キャンプに行こう その五
みんなが競うように手長エビを釣ってくれたおかげで、たくさん食べることができそうだ。
まず、重要なのは手長エビの泥抜き。
泥抜きをしないと、食べた時にジャリっという不快な食感があるのだ。
通常であれば、しばらく水に浸けて泥を吐かせないといけない。しかし、今回は非常に短い時間で泥抜きを行うテクニックをご紹介する。
まず、用意するのはお酒。これは、料理用の酒だ。隊長の酒を使うと怒るので、第二部隊の予算で購入した。
次に用意するのは──スラちゃん。
「スラちゃん、本当にいいんですか?」
スラちゃんは頭上で丸を作ってくれた。スラちゃんが手長エビを呑み込んで、泥抜きしてくれるのだ。お酒と一緒に呑んだら、手長エビの泥抜きと絞める作業も一緒にできる。
ちなみに、この工程は繊細な隊長には内緒だ。スラちゃんは背に隠し、調理を行う。
「では、スラちゃん、お願いいたします」
まず、スラちゃんは空気を吸い込み、大きくなった。
口を大きく広げてくれたので、そこにお酒と手長エビを投下。
スラちゃんはうがいをするように、手長エビの泥を取り除いでくれる。
しばらく泥抜きのため、スラちゃんはぶるぶる震えていた。
泥抜きが終わったら、ピュッと黒い液体を吐き出す。
ついでに、呑み込んでいた餌のミミズなども出してくれたようだ。
「わあ、スラちゃん、ありがとうございます!」
スラちゃんは「いいってことよ」と言わんばかりに、手をぶんぶんと振っていた。
さてと、ここで調理に取りかかる。
手長エビはなんといっても、素揚げが最高だ。まずは、素材の味を楽しんでいただきたい。
十分火を通したいので、たっぷりの油を使い高温で揚げる。
水気は取ったけれど、それでもバチバチ跳ねる。
「うっ、熱っ!」
『パンケーキノ娘、ガンバレ!』
アルブムは油が飛び散らないところから、応援してくれた。
本当に、ありがとうございます。
手長エビが真っ赤になり、ぷかぷか浮いてきたら油から上げる。
仕上げに、パッパと塩を振りかけたら、『手長エビの素揚げ』の完成だ。
一つ、味見をしてみよう。近くにいたアルブムも手招く。
「アルブム、一つどうぞ」
『イイノ?』
「いいですよ」
アルブムと一緒に、手長エビの素揚げを食べる。
皮はカリッと揚げられていて、香ばしい。小さなエビだけれど、噛むとしっかり身を感じる。噛むと、じわ~りと旨みが溢れてきた。
「ああ、おいしく揚がっています」
『生デ食ベルヨリ、ゼンゼンオイシイネ』
アルブムは手長エビも生で食べていたようだ。なんというか、野生の生き物って大変だ。エルフに生まれてきて、よかった……!
「では、アルブム、これはみんなに持って行ってください。前菜なので、温かいうちに食べてもいいですよと」
『ワカッタ!』
給仕はアルブムに任せ、二品目に移る。
二品目は、大傘茸も使う。
まず作るのは、芋チップスを使ったお団子だ。水で溶き、塩と小麦粉を加え一口大にちぎっていく。火が通りやすいよう、真ん中に窪みを入れておいた。
続いて、鍋でしっかり茹でる。これもぷかぷかと浮いてきたら、湯から掬い取った。
続いて、団子に絡めるソース作り。
鍋にオリヴィエ油、薬草ニンニク、唐辛子を炒め、途中から手長エビと大傘茸を入れる。しっかり火が通ったら、目帚草で作った薬草ソースを投下。
塩コショウで味付けし、さらに炒める。
最後に、団子とソースを混ぜたら、『芋団子の手長エビソース絡め』の完成だ。
これは、自信作である。
「みなさん、お待たせしました!」
鍋ごと置いて、各々食べてもらう。
パンやクラッカー、チーズと前回の遠征であまった生ハムも添える。
なんだか、豪勢な夕食となった。
「わあ、リスリス衛生兵、いい匂いがします!」
「どんどん食べてくださいね!」
手長エビの素揚げは、好評だったようだ。案の定、隊長は酒を飲みたがったが、私物ワインはベルリー副隊長が出発直前に気づいて置いてきたらしい。
さすが、ベルリー副隊長だ。
手長エビの素揚げは、リーゼロッテもおいしく食べてくれたようだ。
「驚いたわ。これ、すごく味わい深くて、とってもおいしいの」
「身は高級エビに劣らない味わいなんですよね」
「ええ、本当に」
手長エビをまるまる炒めた『芋団子の手長エビソース絡め』も、期待が高まる。
神に祈りを捧げ、いただきます。
まずは、芋団子にソースを絡めて一口。
「んん! 手長エビの出汁がソースに溶け込んでいて、味が濃い!」
思っていた以上においしい!
夢中でパクパク食べてしまう。
ここで、ザラさんが耳より情報を教えてくれた。
「メルちゃん、このソース、パンに絡めてもおいしいわ」
試してみたら、本当においしかった。
隊長はクラッカーにチーズとソースに絡めた手長エビを載せて食べていた。
私も真似してみる。これがまた、おいしい。ソースがチーズと合わさって、なめらかな味わいとなった。
各々、新しい食べ方を発見し、試していた。どれも、おいしかった。
満腹になって動けなかったが、今度は野営地まで歩かなければならない。
「ここで眠りたいです」
「水辺は冷えるから、森の開けたほうに行くぞ」
「ええ……」
反抗的な態度に出ると、隊長はすぐさま厳しい顔で私を睨む。
「り、了解で~す」
そんなわけで、荷物を纏めて再び歩くこととなった。




