メル、社交界デビュー!? その十
大量に作ったスープは、屋敷のみんなに味見してもらうことにした。
まず、幻獣パーティーのおもてなしの品として出すことを前提に、気になった点を意見してもらう。
「リーゼロッテお嬢様と、メルお嬢様が作られたのですか!? これは………………世界一おいしいスープです!!」
一口食べただけで大絶賛だ。他の使用人も、ほぼ似たような反応を示す。
まあ、侯爵家のお嬢様が作った料理なので、気を使わせてしまったのかもしれない。
今度は、シエル様とアリタに持って行ってみる。
二人は庭に立てた小屋の前で、焚火でマシュマロを炙っていた。
「む、すろーらいふで作ったスープだな?」
「ええ、まあ」
すろーらいふの定義は謎だが、以前シエル様が外で料理することをすろーらいふと呼んでいたので頷いておいた。
さっそく、食べてもらう。
「あの、率直なご感想をお願いします。幻獣パーティーで、お客様におもてなしの料理としてお出しするものですので」
「ふむ。わかったぞ」
シエル様は胡坐をかいて座る。震える手で、スープを手渡した。
「アリタもどうぞ」
『わ~い、ありがとう!』
なぜか、アルブムまで匙を手に順番待ちをしていた。どうせ余っているので、分けてあげることにする。
『ワ~イ! パンケーキノ娘、アリガトウ』
「いえいえ。火傷しないように食べてくださいね」
『ウン、ワカッタ』
みんなが食べる様子を、リーゼロッテまでも緊張の面持ちで見ていた。
ドキドキしながら、反応を待つ。
『あ、これ、美味しい! 蕪がホクホクしていて、あま~い!』
アリタには高評価を貰う。
『本当、オイシ~イ!』
アルブムは食べるのは二杯目だけれど、おいしいと言ってくれた。
そして、シエル様は──?
「ふむ、うまいぞ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。料理としてもうまいが、おもてなしとやらは心を感じるものだからな」
「心、ですか?」
「そうだ。たとえば、このスープは一杯金貨三枚とする」
「高っ!」
「たとえ話だ」
「す、すみません」
大貴族でもあるシエル様の価格設定に慄く。きっと、庶民的感覚を想像して、値付けしてくれたに違いない。
金貨三枚なんて、大金だけれど。
まあ、いい。話の続きを聞く。
「頼んだスープが届いたあと、店員がごゆっくりどうぞと言うだろう?」
「はい」
「その言葉こそが、おもてなしだ」
「!」
そっか、そうなんだ。
おもてなしというのは、相手を思う『心』なのだ。
もちろん、スープがおいしいことも前提にあるだろうけれど。
「自信を持って、出すといい」
「はい、ありがとうございます」
よかった。私達のスープは、これでいいんだ。
リーゼロッテは胸に手を当て、ホッと息を吐いている。私も、安堵することができた。
ちなみに、残りのスープはアルブムとアリタが食べてくれた。
非常にありがたい。
◇◇◇
そんなわけで、幻獣パーティー前日となる。
定時になったら全力疾走でリヒテンベルガー侯爵家に移動し、リーゼロッテと二人でスープ作りを行った。
やはり、三十人分のスープを作るのは一苦労だ。
スープを作るリーゼロッテの横顔は真剣で、キラキラしているように見えた。
「よし、できた!!」
スープはなんとか完成した。あとは、幻獣パーティーを迎えるばかりだ。
夜、用意された部屋で眠る。
疲れていたのか、目を閉じた途端に意識がなくなった。
翌日、ついに幻獣パーティー当日だ。今日は、どんな幻獣がやってくるのか。
アメリアとステラは、朝から身支度のためお風呂に入っていた。
エスメラルダは侍女さん達に囲まれて、丁寧にブラッシングされている。最近、ああやって私以外の人が触れることを許してくれる。アメリアやステラが侍女さんにお世話されて、ピカピカになっている様子を見て、頼んだら綺麗になれることを覚えたのだろう。
ほのぼの見ていたら、私にまで声がかかる。
「メルお嬢様、ドレスを用意いたしましたので」
「お、おお……!」
どうやら、私も綺麗にしなくてはいけないらしい。
引きつった表情を浮かべていたら、エスメラルダからありがたいお言葉を受ける。
『キュキュッ、キュキュキュ!』
「ええ、そうですね」
エスメラルダは「侍女に頼んだら、うんと綺麗になるから、してもらったほうがいい」と言っていた。
正論なので、身支度はお任せすることにした。
「本日は、こちらのドレスにしますか、それともこちらにしますか?」
侍女さんが持ってきてくれたのは、黄色のドレスと、薄紅色のドレスだ。
どちらも可愛いけれど、果たして私に着こなせるのか。
「ええっと………………お任せします」
そんなわけで、侍女さんのお任せコースという身支度が開始となった。
選ばれたのは、黄色のドレスだった。
髪型は左右を三つ編みで輪を作って、リボンで結んでくれた。
化粧もしてもらい、仕上げに真珠のティアラを被せてもらった。
まるで、お姫様である。
身支度が整ったら、アメリアとステラがやってくる。
二人共、お嬢様みたいなボンネットの帽子を被り、絹のリボンを巻いてもらっていた。
「アメリア、ステラ、とっても可愛いですよ!」
『キュ!!』
アメリアとステラの背後から、エスメラルダの声が聞こえた。
二人と同じく、エスメラルダも帽子とリボンを装着している。
大型幻獣が前にいたので、姿が見えていなかったのだ。
「わっ、エスメラルダも可愛いです」
『キュ!』
エスメラルダは可愛くて当然! みたいな感じでツンとおすまししている。
そういうところが、可愛いんだよね。




