謎の遺跡 その七
ドシン! と重たい音が三つ。真っ暗闇の迷宮の中に響き渡る。
「クッソ、痛ってえなあ!!」
クロウ・ルードティンク、略して山賊。
その山賊の悪態が、真っ暗闇の遺跡の中にこだまする。
「おい、みんな、いるか!?」
立ち上がって体勢を整え、剣を握った状態で声をかける。山賊は隊長の鑑のような男なのだ。
「そこにいるのは誰だ?」
転移魔法でどこかに飛ばされることなど、めったにない緊急事態だ。さすがの山賊も、言葉尻に焦りが滲んでいた。
仕方がないので、返事をしてやる。
『クエ~~!』
「ん?」
『クエクエ』
山賊に伝えた。ここには、私と妹ステラしかいないと。
周囲が暗く何も見えないので、羽を発光させた。すると、周囲の状態も明らかとなる。
「アメリアと、ステラしかいないのか」
『クエ!』
『……』
ステラは母メルと離れ離れになった上に、山賊しかいないので萎縮している。
『クエクエ!』
このままではいけないと思い、最強の黒銀狼なのだろうと奮い立たせた。
それにしても、私達はいったいどこに飛ばされたのか。
地面、壁、天井とごつごつした岩に囲まれた洞窟のような場所である。
それと、かなり暑い。岩から熱を発しているのか、茹だるような暑さだ。
私やステラは幻獣なので暑さに耐性があるが、一応人である山賊にはかなり辛いだろう。現に、露出している顔は玉の汗が浮かんでいた。
「何かわからんが、ここにいるわけにもいかないだろう」
私も同意である。他の者達を、捜さなければ。
『クウ、クウ……』
ステラは先ほどから、契約印を通して母と連絡が取れないか試していたらしい。しかし、まったくダメだったと。
『クエ、クエクエ!』
母は強い。きっと、困難な目に遭っても、危機から逃れていることだろう。
『クエクエクエ』
『クウ』
大丈夫、きっと、誰かが助けてくれている。そう励まし、ステラを立たせた。
『クエ!』
心の準備はできた。山賊よ、さあ旅立とうぞ。
「何言っているかわからないが、俺について来い」
『クエ!』
『クウ』
チーム山賊は、団結して一歩踏み出す。
『クウ、クウクウ……』
ステラが珍しく、抗議してきた。チーム山賊は可愛くない、と。
言われてみたら、確かにそうかもしれない。
だったら何がいいのか。考える。
『クウ、クウクウ?』
『クエ』
なるほど、チーム幻獣乙女と山賊。それならば、厳つさも軽減されるだろう。
気を取り直して、チーム幻獣乙女と山賊は、みんなを探すために大きな一歩を踏み出した。
◇◇◇
なんと、驚いたことに、ここは活火山の内部のようだった。進めばどんどん暑くなり、岩間にマグマの川が流れるようになる。
「熱っ!!」
山賊は跳ね上がったマグマを浴びそうになったようだ。気を付けたまえ。
マグマでも大変なのに、ここは魔物も生息している。
『チューーイ!!』
あれは炎鼠という、背中の針に火を纏った魔物だ。
大きさは一メトル前後。群れを作らず、単独で出現する。
ダンゴムシのように丸まって攻撃してくるので、注意が必要。
さっそく、炎鼠は丸まり、転がってくる。火の塊と化した。
「おらっ!!」
山賊が剣で斬りつけ、宙に上げる。丸まった体勢が崩れた炎鼠の腹を私が爪で掴み、壁に背中をすりつけて針を折って火を消した。
地面に叩きつけるように投げると、ステラが炎鼠を銜えてマグマへ落とす。
『アチューイ!!』
炎鼠の断末魔が、響き渡った。こんな感じで、私達は連携を繰り返し、戦闘をこなしていた。
「はっ、はっ、はっ」
山賊は先ほどから、暑いともなんとも言わないが、大丈夫なのか。息遣いが荒くなっている。一応、水分は取っているようだが。
周囲にマグマが通っていない、岩の窪みを発見したので休憩時間とする。
『クエクエ』
山賊に向かって翼で扇ぎ、涼しくしてやった。
「涼しい……」
ぼそりと、山賊が呟く。その間に、ステラは鞄の中から乾燥果物と岩塩の欠片を取り出し、山賊に差し出していた。
「お前ら、こんな物を持っていたんだな」
母が用意してくれた物である。荷物は各々持ち歩いていたので、離れ離れになっても問題はなかった。
「ありがたく、いただくとしよう」
山賊は岩塩をバリバリと噛み始めた。あれは舐めるものだと母から教わっていたが、まさか噛み砕ける者がいるとは。
これも、山賊力なのかもしれない。
私達も、乾燥果物を食べておく。しっかりと、水分も取った。
「アメリア、ありがとう。だいぶ、涼しくなった」
『クエ!』
「ステラもありがとう。塩分を取ったら、頭痛がなくなった」
『クウ』
休憩を経て、活力を得た私達は、再び仲間達の捜索を続けた。
しかし、捜せども捜せども、誰の気配もない。あるのは、魔物の気配だけ。
先に進めば進むほど、岩場が減って周囲はマグマに囲まれる。
「ここは、なんなんだ……」
『クエエ』
本当に。もしも、母がどこかにいるとしたら──そんなことを考えると、泣けてくる。
母を思っていたら、ポロポロと涙が流れてしまった。
『クウクウ、クウ』
母はきっと、ここではなく別の空間にいる。案外、呑気に茶でも飲んでいるかもしれない。
ステラが励ましてくれた。
そうだったらいいが……。
とうとう、最深部まで辿り着いてしまった。
誰もいない。
目の前には、マグマの湖のようなものがあるだけだった。
やはり、ステラの言う通り、他の人達は別の空間に飛ばされたのか。
『クウ?』
何か、ゴゴゴという地響きのような音がしたらしい。
耳を澄ませたのと同時に、地面が揺れ出す。
「なんだ、マグマから──」
慌てて、山賊の両肩を爪で掴んで背後に跳んだ。ステラも、大きく後退する。
マグマから何かが出てきたのだ。
炎を纏った、五メトルほどの竜に似た魔物。
あれは──火蜥蜴だ!




