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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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メル、社交界デビュー!? その十二

 幻獣たちの視線が、一気に集まっているような。

 アメリアやステラを見ているというよりは──……。


「なんか、幻獣たち、メルのほうをじっと見ている気がするわ」

「リーゼロッテもそう思います?」

「ええ。しかも、熱視線よ」

「エスメラルダを見ているわけじゃないですよね?」

「違うと思うわ」


 なぜ、そんなにも熱心に見つめているのか。

 敵対心はないと安心させるために、微笑みかけてみた。

 すると、思いがけない展開となる。


「え?」

「わっ!」

「なっ、どうしたの?」


 今まで大人しかった幻獣がなんと、私のもとに集まってきたのだ。


「えっ、えっ、どうして!?」


 契約しているとはいえ、幻獣が一気に迫ってくる様子は恐怖だ。


「何が起こったの?」


 リーゼロッテはそんなことを言っていたが、表情が完全に笑顔である。

 喜んでいる場合ではないのに。


「リーゼロッテ! メル!」


 侯爵様が、私達の名前を呼ぶ。

 初めて、名前で呼ばれたかもしれない。


 侯爵様は私達の前に立ち、両手を広げて迫りくる幻獣から守ってくれた。


 やだ……侯爵様、すごくカッコイイ。


 しかし、しかしだ。

 侯爵様が立ちはだかっても、幻獣たちの勢いは止まらない。契約者も止まるように命じていたが、聞く耳持たずだ。

 このままでは、侯爵様が大好きな幻獣にかれてしまう。

 せっかくの幻獣パーティーなのに、負傷者が出たら大変なことになる。

 リーゼロッテだって、社交界デビューの思い出を悲しいものにしたくはないだろう。

 ええい、イチかバチかだ。

 私は息を目一杯吸い込んで、叫んだ。


「わ~~、止まってください!!」


 すると、幻獣たちの動きがピタリと止まった。

 どうやら、言うことを聞いてくれたようだ。


「よ、よかった」


 安堵したら、その場に座り込んでしまった。


「メル、大丈夫!?」

「え、ええ」


 幻獣たちが円になって、私をじっと見つめていた。


『クエクエ、クエクエクエ』

「え!?」


 なんと、以前の任務で保護した幻獣が私にお礼を言いに行こうとしたら、他の幻獣も便乗してやってきただけらしい。


「お礼を言いに来たって……」


 一応、その場に侯爵様とリーゼロッテもいたが。

 幻獣たちは、チラチラと私を見ていた。


「え~っと、でしたら、一頭ずつ、お願いします」


 やはり、一度にやってくると迫力がある。

 アメリアが幻獣たちに通訳してくれた。


『クエクエ、クエクエクエ、クエクエ』


 アメリアが説明すると、幻獣たちは一列に並びだす。


「不思議ね……。幻獣がメルに、こんなに懐くなんて」

「本当に、どうしてこうなった、ですよ」


 先頭に並んでいた幻獣がやってくる。あれは、二足歩行のナス状幻獣、恋茄子だ。

 大きさは私の膝よりも小さいので、そこまで迫力はない。

 つぶらな瞳に、3の形をした口が特徴だ。

 テテテと走って来て、ぺこりとお辞儀をしてきた。


『ナッスゥ……』

『クエクエ、クエクエ』


 アメリアが通訳してくれる。助けてくれて、ありがとうと言っているのだとか。 

 恋茄子はなんだかもじもじしていた。


『クエクエ、クエ』

「あ、そうですか」


 なんと、私と抱擁したいらしい。別に構わないので、手を広げる。

 すると、恋茄子はヒシッと私に抱き着いてきた。


『キュッフ!!』


 ここで、エスメラルダの毛が逆立つ。恋茄子との抱擁が嫌だったらしい。

 エスメラルダがいることを、すっかり忘れていた。


 私達を取り囲んだ参加者たちは、エスメラルダの存在に驚いていた。

 侯爵様が誇らしげに説明する。


「あれは、魔石獣だ。私の義娘むすめが、保護した」


 侯爵様が胸を張って言うと、拍手が起こる。

 なんだか気恥ずかしくなった。


 その後も、幻獣と挨拶を交わし、一時間後に解放された──かと思えば、今度は参加者に囲まれる。


「鷹獅子に黒銀狼、それから魔石獣と契約しているなんて」

「素晴らしい」

「それに、契約した幻獣も、あなたと話したがっているなんて、素敵だわ」

「え、ええ……まあ……」


 主役はリーゼロッテなのに、どうしてこうなった。

 恐る恐るリーゼロッテのほうを見る。侯爵様と並んで立ち、誇らしげな表情でいた。

 なんだその、「うちの子すごいでしょう?」みたいな顔は。

 ……それでいいのか、本日の主役よ。


「あ、そ、そういえば、おもてなしのスープを、リーゼロッテと準備したんですよ~」

「まあ!」

「楽しみだわ」

「どんなスープかしら」


 いったん、人の輪から離脱する。


「リーゼロッテ、スープの用意をしましょう」

「ええ、そうね」


 用意をすると言っても、そこまですることはなかった。

 侯爵様が目配せすると、温められたスープが運ばれる。

 ほかほかの湯気があがる鍋を見た参加者たちは、ワッと嬉しそうな声をあげてくれる。


「メル、今日は寒いから、ちょうどよかったわね」

「そうですね」


 驚いたことに、会場に用意された料理は一口で食べられるような軽食ばかりだった。その中に、温かい料理はない。

 外で行われるパーティーは、だいたいこんな感じなのだとか。


 リーゼロッテと一緒に、スープを配る。


「ああ、温かいわ」

「ホッとする味だ」

「体が芯から温まる」


 喜んでもらえるかドキドキだったけれど、どうやら好評のようだ。

 リーゼロッテと目と目を合わせ、微笑み合う。


 幻獣パーティーは和やかな雰囲気で終わると思いきや──最後の最後でとんでもないことが起こった。


「んん?」

「メル、どうしたの?」

「何かが、飛来しているような?」

「え? 鳥?」

「いいえ、鳥では、ないような。なんでしょうか……?」


 空に浮かぶ黒い点が、だんだんとはっきりしてくる。

 大きな翼に、長い首、爬虫類を思わせるシルエット。


「あ、あれは!?」


 ここで、参加者たちも気づいたようだ。

 侯爵様は──飛来してくる生物を見た瞬間、バタリと昏倒してしまった。


「きゃあ! お父様!」

「こ、侯爵様、そんなところで倒れたら、しもやけになりますよ」


 衛生兵、衛生兵~~と叫んだが、自分が衛生兵だったことを思いだす。

 侯爵様の上半身をリーゼロッテと一緒に起こし、膝枕してあげた。


 ここでようやく、空からやってきた存在ものが侯爵家の噴水広場に降り立った。

 大きなそれは、ドシンと大きな音を鳴らし、着地した。

 飛来物の上には人が乗っていた。

 立ち上がり、片手をあげて挨拶する。


「待たせたな、リスリスよ。我が自慢の竜を、連れて参ったぞ!」

「あ……はあ」


 なんと、大英雄シエル様が、竜を連れてやってきた。

 全身白の、美しい竜だ。

 当然、幻獣パーティーの参加者たちは大混乱となる。

 そういえば昨日、シエル様を幻獣パーティーに誘ったのだ。てっきり、単独かアリタと一緒に来ると思っていたのに……。

 ここで、侯爵様が目を覚ます。


「り、竜が、竜が私の目の前に……これは、夢か!?」

「侯爵様、夢じゃないですよ」

「ああ、ああ……竜が、私の目の前に、竜が……。我が人生に……悔い……なし……」


 再び、侯爵様はガクリと意識を失う。


「お父様~~!! お父様~~!! わたくしより先に死なないで~~!!」

「リーゼロッテ、侯爵様は死んでないですよ!」


 侯爵様を膝枕しながら、天を仰ぐ。

 本当に、どうしてこうなった。


 こんな感じで、幻獣パーティーはドタバタしたまま幕を閉じた。


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