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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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211/414

いざ、仲間を引き連れ夏祭りへ!

 なんでも、白猪豚はシエル様の土地で狩ったものらしい。まさか、自国外に領地を持っていたとは。さすが大英雄である。

 魔物退治をしたさいに、お礼として貰ったようだ。

 シエル様曰く、白猪豚は領土内にはたくさんいるらしい。しかし、辺鄙(へんぴ)な場所に生息しているので、市場へは出回らないのだろうとのこと。

 どうやって運んできたのか気になったけれど、どうせ私には理解できないようなことだろうと思い、謎のままにしておいた。

 とりあえず、密猟じゃなくてホッ。


 ◇◇◇


 ついに、お祭り当日となった。

 じりじりと太陽が照り付ける中、街はひときわ賑わいを見せている。

 太陽が石畳を橙色に染めるような時間帯に、祭りは開始となるのだ。


 本日、休憩所で出す料理は以下の通りだ。

 ・果物とスライム麺の蜜サイダー

 ・冷製柑橘猪豚麺

 ・緑豆の冷製クリームスープ

 ・猪豚の串焼き

 ・猪豚サンド

 ・木苺の冷製スフレ


 木苺のスフレはアレだ。総隊長に女性騎士の気分が華やぐような料理を作ってくれと言われて考えたものだった。

 木苺は目の疲れに効果的で、睨みを利かせる騎士達にはうってつけの食材だろう。加えて、脂肪燃焼効果があるので、女性には嬉しい一品だ。

 まあ、スフレが甘いので、効果はあまり期待できないかもしれないけれど。


 前日まで、食堂のおばちゃん達と下ごしらえと作り置きを頑張った。

 作った料理はスラちゃんが高速冷却を行ってくれた。

 この魔法(?)のすごいところは、冷えた状態が持続されること。

 スラちゃんのおかげで、冷製料理以外の食料も傷まずに済んでいる。


 アルブムは今日、休憩所のお手伝いをしてくれるらしい。とにかく人手不足で、アルブムの手も借りたい状態なので非常に助かる。

 スラちゃんも、拳を突き上げ、気合を見せてくれていた。

 エスメラルダは、何も言っていないけれどツーーンと顔を逸らしている。

 まだ、手伝えとか言っていないのに。


「エスメラルダは、アメリアやステラと家で待っていますか?」

『キュウ、キュキュ!?』


 なんと、彼女は「現場は暑いし、人も多い。けれど、私を置いていく気!?」と憤慨している。


「え~っと、けっこう過酷な場所ですよ?」

『キュキュ、キュウ!』


 曰く、「わたくしが、そんなに軟(やわ)に見えて!?」と訴えていた。お嬢様を通り越して、女王様なので、現場には来ないと思っていたが。意外だ。

 まあ、人手(?)としてはまったく期待していない。

 ここで、意外な人物が手伝いを名乗り出る。


「リスリスよ。私も手伝うぞ」

「え!?」


 なんと、シエル様も手伝ってくれるようだ。


『コメルヴは、人混み無理だから、お留守番』

「む、そうか」


 今回はシエル様単独でのお手伝いのようだ。


「微力ながら、手伝ってやろうぞ」

「それは、大変ありがたいのですが──」

「む、どうした?」


 それよりも、気になることがあった。

 それは、シエル様が兜ではなく、馬の被り物を装着していること。

 美しい黒馬だった。


「いえ、その被り物はどうしたのかなと」


 鎧の上からエプロンをかけているのはまあギリギリ理解できる。シエル様は形から入るタイプなのだ。

 けれど、馬の被りものはいったいどうしたのか。

 気になって仕方がない。

 シエル様は腰に手を当て、堂々たる様子で答えてくれた。


「これは、馬の被り物である」

「あ……はい」

「先日、購入してな。似合っておらぬか?」


 え~~っと。どこからツッコめばいいのか。


「お、お買い物に、行かれているのですね」

「私はすろーらいふを楽しみたいので、あまり外出はせぬのだが、三日に一度、街へ赴いておる」


 三日に一度って、結構な頻度だな。まあ、都会暮らしのシエル様にしたら、少ないほうなのかもしれない。


「街の外れに、ガラクタを売る変わった店があるのだが、そこで買った夫婦馬の被り物だ」

「そ、そうだったのですね」

「ふむ。なんでも、異国の変り者の夫婦が、心を通じ合わせるために被っていたらしい」

「不思議な交流ですね」

「私もそう思う。しかし、この馬を被っていると、不思議と素直になれる気がするのだ」

「な、なるほど」


 ちなみに、騎士達に顔(?)がバレているので、変装的な意味合いで馬を被っていたようだ。やっと、馬の被り物を装着している理由にたどり着いた。恐るべし、シエル様である。


「これも何かの縁だ。リスリスに、もう片方の馬を授けよう」

「わ、わ~い」


 馬の被り物を賜れるようだ。

 今の時季は暑くて被れないけれど、冬はいいかもしれない。


 ……そんなわけで、頼れる仲間を引き連れ、夏祭りに挑む。


 ◇◇◇


 シエル様のことを、身分はしっかりした人だと紹介して回ったが、疑惑の視線を受け続けている。

 無理もない。馬の被り物を装着しているのだから。

 馬の頭部を被り、首から下は鎧というシエル様の姿は不審に映ってならないのだ。


「しかし、この天幕の中はけっこう暑いな」


 太陽は沈みつつあるけれど、今日も蒸し蒸ししていた。

 料理をする天幕は、特に暑い。


「風を入れようと隙間を増やしたのですが、本日はあいにくの無風でして」

「なるほどな。こういう時は──」


 シエル様は水晶剣を抜き、地面へ突き刺す。


「氷柱剣(アイシクル・ソード)!」


 シエル様が叫ぶと、地面から氷柱(つらら)が突き出してきた。一気に、天幕の中はひんやりと冷える。


「わっ、シエル様、すごいです。涼しい!」

「先端が尖っているから、気を付けよ」

「はい」


 この暑さでは、料理をする私達も倒れてしまうのではと思ったが、この温度ならば大丈夫そうだ。

 シエル様に感謝である。

 さらに、ここだけでなく、休憩所のほうにも氷柱を生やしてくれた。

 これで、騎士達も快適に過ごせるだろう。


 こうして、遠征部隊の休憩所は開放されることとなった。


挿絵(By みてみん)

GCノベルズよりエノク第二部隊の遠征ごはん3

4月28日発売です。

ついに、アルブム&スラちゃん登場となります。

1巻、2巻同様、書き下ろしはたっぷりですので、お楽しみいただけるかなと!

活きの良いアルブムの挿絵がございますので、ご期待ください。

特典につきましては、後日お知らせいたします。

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