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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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メル、社交界デビュー!? その五

 ザラさんは有給を使い、エヴァハルト夫人のもとに行くらしい。そこで、山猫イルベスのノワールと正式に契約を結び、養子縁組もするようだ。

 一週間ほど、離れ離れとなる。


「行くのはきっと明後日になるわ。急だけど、クロウからはずいぶんと前からエヴァハルト家の養子縁組を受けるようにと言われていたの」

「そうだったのですね」


 任務に穴を開けるわけにはいかないと、問題を先延ばしにしていたようだ。


「エヴァハルト夫人も、ブランシュに会いたがっていたから、ちょうどいいと思って」

「そうですね」


 山猫大好きなエヴァハルト夫人だ。きっと喜ぶだろう。その分、ノワールとの別れは辛いだろうけれど。


「たぶん、私やリーゼロッテがいない間は、任務は入らないと思うわ」

「なんか、隊の決まりが変わったみたいですね」

「ええ」


 少数部隊でも、六名以上いないと遠征任務を受けてはいけないという決まりができたようだ。

 第二遠征部隊と同じような少数精鋭部隊をいくつか作った際に、できたものらしい。


「道中、気を付けてくださいね」

「ええ。ありがとう」


 と、このように、ザラさんは新しい一歩を踏み出そうとしている。

 私はそばで応援するばかりだ。


 ◇◇◇


 久々にリーゼロッテがやってきた。今日、除隊届を出すらしい。

 それから、旧エヴァハルト邸から実家に戻ることも決めたのだとか。

 一応、アメリアやステラの世話を頼むために、使用人は残してくれるらしい。ありがたい話だ。


「それにしても、リーゼロッテがいなくなると、寂しくなります」

「そうね。わたくしも、寂しいわ」


 リーゼロッテが第二遠征部隊に入隊して、一年経った。その中で、いろんなことがあった。


「私達、出会いは最悪でしたね」

「そうね。そうだったわ」


 アメリアを保護したあと、私達第二部隊は幻獣保護局の尋問を受けた。

 その中で隊長がキレて大暴れ。みんな仲良く、牢屋行きだった。

 その時、リーゼロッテは私の身体検査をするためにやってきたのだ。


「まさか、わたくしまで裸になるなんて思いもしなかったわ」

「一人だけ裸なのは、恥ずかしかったので」


 私はお風呂で身体検査をしようとリーゼロッテに提案し、見張りの女性騎士も巻き込んでみんなで裸になった。


「今思い返したら、笑えますね」

「本当に」


 リーゼロッテはしばらく気にしていたけれど、今はこうして笑い飛ばすことができる。

 しっかり反省し、腹を割って互いの想いを話したのがよかったのだろう。


「最初は、幻獣目的で入隊したけれど──任務に参加しているうちに、この国の平和が騎士の頑張りで保たれていることを知ったわ」


 そう。私も賃金目的で騎士になった。けれど、そこで働く人達は騎士という仕事に誇りを持ち、平和のために戦っていた。

 今は私も、騎士という仕事を誇らしく思っている。


「それから、世の中には悪い人もいたら、良い人もいて。幻獣の他に妖精や精霊がいて。ありとあらゆる存在あっての世界だって、気づくことができたわ」


 幻獣しか見えていなかったリーゼロッテにとって、騎士隊で働くことは見聞を広げることに繋がったらしい。


「実を言えば、メルみたいな普通の女の子がいるなら、わたくしにも騎士が務まると思っていたの」

「まあ、そうですね」

「でも、メル。あなたは普通じゃなかったわ」

「そうですか?」

「ええ。豊富な森の知識に、食材を見分ける能力、どんな場所でも料理を作る活力、それから、他人を思いやる優しい心……どれも、わたくしには真似できない、素晴らしいものだったわ」

「なんだか、照れます」

「他の人も、個人個人の能力が高くて。ルードティンク隊長は見ての通り、体力があって、だれているところを一度も見せなかったわ。指揮も的確だった。ベルリー副隊長の双剣使いは見事なものだったし、ガル・ガルの槍はどんな敵も貫いたわ。ジュン・ウルガスは、いつもは自信なさげだけれど、弓矢の腕前はかなりのものだし、ザラ・アートはどんな魔物にも果敢に攻めいっていた。そんな隊員に交じって遠征についていくのが大変だったの」

「リーゼロッテ、本当に頑張りましたね」


 思わず、背伸びをして頭を撫でてしまった。

 リーゼロッテは幻獣以外目に見えていないと思っていたけれど、いろいろと周囲を見ていたようだ。


「やっと、魔法の制御もできるようになって、役立てると思っていたけれど──」

「リーゼロッテ」


 リーゼロッテは悔しそうにしている。

 彼女は貴族女性で、リヒテンベルガー侯爵家を守るためずっと騎士をしているわけにはいかない。

 しっかりと前を見据え、将来のために動こうとしている。


「わたくし、メルに出会えて、よかったわ」

「私もですよ。こんなことを話していたら、永遠に別れ別れになるみたいですが。私達は友達同士ですので、いつでも会えますね」


 その前に、姉妹でもあるけれど。たまに、リヒテンベルガー侯爵家に養子に入ったことを忘れそうになる。


 泣きそうなリーゼロッテを抱きしめ、優しく背中を撫でた。

 しばししんみりしたあと、リーゼロッテは「そうだわ」と言った。


「お父様が、社交界デビューの練習として、パーティーを開いてくれるようで」

「へえ、それはすごいですね」


 社交界デビューの練習にパーティーを開くとは、さすが、リヒテンベルガー侯爵家だ。


「メルも、来るわよね?」

「え!? わ、私も、ですか?」

「ええ。幻獣の主人を呼んで、交流会をするらしいの」


 地方から幻獣の主人を招き、リーゼロッテのお披露目を兼ねた盛大なパーティーを開くようだ。

 それは、ちょっと楽しそう。


「幻獣たちのお見合いも兼ねているのよ」

「そうなのですね」


 アメリアやステラ、エスメラルダは参加するだろうか。

 帰ったら、聞いてみなければ。



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