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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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エスメラルダの怒り その七

 ステラが絶壁を登る中、謎の爆発を起こしたザラさんのことが心配になり、恐る恐る下を見てみる。

 信じられないくらいの高さを登っていたようで、一瞬恐怖で息ができなくなった。

 しかし、雪熊と対峙したザラさんの恐怖はそれ以上だろう。

 勇気を出して、再度崖下を見る。

 もうもうと、煙が立ち上っていた。ザラさんの姿は確認できない。


「ザラさん……」


 先ほどの爆発はなんなのか? ザラさんは無事なのか?

 何も、分からなかった。


『クウ……クウ!』

「え!?」


 ステラ曰く、雪熊の息をする音が聞こえなくなったと。


「では、先ほどの爆発で、絶命したのですか?」

『クウ』

「では、ザラさんは?」

『クウクウ、クウ……』

「そ、そうですか」


 爆発のせいで空気が乱れているため、ザラさんの生死はよくわからないという。


『リスリスちゃん、雪熊が死んだのならば、お兄さんがどうなっているか、見てこようか?』

「アリタ……お願い、してもいいですか?」

『うん、任せて!』


 アリタは回れ右をして、崖を這うようにして急降下しだした。

 私達はとりあえず、崖の上を目指す。


「ステラ、頑張ってください!」

『クウ!』


 力強い返事が返ってきた。

 崖を登り切ったのと同時に、アリタのよく通る声が聞こえた。


『リスリスちゃ~ん、お兄さん、生きてる!! 無傷だよ!!』

「!」


 ザラさんは、生きていた!

 崖下で、アリタと一緒に手を振っている。

 よかった……本当に、よかった!

 あの雪熊二体と戦ったのに、怪我もなく無事だって……。

 安心したら、泣けてくる。そんな私の涙を、ステラはペロリと舐めてくれた。


「うう、ステラ、ありがとうございます……」

『クウ』


 ステラは、ザラさんが無事でよかったねと言ってくれた。

 優しい子だ。


 ザラさんはアリタの背に乗り、崖を登ってくる。

 そして、私達がいる場所まで辿り着いた。


「ザ、ザラさ~ん!」

「メルちゃん」


 アリタから降りたザラさんに駆け寄る。


「怪我、怪我はないですか!?」

「ええ、ないわ。平気よ」

「ほ、本当に!?」


 ペタペタと体に触れていくけれど、怪我をしているようには思えない。

 本当に、無傷だった。


「よ、よかった……ザラさん、無事だった……」


 嬉しくて、抱き着いてしまった。


「メ、メルちゃん!?」

「ご、ごめんなさい。しばらく、ぎゅっとさせてください」

「え、そ、それは、構わないけれど……」

「ありがとうございます」


 私の肩に、そっと腕が回される。ザラさんも、抱き返してくれた。

 こうして温もりを感じていると、心からホッとする。


 正直、もうダメだと思っていたけれど、ザラさんは生きていた。

 その喜びを、こうして抱擁して表すことしかできなかった。


 ◇◇◇


 やっと落ち着くことができた。

 私がザラさんに抱き着いてわんわん泣いている間に、ステラとアリタが協力して、お茶を淹れてくれたようだ。


『リスリスちゃん、これ、この前おじいちゃんと作った薬草茶。砂糖をたっぷり入れておいたから』

「ありがとうございます」


 一口飲んでみると、香ばしい茶葉の味わいと優しい甘さが口の中に広がる。


「美味しいです。アリタ、ステラ、ありがとうございました」


 子どもみたいに泣いてしまうなんて、恥ずかしい。

 でも、ザラさんが雪熊と単独で戦闘することになり、もうダメだと思ってしまったのだ。


「あの、ザラさん、さっきの爆発はなんだったのですか?」


 この質問を投げかけた瞬間、ザラさんの表情が凍り付く。

 聞いてはいけない話だったのか。


「わ、私ごときが、聞いていい話じゃ、なかったですね」

「メルちゃん、違うの! ごめんなさい、今まで言えなくって。じ、実は……」

「あの、無理して言わなくてもいいですよ」


 そっと顔を逸らそうとしたら、ザラさんが私の手をぎゅっと握った。


「メルちゃん、こっちを見て」

「う……はい」


 そして、ザラさんは今までにないくらい深刻な表情で話す。


「私、幻獣から炎魔法の力を授かったの」

「え、炎魔法、ですか?」

「ええ、そう」


 なんでも、この前の遺跡探索で幻獣火蜥蜴から炎系の魔法が使える力をもらったらしい。


「その名も……………………ミラクルボンバー・シューティングスター」

「ミ、ミラクルボンバー・シューティングスター!?」


 敵を前にして「ミラクルボンバー・シューティングスター」と唱えるだけで、流星のような火の玉が生まれ、敵に向かって飛んで行くという魔法が使えるようになったらしい。


「あの、メルちゃん、あのね、なんていうか…………とってもダサ──」

「カッコイイです、ザラさん!!」

「え?」

「魔法が使えるようになったとか、すごいことです」

「でも、これは幻獣の加護があったからで」

「でも、たぶんこういうのって、先天属性? 適性がないと、使えないはずなんですよ」

「そ、そうかしら?」

「ぜったいそうです!」


 ザラさんの手をぶんぶん振って、すごい、すごいと喜んでしまった。

 心なしか、ザラさんの表情も明るくなったように思える。


「雪国美人で強くて裁縫や料理上手で、おまけに魔法まで使えるなんて、ザラさんってば最強です」

「そんなことないわよ」

「あるんですよ」


 ザラさんは急に真面目な顔になり、私にお願いがあるという。


「なんですか?」

「この力は、他の人に秘密にしておいてほしいの」

「どうしてですか?」

「騎士隊に知られたら、別部隊に転属になる可能性があるからよ」

「!」


 ザラさんと離れ離れになるなんて嫌だ。

 だから、私はその願いを聞くために、しっかりと頷いた。


「メルちゃん、ありがとう」


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