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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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225/412

ミレットを調理してみよう

 遠征から戻ってきたあと、幻獣保護局にアメリアとステラ、エスメラルダを迎えに行く。

 アメリアとステラは玄関前で待っていて、「あ、戻ってきたんだ~えへへ」みたいな感じだった。

 一応、寂しかったようで、私が倒れないように力加減をしながら頬擦りしてくれる。

 アメリアもステラも、かわいいよ。


 問題はエスメラルダだ。

 なかなか来ないと思っていたら、幻獣保護局のお姉さんがやってきて、事情を語ってくれた。

 なんでも私がいない間、部屋の隅に移動してピクリとも動かなかったらしい。水の一滴も飲まなかったと。

そいつは大変だと、走って迎えに行く。

 上手くやっているとは思えなかったけれど、ここまで徹底して人見知りとは。

 幻獣保護局の部屋の一角に、エスメラルダはいた。

 先ほど幻獣保護局のお姉さんが言っていた通り、部屋の隅で丸まっている。

 背中を向けているので、表情などは確認できない。


「エスメラルダ、お待たせしました。戻ってきましたよ」

『……』


 エスメラルダはゆっくりと私を振り返り、目を細めながら低く鳴いていた。「よくも、置いて行ってくれたわね」と憤っているようだ。


「仕方ないですよ。任務ですもの」

『……』

「さ、帰りましょう」


 エスメラルダに手を差し出す。無視されるかもしれないと思ったが、エスメラルダは私のほうへとやってきた。

 私の手のひらに前脚を置き、「早く抱き上げなさい」と指示を出す。

 相変わらずのお嬢様っぷりだ。そんなエスメラルダを抱き上げ、幻獣保護局をあとにする。


『パンケーキノ娘ェ~~!!』


 振り返ると、アルブムが焦ったような表情でやって来る。



「アルブム、どうかしたんですか?」

『アルブムチャンノコト、忘レテイタデショウ?』

「いや、アルブムはうちの子ではありませんし」

『エエ~~!!』


 いや、ええ~~とか言われましても。

 

『アルブムチャンモ、連レテ行ッテ!』

「仕方がないですね」


 左手にエスメラルダ、右手にアルブムを抱き上げたけれど。


『キュウ~~!!』


 エスメラルダは後ろ脚で、アルブムをぐっと押して遠ざけていた。


『アルブムチャン蹴ルトカ、酷クナイ?』

『キュ!』

「こら! 喧嘩しないの!」


 賑やかな状態で、帰宅することになった。


 ◇◇◇


 食糧庫に、貰った黍粟稗ミレットが積みあがっている。

 これは前回の任務でお礼の品として貰った物だ。

 ミレットは栄養価が高く、活動力となる炭水化物がたっぷりと含まれている。騎士の兵糧食を作るには最適な食材かもしれない。

 フォレ・エルフの村では、スープに入れて飲んでいた。

 どのように加工しようか。

 とりあえず、保存の利くクッキーやパン、ケーキを作ってみた。

 なかなかうまく焼けたように思える。

 終業後、第二部隊のみんなに試食をしてもらうように頼む。

 これだけだと味気ないので、スープも作ることにした。

 食糧庫にある保存期間が過ぎた食材の処分もかねる。

 ちなみに、食材の保存期間は短めに設定してあるので、少し過ぎていてもまったく問題はない。


 使う食材はベーコン、芋、乾燥キノコ、チーズなど。

 刻んだ食材を鍋に入れ、バターで炒める。

 バターが焦げる直前に少量の水を入れ、そのあとミレットも入れる。

 全体に火が通ったら、牛乳を入れてひと煮立ち。

 最後にチーズと塩コショウを入れて、芋の形が崩れてスープがトロトロになったら『ミレットスープ』の完成だ。


 休憩所のテーブルに、ミレットパン、ミレットケーキ、ミレットクッキーを置き、ミレットスープは鍋ごと持ってきた。

 準備が整ったので、みんなを呼ぶ。

 最初にやってきたのは、隣の執務室にいた隊長だ。


「なんだ、今日は品数が多いな」

「ええ、まあ」


 食材であるミレットが豊富だったので、たくさん作ることができたのだ。

 そのあと、備品整理をしていたらしいベルリー副隊長とリーゼロッテがやって来る。

 最後に、武器の点検をしていたガルさんにスラちゃん、ザラさんとウルガスがやって来た。


「わあ、リスリス衛生兵、どれもおいしそうですね」

「ウルガス、遠慮なく食べてくださいね」

「ありがとうございます!」


 祈りを捧げ、戴くことにする。


 まずは、パンから。

 生地はいつもの天然酵母パンだけど、ミレットを入れることによってどのような変化があるのか。


「ふむ。いつものパンより、噛み応えがあるな」


 硬いパン好きの隊長の言葉に、同じく硬いパンが好みなガルさんがコクコクと頷く。

 他の人はどうだろうか?

 リーゼロッテは眉間に皺を寄せ、慎重に噛んでいるように見える。


「リーゼロッテ、どうですか?」

「食感がいろいろあって、おいしいわ」

「そうですか。よかったです」


 リーゼロッテが食べられるということは、他の人は大丈夫だろう。

 私も食べてみたが、なかなかおいしかった。


 続いて、クッキーもおおむね好評である。

 ただ、ケーキはボソボソ感が増したようで、不評とはいわないもののイマイチだった。

 バターを増やしたらしっとりとした生地になるだろうけれど、その代わり保存性が悪くなる。その辺の調整はとても難しい。


 最後にスープを食べてみた。


「メルちゃん、これ、おいしいわ」


 ザラさんの言葉に、ベルリー副隊長も頷く。


「そこまでたくさん食べたわけではないのに、満腹感がある」


 ミレットを入れることによって、いつもより多く噛んでいるからだろうか?

 

「リスリス、いったい何を入れたんだ? さっき、買い出しに行って食材を買い込んできていたようだが」

「え、何って、ミレットですよ」

「は?」

「ミレットです」


 ミレットの試食会と言っていたような気もするが、隊長の耳にまで届いていなかったようだ。


「ミ、ミレットって、家畜の餌だろう?」

「一部地域の人達にとっては、立派な食材ですよ」


 おいしい、おいしいと食べたあとで、食材が何かを気にするとか。

 相変わらず、隊長は繊細だ。

 食べる手が止まってしまったので、ザラさんが指摘する。


「クロウ、こんなにおいしいのに、顔を青くするのは失礼よ」

「あ、青くなんかしてないだろうが」

「鏡を見なさいよ。まったく、つまらないことを気にするなんて。小さい男ね」

「き、気にしてなんかない!」


 そう言って、隊長はスープを飲みほし、おかわりまでしていた。


「うまいじゃないか!」


 なんとか、気合でミレットを食材と認めてくれたようだ。

 よかった、よかった。


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