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エノク第二部隊の遠征ごはん  作者: 江本マシメサ


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201/412

軽食──アップルキャラメリゼパン

 度重なる凶悪な魔物の出現、それにともなう強化魔石の発見、異常気象、さらにスラちゃん誘拐事件まで、デイ・ユケルに関係する組織の仕業だったらしい。


 そのすべては、魔法使いの威光を取り戻すために起こした事件だったとか。


 騒ぎが起こったあと、表舞台に出現し華麗に解決する予定だったと。


 そんな手の込んだ自作自演の邪魔をしていたのが、我らがエノク第二遠征部隊だったようだ。


 以上の情報を、帰りの馬車の中で隊長が力づくで聞きだしていた。

 ウルガスが戦々恐々としながら呟いた。


「さ、さすが、我らが隊長です。警邏けいら部隊で副隊長をしていただけある」


 隊長が警邏部隊に所属していた当時、自慢の強面と腕力で不審者から罪を自白させることを得意としていたらしい。

 そんな輝かしい経歴があったなんて。


 魔石獣カーバンクルは余程酷い目に遭ったのか、デイ・ユケルに威嚇し続けている。

 隙あらば、顔を引っ搔きに行こうとするのだ。

 なんだろうか、この血気盛んな感じは。

 エメラルドグリーンの綺麗な毛並みにくりっとした目、垂れた耳と、ふわふわの長い尻尾と外見は可愛いのに。

 現在、私の膝の上に乗せて、デイ・ユケルのほうに行かないよう体を押さえつけている。


「そういえばメル、その子の名前、どうするの?」

「あ、そうでした」


 リーゼロッテの指摘で思い出す。魔石獣にも、名前を考えてあげなければならない。


 ちょうど、馬車の馬の休憩時間となったのでみんなに相談してみた。


「魔石獣の名前、どうしましょう?」


 座った輪の中に拘束されたデイ・ユケルがいるのが気になるけれど、まあいい。

 一番に提案してくれたのは、隊長だ。


「爪でガリガリするのが好きみたいだから、ガリとかどうだ?」

「隊長はまた、そんな名前の決め方を……」


 速攻で却下する。

 アメリアの名前を決める時も、隊長はガブガブ噛みついていたのでガブとか、そんな名前を提案していたのだ。

 女の子なんだから、可愛い名前にしてほしい。

 今度は、ウルガスが挙手した。


「リスリス衛生兵、ピョンピョンとかどうでしょう?」

「いや、それもちょっと」


 ウルガスのネーミングセンスも独特だ。

 ここで、ザラさんが素敵な着想を挙げてくれる。


「ねえ、メルちゃん。この子、なんだかお嬢様みたいだから、それらしい名前を付けてみたらどう?」

「あ、いいですね」


 ザラさんの言うとおりリーゼロッテみたいな、貴族のご令嬢っぽい名前が似合いそうだ。


「え~~っと、リーゼロッテっぽい……う~~ん、リーゼロッテ」

「ちょっと、私の名前を付けないでよ」

「いや、なんかリーゼロッテしか思い浮かばなくて」

「あなたねえ」


 ベルリー副隊長も一生懸命考えているように見えるが、刻まれた眉間の皺を見る限り、何も思い浮かばないのだろう。


「…………あの、ガルさん」

「なんだよ、結局ガル頼みかよ」


 隊長はそんなことを言ったが、ガルさんは気にしないでくれと言ってくれた。

 その上、魔石獣の名前も提案してくれる。

 地面に書かれた名前は──エスメラルダ。


「わっ、綺麗な名前です。それに、お嬢様っぽい! ガルさん、ありがとうございます」


 エメラルドを異国風に発音した名前らしい。


「あなたの名前、エスメラルダに決まりました。いかがですか?」

『キュキュウ!』


 魔石獣改め、エスメラルダは「まあ、悪くないわね」みたいな感想を言っていたものの、尻尾はぶんぶんと振られていた。どうやら、お気に召してくれたようだ。


 命名を終えたあと、小腹が空いたので軽食を作ることにする。


「リスリス衛生兵、俺も手伝いますよ」

「ありがとうございます」


 まず、ウルガスに生の森林檎メーラを一口大に切り分けるようお願いした。

 私は鍋に砂糖を入れて、焦げないように見張る。

 砂糖が溶け、キャラメル状になってきたら切った森林檎を投下。キャラメルと森林檎を絡めるように炒める。


「うわ~、リスリス衛生兵、良い匂いがしますね」

「ええ、そうですね」


 甘いものが苦手な隊長は顔を顰めていたけれど。


 キャラメルが琥珀色になったら、火から下す。

 これを、パンの上に載せて食べるのだ。


 隊長には、チーズと燻製肉を載せたパンを作ってあげる。


「俺のだけ、火を使っていないお手軽料理じゃないか」

「火の通った森林檎のキャラメル絡めならありますが」


 そう言ったら、黙ってパンを食べ始める。


「リスリス衛生兵、食べてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」


 温かいうちに食べる。

 カリカリになったキャラメルが、甘酸っぱい森林檎とよく合う。

 パンとの相性もバッチリだ。


「メルちゃん、これおいしいわ。お店でも出せる味よ」

「本当ですか? 嬉しいです!」


 ザラさんに褒められて、自然と頬が緩む。

 隊長は最後まで顰め面だったけれど。

 なんだか気の毒だったので、料理用の葡萄酒に森林檎を入れて温めたものを作ってあげた。


 酒の成分はほとんど飛ばしてあったけれど、すごく喜んでいた。

 単純な人で良かったと思う。


『クエクエ~』


 一息ついたところで、アメリアが声をかけてくる。

 なんだか、困ったような顔で私を見ている。


「どうかしましたか?」


 アメリアだけではない。ステラもなんだか居心地悪そうな感じでいた。


『クエクエ、クエ』

「え!?」


 なんと、エスメラルダは用意した森林檎を一口も食べなかったらしい。


 森林檎から顔を背け、ツーンとしていた。


「エスメラルダ、森林檎は好きではないのですか?」

『……』


 私にまでツーンをしている。いったい、どうしたものか。

 他の果物を出しても、見向きもしなかった。

 私の血がいいのかと聞いても、ツーーンとするばかり。

 どうやら、他に好きなものがあるようだが、自分から言おうとしない。

 当ててみてってか。

 なんという、我儘わがままお嬢様なのか。


「リーゼロッテ、魔石獣の好物とか知らないですよね?」

「ごめんなさい、わからないわ」

「ですよね」


 魔石獣の生態は謎に包まれている。さすがのリーゼロッテでも、わからないようだ。


「まあ、メルと契約で繋がっているから、生命活動の危機になることはないと思うけれど」

「ですか」


 契約で魔力の供給ができても、空腹感は覚えるらしい。

 所持していた食料を出してみたが、どれも結果はツーーーンだった。


 とりあえず、侯爵様に相談してみるしかないようだ。


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