キャンプに行こう その四
なんていうか、穏やかな昼下がりだ。
いつもの任務みたいに、みんなピリピリしてないし。
薬草や木の実を発見して採っても、隊長は怒らない。
一回、任務中に採取禁止令が出てから、おいしそうなキノコを見つけても、珍しい果物を見つけても、手出しすることができなかったのだ。
なんだか楽しくなって、足取りも軽くなる。
ここで、お約束の怒号が飛んできた。
「おい、リスリスゥ! 浮かれて歩いていると、転ぶからな!」
「は~い」
森の中なので、危険は多い。隊長の言う通り、浮かれ気分は抑えなければ。
『ア、パンケーキノ娘ェ、森葡萄見ツケタ!』
「おお!」
食材探査生物アルブムが、森葡萄を発見した。
森葡萄は野生で育つ葡萄で、市場で売られているものより実は小ぶりだ。色も、薄紫である。しかし、その小さな一粒に、おいしさがぎゅぎゅっと詰まっているのだ。
手を伸ばしても届かなかったので、ザラさんがもいでくれた。
「ザラさん、ありがとうございます!」
「いえいえ」
まずは、アルブムと共に毒味を。
「あ、甘酸っぱ~い!」
『味ガ、濃イネ!』
「ザラさんもど~ぞ」
背伸びして、森葡萄をザラさんの口に持って行く。
が、ザラさんのぎょっとした顔を見て私は我に返る。
これは俗に言う「あ~ん」というものでは?
無意識に、恥ずかしいことをしてしまった。
手を引っ込めようとしたが、ザラさんは食べてくれた。
「メ、メルちゃん、おいしいわ。ありがとう」
「い、いいえ!」
なんだかギクシャクしてしまった。本当に、恥ずかしい。
食べてくれたザラさんに感謝だ。
他のみんなも、森葡萄を食べてもらう。
「あら、本当。これ、味が濃いわ」
リーゼロッテは自然の葡萄を初めて食べたようで、そのおいしさに驚いていた。
ベルリー副隊長は、口元に淡い笑みを浮かべて言った。
「なんだか、懐かしい味がする」
その感想に、ウルガスも同意していた。
「ああ、わかります。どこかでたべたことがあるような、ないような」
ガルさんは森葡萄をじっと観察し、提出する報告書用に絵を描いていた。
スラちゃんは森葡萄へ手を伸ばし、葉っぱを移動させてガルさんが描きやすいように努めている。さすがスラちゃん、できる子!
再度歩いていると、ゆったりと流れる川に行きついた。水面を覗き込むと、手長エビがスイスイ泳いでいる。
「あ、これ、おいしいんですよ! 釣って食べましょう!」
隊長に許可をもらい、第二部隊の手長エビ釣り大会が開催されることとなった。
「でもメルちゃん、釣竿なんて持ってきていないわ」
「大丈夫です。糸はあるので、竿はその辺にある木の枝で作りましょう」
そんなわけで、仕事を分担する。隊長が人員の振り分けをしてくれた。
「ベルリー、リヒテンベルガー、ウルガスは木の枝探し、ガルは手長エビについての記録、ザラは糸に重石を付けろ、俺とリスリスとアルブムは餌探し。これでいいか?」
「はい」
「では、作戦開始だ」
散り散りとなって行動を開始する。
「さて、アルブム、ミミズを探しますよ」
『エエ~~!』
「釣りの基本だろうが」
そう言って、隊長は大剣でガリゴリと土を掘り始める。
『ミミズ掘リトカ、ヤダナア』
「アルブム、おいしいおいしい手長エビを食べるためですよ」
『ソッカ。ガンバロ』
アルブムは器用に土を掘り始める。
ああ、アルブム、なんて単純なヤツ。
小さいころ、よく妹達と川でエビ釣りをしていた。
大きくなってからは、のんびり釣りをして遊ぶ暇なんてなかったけれど。楽しい思い出だ。
土を掘り返し、十匹ほどミミズを見つけた。
「アルブム、ミミズは──」
『タクサン採レタヨ』
「うわ!」
革袋の中には、三十匹くらいミミズがいるだろうか。
こんなにたくさんいると、ちょっとだけ気持ち悪い。
「隊長は、どれくらい捕まえました?」
隊長の革袋を覗き込む。五匹くらい入っていた。
アルブムに負けて屈辱なのか、悔しそうにしていた。
「が、頑張りましたね」
そんな言葉をかけていたら、ベルリー副隊長とリーゼロッテ、ウルガスが戻ってくる。
ザラさんが作った重石付きの糸と木の枝を結ぶと、簡易釣り竿の完成だ。
釣針があればよかったけれど、そこまで準備はしていなかった。
ミミズは糸で結んで川に投げ入れる。
「きゃあ、気持ち悪いわ!」
リーゼロッテはミミズを前に苦戦しているようだった。
ウルガスが結んでやると言っても、涙目で断っている。
そこまで頑張らなくてもいいのに。みんなができることができないと、負けた気になる性分のようだ。
「リヒテンベルガー魔法兵、私がミミズを押さえておくから、紐で結んでくれ」
「え、ええ、わかったわ」
さすがベルリー副隊長である。リーゼロッテの使い方が上手い。
隊長はすでに、一匹釣り上げていた。
『ワ~、スゴ~イ!』
アルブムに褒められて、まんざらでもない様子だった。
私の釣り竿の先端も、僅かに動く。タイミングが重要だ。
しっかり食いついたのを確認すると、竿を引く。
「おっ!」
手長エビを釣り上げた。
「リスリス衛生兵、さっき隊長が釣ったエビより大きいっすね!」
余計なことを言ったウルガスは、隊長に睨まれていた。
その後、ガルさんが二匹同時に釣り上げる。
いったいどのような技術を使ったのかと思っていたら、糸にスラちゃんが結ばれていた。
スラちゃんはドヤ顔で、手長エビを掴んでいる。
「おいガル、それは反則だ!」
ルールにスラちゃんの使用は不可であるとは書いていない。
発想の大勝利だろう。
ザラさんも一匹、釣り上げていた。
「あら、うふふ」
なんだか楽しそうだ。続けて、ベルリー副隊長も釣り上げる。
最後に手長エビを釣ったのは、リーゼロッテだった。
「やったわ!!」
釣れると思っていなかったのだろう。跳びはねて喜んでいた。
リーゼロッテがはしゃぐ姿なんて、初めて見た。
エビ釣りって楽しい。
改めてそう思った。
釣ったあとは──調理である。




