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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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大森林にて その二

 大森林へは、シエル様の転移魔法で移動するらしい。


「転移魔法か……」


 隊長の表情が翳(かげ)る。それも無理はない。この前の任務で、私達は転移魔法によってバラバラになった。あれは意図的にされたもので、シエル様の魔法は大丈夫だろうけれど。


 顔色を青くする隊長を、アメリアとステラが励ます。


『クエ、クエクエ、クエクエ』

『クウクウ』


 幻獣の女の子に励まされる隊長の図。レアな光景だ。

 なんとなく言葉が伝わっているのか、隊長は「お、おう。ありがとうな」と返していた。


 ちなみに、アメリアは「大丈夫。大英雄の転移魔法だからバラバラにはならないよ」で、ステラは「もしも一緒に飛ばされたら、助けてあげるね」だった。


 三人とも体が大きいので、そんなほのぼとしたやりとりが行われているとは、いっさい感じ取れないけれどね。


「準備はよいか?」

「あ~……」


 隊長は後頭部をガシガシ掻き、私のほうを見る。


「おい、ガル。リスリスのフードを握っておけ」


 まさか、私だけ違うところに転移されてしまうことを心配しているのか。

 フードを握っている状態で、別の場所に飛ばされそうになったら首吊り状態になりそうな気もするが。

 さすが山賊。命令が雑だ。


 命令を受けたガルさんは、私に手を差し伸べてくれる。どうやら、手を繋いでくれるようだ。


「ガ、ガルさん……ありがとうございます」


 ガルさんの手を握ったあとスラちゃんが瓶から出てきて、ひも状になってガルさんと私のベルトに巻き付く。命綱スラちゃんだ。


「スラちゃんも、ありがとうございます」

『ア、アノ~、パンケーキノ娘。肩ヲ、借リテモイイ』


 アルブムが申し訳なさそうに聞いてくる。仕方がないので、許してあげることにした。


『ワ~イ』


 アルブムが私の体をよじ登ってきたが、肩に座った瞬間ギョッとする。


「重っ!!」


 アルブムは唐草模様のふろしきに、目一杯食材を詰め込んできたようだ。


「ちょっとアルブム! その荷物下ろしてください!」

『エエ~。自分デ運ビタインダケレド』

「私の肩に乗っていたら、運ぶのはおのずと私になるので!」


 強制的にはぎ取って、ニクスの中に詰める。


『アア……』

「ああ、じゃないですよ。まったく」


 あのままアルブムごと肩に乗せていたら、絶対凝るだろう。断固反対だ。


「おい、リスリス、もういいのか?」

「あ、はい。問題ありません」


 こうして、準備は整った。


「アイスコレッタ卿。こっちの用意は整いました」

「うむ! では、いくぞ!」


 シエル様は水晶剣(クリスタル・ソード)を引き抜き、何やらぶつぶつと呪文を唱えている。

 シエル様の周囲に集まった私達を囲むように、白銀に光る魔法陣が浮かび上がった。


 ふわりと、体が宙に浮く……かと思えば、光に包まれて視界が遮られてしまった。

 景色は一瞬にして入れ替わり、第二部隊騎士舎の広場から、雪が積もる森の中へと転移する。


 今回は浮遊感もなく、きちんと着地できた。みんな、無事に同じ場所へ転移できたようだ。

 しかし、しかしだ。なんと──魔物がいた。


『シャアアアアア!!』

「ぎゃああああ!!」


 着地した場所は、大きな鳥の巣でした。しかも、蛇の魔物までいるという……。

 枝葉を集めて作った五メトルほどの規模の巣に大きな鳥がいて、緑色のヘビが巻き付いている。


「な、なんですか、あれは!」

『ホロホロ鳥と、森大蛇(フォレ・サーペント)ダヨ!』

「ホロホロ鳥は、聞いたことがあります」


 ホロホロ鳥は森の奥地に住む、狩猟対象にもなる大きな鳥だ。

 最大で、十メトルにまで成長する。今、目の前にいる個体は、三メトルくらいか。

 一方、森大蛇は五メトル以上ありそう。

 見た目はどちらも魔物のようだが、ホロホロ鳥はただの大きな鳥だ。


「ホロホロ鳥って、幻の鳥肉って言われているんですよね?」

『ウン、オイシインダッテ噂!』


 と、呑気にお喋りしている場合ではない。

 すぐさま、隊長の指示が飛んでくる。


「総員、戦闘準備に取りかかれ!!」


 スラちゃんは私のベルトから離れ、ガルさんの槍へと巻き付く。

 私はウルガスに腕を引かれ、後方へと下がった。アメリア、ステラ、リーゼロッテもあとに続いた。

 ベルリー副隊長は双剣を鞘から引き抜き、姿勢を低くして敵の弱点を探っている。

 ザラさんは戦斧を構え、隊長は大剣の切っ先を森大蛇に向けていた。


 シエル様はアリタに跨ったまま、戦闘の様子を腕組して眺めている。第二部隊のお手並みを拝見しているのだろう。

 コメルヴの姿がなかったが、あまりの寒さにシエル様の鎧の中にいるという。

 そんなことはさて置いて。視線を戦闘するほうへ移した。


 まず、隊長が森大蛇へ一撃を加える。


「ぐっ!!」


 首筋辺りを斬りつけたが、ガキン! と硬い物を叩いたような音がした。

 森大蛇は硬い鱗に覆われているようだ。


 ギロリと、森大蛇の真っ赤な目がこちらへと向く。

 ホロホロ鳥から離れ、こちらへと襲いかかってくる。


『シャッ!!』


 森大蛇の口から吐き出されたのは、溶解液。防具を溶かし、火傷を負わせる危険な攻撃だ。

 前衛にいた隊長は後方に跳び、攻撃を回避する。


「リヒテンベルガー魔法兵! 頼む!」


 ベルリー副隊長の命令を受け、リーゼロッテが魔法を展開させた。

 地面より炎の壁が現れ、敵の攻撃を阻む。


 リーゼロッテのノーコン炎魔法は、敵に当てずに別の使い方をすることを覚えたようだ。

 美しい炎が、空のほうへと巻きあがって私達を守ってくれる。


 リーゼロッテの炎が消えたあと、今度はガルさんが中距離から攻撃を繰り出す。

 突き出した槍は、森大蛇の目を貫いた。この攻撃で動きが鈍る。

 続いて、ザラさんが隊長と同じ部位に戦斧の刃を叩きつけた。硬い鱗にヒビが入る。

 ここに、ベルリー副隊長が双剣で連続攻撃を繰り出す。傷口が広がり、緑色の血が噴き出た。


「今だ、ウルガス!」

「う……頑張ります」


 自信なさげに、ウルガスが毒矢を撃った。開いた傷に、見事矢が命中する。


『ジャアアア!!』


 森大蛇はしばらく苦しみ、のたうち回る。そして、息絶えた。


 戦闘は終了となる。


「ふむ。見事な戦いだったぞ!」


 連携の取り方は素晴らしく、勇敢だったとシエル様は褒めていた。


「──さて、と」


 シエル様がアリタから降り、ホロホロ鳥の巣へ近づく。

 ホロホロ鳥は首を絞められ、絶命していた。温めていた卵も、ヒビが入っている。

 その様子を、シエル様はものの数秒で確認し終えたようだ。


「ふむ。よいな」

「あの、何がよいのですか?」

「食材の状態だ。今から、ホロホロ鳥を解体する」


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