キャンプに行こう その三
王都でも毎年毒キノコを食べて病院に運ばれる人がいるらしい。よって、キノコ狩りは推奨していないという。
だがしかし、ダメだと言われてもキノコを見つけたら採って食べてしまうのだという。
ならば、毒キノコの特徴を描いた看板を作ったらどうかと提案してみる。
ザラさんも同意してくれた。
「メルちゃん、それ、いいかも。食べられるキノコの特徴を知らせるより、毒キノコを周知させるほうが危機意識が高まると思うわ」
隊長も腕組みした状態で、うんうんと頷いている。
「おい、ベルリー、毒キノコの特徴と絵を描いておけ。ウルガスは毒キノコを見本として採取しろ」
「了解」
「了解っす」
ベルリー副隊長は真剣な眼差しを毒キノコに向け、一生懸命描いていたが──。なんというか、独創的なタッチの毒キノコを描いている。
それを見た隊長が、率直な意見を述べてしまった。
「ベルリー、お前、絵心ないな」
「……」
ベルリー副隊長は遠い目をしていた。どうやら、絵を描くのは得意ではないようだ。
「あ、そういえば、以前慈善バザーをした時に、ガルさんが看板に絵を描いていましたよね」
当時、幼獣だったアメリアを、可愛らしく描いてくれた。かなり上手かったので、記憶に残っていた。ちなみに、その看板は幻獣保護局の手に渡った。侯爵様の執務室に飾ってあるらしい。
「だったらガル、ベルリーの代わりに絵を描け」
ガルさんは敬礼し、ベルリー副隊長から紙とペンを受け取る。そして、スラスラと素早くキノコの絵を描いていった。
「わっ、ガルさん、上手ですね!」
毒キノコの特徴を捉え、笠の裏が黒い部分も丁寧に描写していた。さすがである。
「書記はガルに交代だな」
ベルリー副隊長はガルさんの肩をポンポンと叩き、「頼む」と言っていた。
先を進む。
『パンケーキノ娘ェ、森甘柿ガアッタヨオ!』
鮮やかな橙色の果実──森甘柿。秋の味覚だ。
「この辺に自生するのは、丸い柿なんですね!」
『ソウダヨ。ソノママデモ、甘インダ!』
「へえ!」
フォレ・エルフの森にあった柿は細長く、生で食べると渋くて食べられなかった。
どうするのかというと、皮を剥いて寒空の下に干すのだ。すると、糖度が高くなって甘くなる。
「どんな味がするんでしょう?」
ちらりと隊長のほうを見たら、森甘柿を手に取って豪快に皮ごと齧っていた。
「クソ甘いな……」
隊長は齧りかけを、アルブムへ手渡す。
『ア、甘~イ!!』
アルブムの口から果汁が滴る。私の肩に座っているので、ぽたぽたと垂れてくるのだ。
「はい、メルちゃん、どうぞ」
「わ、ザラさん。ありがとうございます!」
ザラさんが剥いた森甘柿を一切れくれた。
食感はシャクシャクで、豊かな甘さが口の中に広がる。
「うわっ……美味しいです!!」
「本当に、驚いたわ」
ザラさんの故郷の森にも柿はあったようだが、フォレ・エルフの森同様に細長い種類しかなかったようだ。
これこそ、秋の味覚だろう。
森甘柿も人数分もいで、籠に詰めた。
「メルちゃん、籠、重いでしょう? 持ってあげる」
「ありがとうございます!」
それにしても、のどかな森だ。
魔物の気配はいっさいない。
「あら?」
ここで、リーゼロッテが反応を示す。何か発見したようだ。
「リーゼロッテ、どうかしましたか?」
「ここの木の幹に刻まれた呪文、魔物除けの結界だわ。しかも、強力な」
「え!?」
強力な結界があるので、広い範囲で魔物が近寄れないようになっているらしい。
「そんじょそこらの魔法使いの仕業ではないわ。高い技術を持つ、魔法使いの魔法よ」
「……」
国内にいる高い技術を持つ魔法使いなど、一人しかいない。
「シエル様、でしょうか?」
「わたくしも、そうとしか思えないんだけれど」
「ですよね」
ここに来るまで、キノコの採取あとや、木の実を千切ったあとがあったのだ。
野生動物か、通りかかった商人かなと思っていた。だが、そうではなかったらしい。
「ここはきっと、シエル様がすろーらいふを楽しんでいる場所なのかもしれません」
「その可能性が多いにあるわね」
どうするのか、隊長を見る。
「証拠がないから、なんとも言えん。とにかく俺らは、命令されたとおり見回りをするしかない」
「ですかね」
任務はそのまま続行となる。
途中、湖を発見したので、ほとりで昼食を食べることにした。
使う食材は──採れたての大傘茸だ。
キノコは虫の隠れ家になっている場合があるので、しっかりと水で洗う。
熟練の主婦は「キノコは水で洗ったらダメよお。せっかくの風味が飛ぶわ」なんて言うけれど、それは栽培された綺麗なキノコに限るのだ。
表面に十字に切り目を入れて、バターを落とした鍋で焼いていく。
じゅわ~~っと音が鳴り、いい香りが漂ってきた。
裏、表としっかり焼き色を付け、最後に塩コショウを振る。
旬の食材なので、味付けはシンプルでいいのだ。
「大傘茸のステーキの完成です!」
ガルさんが集めてくれた大きな葉っぱをお皿代わりに、盛り付けた。
食後の甘味は、森甘柿である。各々剥いてくださいと、そのままの姿で添えている。
「では、食べましょう!」
まずは、食材を恵んでくれたことに感謝の祈りを……。
手と手を合わせて、いただきます。
大傘茸のステーキにナイフを沈ませる。じわりと、肉汁ならぬキノコ汁がにじみ出る。
滴り落ちないうちに、一口大に切って食べた。
「んん!!」
表面はカリカリ。中の肉質はコリコリで、噛むと旨みがじわ~り溢れてくる。
こんな美味しい焼きキノコは初めてだ。
どんどん、食べ進めてしまう。
隊長も気に入ってくれたようで、バクバク食べていた。
「これは、貴族の晩餐で出してもいいくらい、完成された料理だ」
「よかったです」
豪快に食べる様子は貴族の晩餐というよりも、山賊の宴といった雰囲気だ。
まあ、言わぬが花だろう。




