表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

244/412

エスメラルダの怒り その三

 一休みしたあと、再度大甘蟻の地下通路を進んでいく。

 道を進んでいたら、喫茶店のようなお店で甘大蟻がくつろいでいたり、井戸の近くで主婦っぽい甘大蟻がお喋りしていたり、商店が開かれていたりと、ちょっとした地下の国みたいになっている。

 私とザラさん以外に人はいないが、慣れているのか特にジロジロ見られることはない。

 ステラも同様だ。


 ザラさんはアリタと楽しそうに話しながら、どんどん先を進んでいた。


「ねえ、アリタ、私、重たくない?」

『お兄さん、ぜんぜん重たくないよ』

「よかった」


 戦斧を背負っているザラさんが重くないだなんて、アリタは力持ちだ。

 一応、私も確認してみる。


「ステラ、私、重たくないですか?」

『クウ!』


 問題ないようで、ホッとした。


 途中で、雪山に近道できる通路の入り口に行き当たった。

 通路の真ん中に、腕組みして立つアリタよりも一回り小柄な甘大蟻を発見。


『あの蟻が、雪山への近道を作ったんだよ』


 たしか、通行料は甘い物と交換だったようだ。


『すみませ~ん、その道、通りたいんですけれど』

『では、未知なる甘味を要求する!』

『え、今まで、そんなシステムだった?』

『否、今考えた』

『ええ~~……』


 クッキーにチョコレート、飴にケーキ。定番のお菓子は飽きてしまったようだ。


「えっと、そんなに珍しいお菓子は持ってきていないのですが……」


 一応、確認してもらう。

 持っているお菓子を広げてみたが、どれも食べたことがあるらしい。なんてこった。

 皆、地上からアレコレとお菓子を持ってきて、通行料として渡していたようだ。


『困ったなあ。同じ蟻のよしみでどうにかならないよね?』

『無理だな。俺は、未知なる甘味を求めているんだ』


 アリタが『どうしよう?』みたいな感じで振り返っている。


「いいわ。受けてたとうじゃない」


 そう言ってアリタから華麗に跳び降り、発言したのはザラさんだ。


「今から私が、とっておきのお菓子を作ってあげるわ!」

「お、おお~~!!」


 ザラさんのとっておきのお菓子!

 思わず反応してしまったら、注目を浴びてしまった。


「あの、すみません。話を進めてください……」


 なんでも、ザラさんが雪国に伝わる『とっておきのお菓子』を作ってくれるらしい。

 どんなお菓子なのか。私も気になる。


「とりあえず、材料を買いに行きましょう」

「そういえば、ちょっと前に商店がありましたよね」


 小さいお店だったけれど、野菜とか果物とか、いろんな食材が売られていた。


「っていうか、甘大蟻って、砂糖以外にもいろいろ食べるのですね」

『あ~、あれは冒険者用のお店なんだよ』

「そうなのですか?」

『うん。けっこう売り上げいいみたい』


 手堅く稼いで、質の良い砂糖を作るのだとか。

 甘大蟻は世渡り上手な気がする。


 さっそく、道を戻って商店に向かった。


『らっしゃい!』


 ねじりハチマキを頭に巻いた甘大蟻が私達を迎えてくれた。


『今日は何入り用で?』

「え~っと、小麦粉とバター、砂糖はアリタからもらったのでいいわね。あとは卵、牛乳、塩、それと酵母はある?」

『あるよ!』

「じゃあ、お願い」


 ザラさんはいったい何を作るのか。小麦粉とバターということは、焼き菓子?

 でも、酵母を使うお菓子って何かあったか。

 しかも、オーブンはなく、鍋しかない。


「材料は揃ったから、戻りましょう」


 何を作るのか謎のまま、元いた場所へと戻った。


「じゃあ、作るわよ」

「お手伝いします」

「メルちゃん、ありがとう」


 まず小麦粉と酵母、砂糖、塩を混ぜる。次に、卵と牛乳を混ぜ、しばし湯煎して温めた。


「温まった卵と牛乳を小麦粉と混ぜて、しっかり混ぜるの」


 生地がまとまってきたら、バターを加えて捏ねる。


「ここで、しばらく発酵させるのよ」


 三十分ほど休ませると、かなり大きく膨らんだ。ガスを抜いたあと、生地を切り分けて丸めた状態でさらに発酵させる。

 ふっくら発酵した丸い生地は、ころころしていて可愛らしい。


「この状態になったら、低温で揚げるの」


 温めた油の中に入れると、生地はさらにぷくーっと膨らんでいった。

 こんがりと揚がったら、アリタ印の粉砂糖をまぶしてできあがり!


「初雪ドーナツの完成よ」


 パンでもない、お菓子でもない、初雪ドーナツ。

 名前の通り、初雪が地面に降ったような見た目だ。


「まずはメルちゃんとアリタ、味見してみて」

『え!?』

「いいのですか!?」

「ええ、どうぞ」


 アリタと二人揃って、「わ~い」と言ってしまう。

 果たして、初雪ドーナツとは、どんな味なのか。


 揚げたてアツアツなので、ふうふうと息で冷ましてからパクリとかぶりつく。


「わっ、ふわっふわ!!」


 外の生地はサクサクで香ばしく、中は雪の中に顔をうずめたのかと思うほど柔らか。

 表面にまぶされた粉砂糖が、生地のおいしさを引き立ててくれる。


「おいしい以外、言葉にできません」

『これは、すごいお菓子だ~!』


 私達の反応を見て、腕組みしていた甘大蟻は両手を差し出して叫ぶ。


『あ、味見はいいから、早く食べさせろ!!』


 寄越せというので、できたてを持って行く。


 甘大蟻は両手で初雪ドーナツを掴み、一口で食べた。


『!?』


 余程おいしかったのか、びょん! と跳び上がる。

 そして、サッと脇に避けた。


 おいしかったので、通っていいってことなのか。

 ザラさんを振り返ると、満面の笑みを浮かべていた。


 なんとか先に進めそうで、心からホッとする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ