キャンプに行こう その一
王都近くに、市民に開放された森があったらしい。そこでは木苺を摘んだり、キノコ狩りをしたり、釣りを楽しんだりと、王都周辺では唯一の行楽地だったようだ。
しかし、ここ数年、魔物の出現率がぐっと上昇し、襲われたという報告が数多く上がった。その結果、国は森の立ち入りを禁止してしまったのだとか。
閉鎖から三年目の今年、市民側から森の解放の要請があったらしい。
「それで、無視できない人数の要請が集まって、この問題は俺達騎士隊に放り投げられた」
商人いわく、ここ半年ほどで王都の魔物は激減したようだ。
もう、安全なのでは? という報告も上がっていた。
ここで、あることに気づいた私は挙手する。
「あの、一ついいですか?」
「なんだ、リスリス」
「ここ半年の魔物の出現率の減少は、おそらく、シエル様が来たからだと思われます」
「それは、そうだろうな」
魔物はきっと、シエル様を恐れて王都付近に近寄らないようにしているのだろう。
ただ、シエル様はずっとこの国にいるわけではない。だから、このまま解放していいものか。
「まあ、ここ数年増えた魔物がいなくなったのも事実。ためしに、今季のみ解放してはどうだろうか、という意見も出ているらしい」
問題を先延ばしにしただけのような気もするけれど……。
まあ、その辺は私が考えてもしかたがないことだろう。
「それで今回、我らが第二部隊に、森の様子を確認し、生態系を見回り、野営してこいというお達しが出た」
ということはつまり、キノコや木苺を採取して、釣りをして、料理をして、泊ってこいということだろうか。
視界の端に映るウルガスの表情が、嬉々としたものとなる。
「二泊三日の予定だ。皆、準備するように」
「了解!!」
今回、木々が深く生い茂っている場所での任務なので、大型幻獣であるアメリアとステラはお留守番しなければならないようだ。
きちんと説明したら、しょんぼりしつつも『わかりました』と言ってくれた。
エスメラルダに行くかどうか聞いてみたら、『野営は嫌!』と言われてしまった。
『アルブムチャンハ、行クヨ!』
「あ、そうですか」
アルブムはいつもの通り、ついてくるらしい。まあ、何かの役に立つかもしれない。
アメリアとステラは食糧庫の中から必要な物を取り、荷造りをしてくれた。なんてできる娘達なのか。私の自慢だ。
一方、エスメラルダは迎えに来た幻獣保護局の女性局員に囲まれ、女王様のようにツンとしていた。あの表情は、チヤホヤされてまんざらでもなさそうな感じである。
私は数日分の着替えを妖精鞄ニクスに詰める。すぐに準備が整った。
森の入り口まで、馬車を出してくれるらしい。大人数が乗れる馬車を用意したというので、騎士隊の裏門へと急いだ。
アメリアとステラが見送りにきてくれる。ちなみにエスメラルダは、騎士舎から『いってらっしゃい』されてしまった。
裏門に大型の馬車が停まっている。四頭の馬で引くようだ。
馬車を見上げ、ぎょっとする。
「こ、これは……!」
大型の馬車で間違いはない。しかし、これは捕えた山賊や盗賊を輸送する馬車だった。
隊長も聞いていなかったのか、若干のキレ顔である。
「あ、あの、隊長、こちらの馬車は……?」
「犯罪者の輸送用だ。騎士隊用の大型馬車は、社交期の貴族様の護衛で使っているんだとよ! ケッ、何が貴族様だ!」
隊長も貴族様だったような気がするが……。
怒りで歪めた横顔を見ていると、自信がなくなってきた。
「もう社交期なのね」
「ザラさん、社交期ってなんですか?」
「領地にいる貴族たちが、いっせいに王都に集まってきて夜会を開く時季のことよ」
「へえ~、そうなんですね!」
貴族の夜会は、どんなごちそうがでるのか。まったく想像がつかない。
「いいですね~。なんか、楽しそうで」
「楽しいわけがないだろうが、クソが!」
隊長の「クソが!」発言は聞かなかったことにして、どうして楽しくないのか質問してみる。
「夜会はぴらっぴらしたドレスを着た女達が、鳥みたいにピーチクパーチク喋って、ダンスを申し込む男を見定めるだけの催しだ」
家柄、容姿、会話など、あらゆる面ですぐれた人が、社交界の花ともてはやされるらしい。
一方の隊長は、家柄はいいだろう。けれど、容姿と会話は山賊だ。
さしずめ、社交界の山賊といったところか。
「おい、リスリスゥ、何を考えてやがる!?」
「な、何も、考えてやがりません」
「怪しいな」
ここで、ベルリー副隊長が馬車の用意ができたので乗るようにと言ってくれた。
危なかった。
馬車の中を覗き込むと、窓は小さく鉄格子が張られていた。出入り口の扉も無駄に厚い。
椅子なんかはなく、馬車の衝撃が直にお尻にくる構造のようだ。
先に乗り込んだウルガスは、端っこで膝を抱えた状態で座っている。
どんよりとした様子から、まさかこんな馬車に乗せられるとは思っていなかったのだろう。
ウルガスの雰囲気は、『希望を胸に田舎から出てきた青年が、道中で山賊に捕まってしまった』、という感じか。
ガルさんは槍をそのまま持ち込めると喜んでいた。スラちゃんも、なんだか嬉しそう。
リーゼロッテは顔をしかめていたものの、文句は言わない。
ザラさんは「ちょっとカビ臭いわね」と眉をひそめていた。
ベルリー副隊長は、淡々としている。任務だからと、割り切っているのだろう。
最後に、隊長が乗り込んできた。
「ったくよ、どうして俺がこんな目に……!」
ぶつくさと文句を言う隊長の様子は、騎士隊に拘束された山賊そのものだった。
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ついに、幻獣保護局のあの御方が登場します。
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