人ではまたこの前のような言い合いになるだけだろう。
「誰か、話し合いの場にいてもらうよう、お願いしなきゃいけないですね」
「ザラ・アート……今はザラ・エヴァハルトね。彼はダメよ?」
「わかっていますよ」
ザラさんがいたら、ランスは問答無用で喧嘩をふっかけるに違いない。短気な元婚約者のことは、よくわかっている。
しかし、頼りにできる大人なんて、そんなに多くない。
頑張ってお願いできるのは、ベルリー副隊長くらいだろう。かなり勇気を出したら、隊長にもお願いできる気がするけれど……。
考えたら、胃が痛くなる。心を落ち着かせるため、紅茶を飲んだ。
「お父様に、お願いするわ」
口の中の紅茶を、すべて噴いてしまった。
幸い、リーゼロッテにはかからなかったが、白いテーブルクロスにシミを作ってしまった。
「やだ、メル、何をしているの?」
「ご、ごめんなさい」
侍女さん達が、手早くテーブルクロスを回収し、新しいものをかけてくれる。
あっという間に、元通りになった。
「メルの幼馴染が生意気な人だったら、話をつけられるのはお父様が適任だと思うの」
「そ、そう、ですね」
リーゼロッテの行動は早かった。侍女に頼んで侯爵様に事情の説明と話し合いへの同席のお願いを言伝すると、すぐに「同席するのに問題はない」という返答があった。
「メル、よかったわね」
「嬉しいです。とても……」
なんだか、とんでもない事態となってしまった。
しかし、きちんと解決しないと、この先ランスはしつこく絡んでくるのかもしれない。
大事なことだろう。
◇◇◇
ランスは騎士隊が保護しているらしい。世界的にも貴重なエルフ族だからか。
侯爵様が、ランスを家に招いたらしい。翌日、一緒に食事をすることとなった。
私は、たくさんの侍女さんとリーゼロッテに囲まれる。
「──って、なんでランスしか来ないのに、着飾る必要があるのですか?」
「あるわ!」
なんでも、ランスは一年経っても私が垢抜けず、変わっていないから以前と同じように話しかけてきたのかもしれないと。
「あなたはメル・リスリス・リヒテンベルガーなの。それを今日、知らしめるのよ」
「な、なるほど」
そんなわけで、私はお姫様のように煌びやかなドレスを着せられることになった。
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