野鳩と白米のとろとろ煮
我々第二部隊は野原に出た途端、道なき道を進む。
周辺は一面私の背丈ほどの草が生えており、獣道すらない場所なのだ。
前を歩く隊長が、ガルさんが、ザラさんが道を作ってくれていた。
開けた場所に出たら野営をしよう。そう決めていたのに、歩けども歩けども草っぱら。
もう、体力は限界だった。
そこで、隊長は決定する。この、草っぱらで野営すると。
「え、ほ、本気ですか? ここ、眠れるような場所ではないですし」
「リスリス、そもそもお前が疲れて歩けないって言うから、あの時休憩を入れた。もしも、野営地を先に探していたら、こんな事態にはなっていなかっただろう」
「うっ!」
それを言われると、何も言い返せない。
「そもそもだな──」
「リ、リスリス衛生兵は悪くありません! 先に休憩したいと言ったのは、俺です!」
なんと、ウルガスが庇ってくれた。
先に休憩したいと言ったのは確実に私だけど、隊長に詰め寄られる状態を気の毒に思ったのかもしれない。
ウルガスは両手を広げ、震える声で「リスリス衛生兵を怒らないでください」と言っている。
「まあ、過ぎたことを言っても仕方がないわね」
「そうだな」
ザラさんとベルリー副隊長が、フォローしてくれる。
ガルさんはポン! っと肩を叩いてくれた。
「そうよ。誰だって、失敗することはあるんだから」
「リーゼロッテ……」
みんな、優しい。
隊長は一人険しい表情をしているけれど、隊員達の命を預かる立場なので、神経質っぽくなってしまうのだろう。
隊長がしっかりしているおかげで、遠征先でも困った事態にならないのだ。
それはいいとして。
「しかし、ここでどうやって寝るのか」
「そうですね」
草は意外と丈夫ですっとまっすぐに伸びており、気を付けないと手を切りそう。
一本引き抜いてみようとしたが、案外根が強くて抜けない。
繊維が強いのか、千切ることもできなかった。
「う、んっ!!」
『クエクエ』
アメリアが嘴で一本引き抜いてくれた。
「すみません、ありがとうございます」
ここに自生している草は、乾かした藁に似ている。雑草と思えないくらい丈夫だ。
ザラさんは草を抜き、ベルリー副隊長はナイフで切る。
「根が強いということは、簡単に引けそうにないわね」
「切っても、切り口が固いのならば、その上では眠れないだろう」
「ということは、この草で布団を作るしかないですね」
まず、ガルさんにお願いしてみる。
「ガルさん、草を束で持って、切った草で二カ所くらい縛ってもらえますか?」
手先が器用なガルさんは、私の指示通り草の束を結んでくれた。
「この縛った草の束を、体重をかけて倒す」
こうすると、草の束は水平になった。根の部分は起き上がらないように、足でぐっぐと踏んでおく。
「この束をいくつか作ったら、天然の草布団ができるかと」
「さすが、リスリス衛生兵です!」
「メルちゃんの言ったお布団を、作ってみましょう」
みんなで、各々の草布団を作る。
アメリアやステラも、器用に鳥の巣のようなものを作っているようだ。
創作意欲が素晴らしい。
私はコツを掴んだので、すぐに完成した。ついでに、隊長の分も作る。途中から、ガルさんとスラちゃんが手伝ってくれた。
隊長は火を熾す場所を作るため、一人除草作業をしていた。
「ルードティンク隊長、作業完了しました」
「だったらもう眠れ。お前はベルリーと、明け方に見張り番をしろ」
「了解です」
隊長はふりむきもせず、背中を向けたままで言った。
「……まだ、何かあるのか?」
気配で、私がまだいると気づいたようだ。背中に目が付いているのか。心臓に悪いから、こっちを向いて喋ってほしい。
「あ、えっと、今日は、すみませんでした」
「何がだ?」
「私が我儘を言ったせいで、こんな場所で野営になってしまい」
「いい。気にするな、とは言わんがな」
「あ、はい」
こういう時、素直に気にするなと言わないのが、我らがルードティンク隊長である。
「いいから早く寝ろ。明日も早い」
「はい。おやすみなさい」
アメリアとステラの鳥の巣風布団は完成したようだ。寄り添って眠る様子は、ほっこりしてしまう。
草布団に戻り、大判の布を広げてその上に寝転がった。ニクスはお腹の上に置いて暖を取り、鞄を枕にする。左右に、アルブムとエスメラルダがやって来た。もこもこしていて暖かい。脱いでいた外套を被って眠る。
この日は疲れていたからか、明け方までぐっすり眠ってしまった。
太陽が昇りきる前に、朝食の準備をする。
肌寒いので、温かいものを作ろう。
昨日、調理前に抜いておいた野鳩の骨をぐらぐらと煮込み、灰汁を取り除く。
香辛料と塩で味付けし、白米を入れた。
白米が炊けたら、『野鳩と白米のとろとろ煮』の完成である。
野鳩の骨には肉が付いているので、そのまま皿に入れた。
「みなさん、食事の準備ができましたよ」
みんな、昨晩作った草布団を解いていた。
ちょっと草の向きに癖ができているけれど、しばらくしたら元通りになるだろう。
「あら、メルちゃん、それ、おいしそうね」
「はい! たくさん食べて、温まってください」
揃ったところで、食べ始める。
白濁したスープと白米を掬い、ふうふうと冷ます。
猫舌の隊長は特に念入りに冷やしていた。
そろそろいいかなと思ったところで、パクリと食べた。
「うん!」
出汁が利いていて、白米に味がしみ込んでいる。
骨に付いた肉は歯ごたえがあっておいしい。手掴みで食べてしまった。
先に食べ終えたアルブムが、ゆっくり食べているエスメラルダのお皿をじっと眺めていた。しかし、途中で気づかれて、『キュ!!』と威嚇されていた。アルブムは『アウゥ……』と言うばかりだった。弱い。
「アルブム、今日一日、自分で歩くんだったら、おかわりあげますよ?」
『ダッタラ、アルブムチャン、自分デ、歩ク!』
遠征から連れて帰ったら太っていた、という事態は避けなければならない。
交換条件を出して、アルブムにおかわりを与えた。




