表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/412

魔石獣と身体検査

 魔石獣カーバンクルとは初めて聞いた。アメリアと契約した時に幻獣図鑑的なものを貰ったけれど、額に赤い石がついている兎っぽい幻獣はなかったはずだ。

 なんていうか、今までの幻獣は愛嬌がある姿だったり、精悍な姿だったりしたけれど、魔石獣は――とってもかわいい。

 長い耳は垂れていて、エメラルドの毛並みもピカピカだ。ちょっと撫でてみたいと思う。

 しかし、背中の毛は逆立っていて、警戒心を露わにしていた。


『キュウ……!』


 目が合ったら、ジロリと睨まれてしまう。

 なんだろうか。獣的な野性味溢れる牽制ではなくて、高慢なお嬢様渾身のひと睨みみたいな。


「おい、リヒテンベルガー、あれはどういう幻獣なんだ?」


 それは、私も気になる。今現在、結界の中に籠りっきりで、襲ってくる気配はないようだけれど。


 リーゼロッテは伝説の幻獣を前に、言葉を失っていたようだ。

 ベルリー副隊長が「大丈夫か?」と声をかけ、背中を優しくなでるとハッとなる。


「あ、ごめんなさい。信じられなくて、つい……」

「いや、いい。それで、リヒテンベルガー魔法兵、あの魔石獣とは、どういう生き物なのか?」

「それは――」


 リーゼロッテより、驚くべき情報がもたらされる。


「千年以上も前、魔石獣は、珍しい幻獣ではなかったの」


 魔石獣は魔力が豊富な世界樹の近くで、よく目撃されていたらしい。


「というのも、魔石獣は魔力をかてとしていて、額の魔石に魔力を溜める習性があるんだけれど」


 それに気づいた魔法使いは、魔石獣の運用を思いついた。


「酷い話なんだけど、魔法使いは魔石獣を、魔法を発動させる魔法具のように使っていたらしいの」


 魔石獣の魔力を使ったら、高位魔法が一日に何発も撃てる。そんな噂話が広がって、魔石獣の乱獲が始まった。

 たくさんいた野生の魔石獣はあっという間に姿を消し、そのほとんどは魔法使いと契約して使い魔となったのだ。


 魔石獣を欲する魔法使いが増え、繁殖を行おうとするもの、転売をしようとするものと、悪どい商売が広がる。

 けれど、繁殖は失敗し、契約も解除できないので、転売も叶わなかった。

 そうだとわかると、ますます野生の魔石獣の需要は高まり、魔法使いでない者すら血眼で探した。


「そして、魔石獣は滅んだ――というふうにはならなかったの」


 滅ぶ前に、予想外の事件が起きたようだ。

 魔石獣は、魔法使いに牙を剥く形になる。


「魔力を食料とする魔石獣は、じわじわと契約者の魔力を奪い――最終的に魔力不足状態にしてしまって、主人を殺してしまったのよ」


 契約者が死ぬと、契約を結んだ幻獣も死ぬ。

 このような事件が次々と発生し、悪だくみをしようとした魔法使い共々、魔石獣も姿を消したのだ。


「なんでしょう……因果応報と言いますか」

「本当に」


 この魔石獣も、きっとデイ・ユケルに利用されていたのだろう。


「ということは、渡り鳥や私達の魔力を奪ったのは?」

「この子だと思うわ」

「ですよね……」


 事情は把握した。続いて、デイ・ユケルが魔石獣と契約しているか調べなければならない。


「おい、ウルガス」

「ええっ!?」

「まだ何も言っていないだろうが」

「い、一応聞きますが、なんですか?」

「デイ・ユケルの体に幻獣との契約印がないか調べろ」

「やっぱり!」


 隊長の命令は絶対だ。

 ウルガスは涙目で、デイ・ユケルの前にしゃがみ込む。

 服に触れる前に、ガルさんのほうを見た。すると、スラちゃんが瓶の蓋をドコドコ叩く。

 どうやら、スラちゃんが手伝ってくれるようだ。

 ガルさんが蓋を開けると、スラちゃんがウルガスのほうへと飛び出してくる。


「スラちゃんさん、頑張りましょう」


 スラちゃんは任せろと言わんばかりに、胸をドン! と叩いていた。

 一方で、隊長は眉間に皺を寄せ、魔石獣をじっと見張っている。アメリアとステラもだ。

 みんな、そんな怖い顔で見なくても……。

 心なしか、魔石獣も怖がっているような気がする。先ほどよりも、三歩ほど後ろに下がっていた。


 デイ・ユケルの身体検査が始まる。

 リーゼロッテはさすが貴族令嬢というべきか、デイ・ユケルに背を向けていた。

 私は、契約印の有無があるのか普通に気になって見てしまう。

 手の甲や首などにはないようだ。


「うっ……。今度は、服の下……ですね」


 スラちゃんがデイ・ユケルの服を豪快に剥ぐ。


「胸部……腹部、なし。腿……膝、足……足の裏、なし」


 身体検査がよほど嫌なのか、ウルガスはやる気のない声で確認していく。

 表面の確認が終わったら裏だ。

 スラちゃんがデイ・ユケルの背中に手を差し込み、一気にひっくり返した。


「スラちゃんさん、力持ちですね!」


 褒められたスラちゃんは、自慢げに前髪を掻き上げるような仕草を取っていた。

 ……髪、ないけどね。


 デイ・ユケルの裏側にも、契約印はない。


「隊長、魔力刻印ないです!」

「それで全部じゃないだろ。口の中と股間も調べろ」

「うわあああ!!」


 衝撃的な命令に、ウルガスは頭を抱えて倒れこむ。


「嫌すぎる!」

「バカ言え。警邏部隊なんか、不審者捕まえて、毎日身体検査しているんだぞ」

「え、遠征部隊でよかった……!」


 ここで、ザラさんとガルさんが身体検査役の交代を提案していた。すぐに、隊長が許可する。


「アートさん、ガルさん……!」


 ウルガスは手と手を合わせ、二人に感謝していた。

 ガルさんとザラさんは、すぐに口と股間の身体検査を始める。

 まず、ガルさんが頬を左右から押した。すると、口がパカっと開く。

 続いて、革手袋を付けたザラさんが口の中を調べた。


「舌の裏表、頬、上顎に下顎――異常なしよ」


 最後に、股間を調べる。じっと眺めていたら、ベルリー副隊長に肩を叩かれた。


「リスリス衛生兵、そこは見なくてもいい」

「あ、そうでした」


 ベルリー副隊長と二人して、デイ・ユケルに背を向けた。なぜか、ウルガスも私の隣に並んで背けている。

 ウルガスの手の平には、両手で目を隠すスラちゃんの姿が。彼女も乙女なのだ。


「下半身も、問題ないわ」

「わかった」


 どうやら、デイ・ユケルは魔石獣と契約していないらしい。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ