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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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骨董市にて その二

 お昼は湖のほとりで取ることになった。

 私はさっそく、ニクスの中からメインの材料を取り出す。


「リ、リスリス衛生兵、それはもしや、お肉ですか!?」


 ウルガスは、大きな肉塊に目ざとく気づく。


「そんな立派な三角牛の肉の塊なんて、初めて見ました! でも、どうしたんですか?」

「昨日、商店街の抽選会で、肉屋さんの商品券が当たったのですよ」


 商店街が一年に一回しているという、『抽選会』。

 金のおたまや、旅行券、商品券などが当たるのだ。

 ずっと楽しみにしていて、地道に抽選券を貯めていたけれど、私が引いたのはすべてハズレだった。

 昨日、ガルさんと香辛料を買いに行った。抽選券をもらったので、スラちゃんにクジを引いてもらったところ、肉屋さんの商品券が当たったのだ。

 見事、商品券を引き当てたスラちゃんは、胸を張って誇らしげだった。


「第二部隊の経費で買った物だったので、みんなで良い肉を食べようとガルさんが提案してくれたのですよ」


 すぐに肉屋に行って、普段は買えないような大きくて高価な肉塊を購入したのだ。

 その話を聞いて感極まったウルガスは、ガルさんとスラちゃんがいる方向を見て、深々と頭を下げていた。


 肉塊は保存食にしようと思っていたが、予定は変更する。

 突然の遠征任務で落ち込んでいたウルガスのために、おいしい肉料理を作ることにした。


「今日は、炙り肉を作ります」

「やった~!!」


 いつもだったら作るのに躊躇ってしまいそうな大きな肉だけど、今日は特別だ。


「ウルガスも手伝ってください」

「もちろんです」


 ウルガスにはかまど作りと、火熾しを頼んだ。

 私はまず、肉塊に塩コショウ、数種類の薬草をしっかり揉み込む。

 本日使う鍋は鋳鉄ちゅうてつ製の厚い鍋。

 これは蓋の上に炭火が置けるので、食材の火の通りがよくなる優れものだ。


「ウルガス、かまどは完成しましたか?」

「バッチリです」

「ありがとうございます」


 まず、かまどの上に鍋を置いた。

 温めたあと、鍋にスライスした薬草ニンニクと、その辺で摘んだ迷迭草ローゼマリーを入れて焼き色が入ったら肉を焼く。

 肉を全面焼いたら、いったん引き上げて、鍋底の油は別のお皿に取っておく。

 次に、鍋の底に石を置き、その上に鉄製の網を敷いて底上げする。その上に肉を置いてさらに熱するのだ。

 一緒に、ジャガイモやニンジン、タマネギなどの付け合わせとなる野菜も詰めておく。

 蓋を閉め、上に炭火を置いた。

 しばらく熱し、野菜に火が通ったら鍋を下す。

 十分くらい、余熱状態で鍋を置いておくのもポイントだ。

 その間に、ソースを作る。

 タマネギを刻み、先ほど取っておいた肉汁を含んだ油で飴色になるまで炒めた。

 透明な飴色になったら、塩コショウ、赤ワインを投入。ぐつぐつと沸騰させてとろみが出るまで煮詰めたら、肉汁ソースの完成だ。

 そろそろ肉もいい頃合いなので、切ってみることにした。

 ウルガスがキラキラの目で見守っている。

 鍋から取り出した肉を、ナイフで薄切りにした。


「どうですかね」

「お、おお……!」


 肉は中心に赤みが残っている。ちょっと火を入れすぎてしまったか。しかし、それでもおいしそうだ。

 付け合わせの野菜も切り分け、隊員全員分を皿の上に置いた。

 最後に、肉汁ソースをかけたら完成である。


「よし、できました。肉汁ソースをかけた三角牛の炙り肉です」

「とってもおいしそうですね!」


 きっと、おいしいだろう。

 みんなを呼んで、食べることに。

 隊長は今までにない豪華な料理だったので、驚いていた。


「おい、リスリス、どうしたんだ? 今日はえらい豪勢じゃないか」

「昨日、抽選会でお肉の商品券が当たったもので。ソースのお酒は、きちんと部隊の予算で買ったものなのですよ」


 しばらく、隊長の隠し酒を使って料理していたけれど、最近活躍しているからか、予算がぐっと増えたのだ。

 そのおかげで、料理用の酒を買うことができた。


「よし、食べましょう」


 まずは、抽選会で肉の商品券を引いてくれたスラちゃんに深く感謝。

 スラちゃんは、「いいってことよ」と言わんばかりに、軽く手を振っていた。

 食前の祈りを捧げ、いただきます。

 まずは、ソースがかかっていないお肉から食べてみる。


「……うん!!」


 肉はしっとりしていて、驚くほど柔らかい。

 噛めば肉の旨みがじわりと溢れ、舌の上を楽しませてくれる。

 肉本来のおいしさを、存分に堪能した。

 続いて、ソースを絡める。

 コクのあるソースと、肉の相性は抜群。噛んだ時に溢れる肉汁とソースが絡みあい、極上の味わいとなった。

 噛めば噛むほど肉汁が溢れるのに、クドくない。なんだろう、素材の味の大勝利というか。

 ──高いお肉はおいしい。

 この理論は、いつか学会で発表したい。


 夢中になって食べてしまったけれど、他の人はどうだったのか。


「隊長、お味はどうでしたか?」

「お前、実家の厨房で働けるぞ。即戦力だ」

「こ、光栄です」


 これはきっと、最大の褒め言葉だろう。そういう風に受け取っておく。


 リーゼロッテは上品に切り分けて食べていた。黙々と食べ進めているので、普通においしいということだろう。

 ベルリー副隊長はきちんと私を見て、「おいしい」と褒めてくれた。

 そうだ。私はこういう言葉がほしかったのだ。

 ガルさんは尻尾をぶんぶん振りながら、炙り肉を食べている。

 その様子を、スラちゃんは頬杖をついて見守っていた。それを見て、ほっこりしてしまう。

 ザラさんはパンに炙り肉を挟んで食べていた。


「メルちゃん、これ、最高ね。今度、作り方教えて」

「はい!」


 また、ザラさんとレシピ交換会をしなければならない。

 楽しみだ。

 そして、ウルガスはといえば──。


「うっ……ううっ」


 泣いていた。いったい、どういうことなのか。


「ウルガス、どうしたんですか?」

「すごく、おいしくって」

「そ、そうでしたか」


 泣くほど喜んでくれるなんて、料理人冥利に尽きるというか、なんというか。


「俺、任務頑張ります。すごく、力とやる気が出ました」

「ですね!」


 おいしいものを食べると、気合が入る。

 午後から、私も頑張ろうと思った。


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