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次から次へと問題が発生して滝汗

「みなさん、具合はどうですか?  気持ち悪いとかないです?」


 私とスラちゃんの有効成分で作ったゼリーを食べて、お腹が痛くなったら申し訳ない。


「いいえ、大丈夫よ。それどころか、疲れもなくなっていて、体の調子がいいの」


 ザラさんの言葉にホッと安堵する。

 他の方も同様に、体に異変はないらしい。


「魔法保存会とかなんとか知らないが、絶対に許さん!!」


 隊長は手を組んで、ボキボキ鳴らしながら言った。

 なんだろうか、この凄まじい山賊感は。山の中にいるので、余計にそう見えるのだろう。

 今この瞬間、私の中で『この山賊が強い』堂々の第一位に輝いた。


『クエッ、クエ~~!!』

『クウ、クウクウ!』


 復活を遂げたアメリアとステラが訴える。この近くに、強い魔力を感知したと。


「私達の魔力をたくさん吸収したから、魔力反応が強くなったのね」


 リーゼロッテが杖をぎゅっと握りしめ、忌々しいと言わんばかりに呟いた。


「リスリス衛生兵と、スラがいなかったら、本当に危なかった。雪の積もった中に放置されて、魔力が回復する前に、凍死していただろう」


 ベルリー副隊長は、吐き捨てるように言った。


「絶対に、許さないわ」


 ザラさんが、低い声で呟く。


「ゼリーおいしかったですけれど、他人の魔力を奪うのは、よくないことです!」


 ウルガス、ゼリーおいしかったんだ。それはよかった。


 スラちゃんは左右の手を交互にシュッシュと突き出していたが、ガルさんに頑張ったからもういいと頭を撫でられ、瓶の中へと入れられていた。

 最後に、隊長は――。


「ぶっ殺してやる」


 何やら物騒な言葉を発していた。

 眉間に深い皺を寄せ、額には青筋を浮かべている。

 正規の騎士にはとても見えない。

 戦々恐々とする私を安心させるように、ベルリー副隊長が言った。


「リスリス衛生兵、大丈夫。先ほどの隊長の言葉は、その、比喩だ」


 ぶっ殺してやるの比喩とはいったい……。

 そんなことはどうでもいい。犯人のいる現場まで急がなくては。

 私達はアメリアとステラの誘導で、強い魔力を発する場所へと急いだ。


 ◇◇◇


 山頂付近だったが、その後の道のりは険しいものであった。

 ほぼ垂直の岩壁を、登っていく。

 私には、スラちゃんが変化したロープが巻かれ、ガルさんがぐいぐいと引っ張ってくれた。


 リーゼロッテの体はアメリアとステラが支えてくれていた。

 岩肌をせっせと登るリーゼロッテの体を押してくれている。


『クエックエ!』

『クウクウ』

「あ、ありがとう、アメリア、ステラ」


 なんだか、三人の間で友情のようなものが生まれているような気がする。

 いいことだ。


 そしてなんとか登り切り、ようやく犯人が潜伏しているであろう場所にたどり着いた。

 山のいただきには、小さな洞窟がある。ここに、人の気配と強い魔力反応があるらしい。


 隊長は最高に荒ぶった顔で剣を抜く。他のみんなも、各々武器を構えていた。

 洞窟の中へと入る前に、隊長がリーゼロッテに命じる。


「リヒテンベルガー、洞窟内に変な仕掛けがないか調べろ」

「ええ」


 リーゼロッテは洞窟の出入り口前にしゃがみこみ、何やらぶつぶつと呪文を唱えている。

 アメリアやステラが何も反応をしていないので大丈夫だと思うけれど、念には念を入れたい。


 それにしても一見して頭に血が上り、怒りを露わにしているというのに、冷静な判断ができる隊長はすごいと思う。

 やはり、ただの山賊ではないのだろう。


 あれやこれやと考え事をしている間に、リーゼロッテの調査は完了したようだ。

 洞窟内に魔法の仕掛けは、特にないとのこと。

 しかし、だからと言って安心はできない。慎重に進んでいく。


 洞窟の内部は真っ暗だ。リーゼロッテが魔法で光玉を作って見せる。

 内部は黒曜石でできており、光が当たったらうっすらと輝く。


「これは――こんなところがあったなんて」


 途中、アメリアが高い声で鳴いた。立ち止まるようにと。

 すぐに隊長に報告し、動きを止める。


「アメリア、どうかしました?」

『クエッ、クエ~~!』


 この先に、強力な結界が張ってあるようだ。

 高位魔法だったので、近づくまで気づかなかったらしい。


 慎重な足取りで近づく。

 すると――倒れているおじさんを発見した。白髪頭に曇った眼鏡、中肉中背の男。あれは、行方不明になっている、デイ・ユケルだろう。


「ま、まさか、し、死んで……」

「いいや、まだ息がある」


 ウルガスの言葉を隊長が遮って、そばに寄る。


「おい、おい、起きろ、この野郎!」


 隊長はデイ・ユケルの頬を強く叩きながら、声をかける。

 そんなに叩いたら、口の中を切ってしまいそうだ。

 しかし、どれだけ声をかけても、頬を叩いても、反応せずにぐったりしていた。

 外傷はない。けれど、顔色が悪い。その状態には、覚えがあった。


「隊長、この人も、もしかしたら魔力切れなのかもしれません」

「なんだと!?」


 それが判明したら、次なる疑問が浮かんでくる。


「だったら、この先にある高位魔法の結界は……?」


 まるで私の考えていたことを読むかのように、リーゼロッテが呟いた。


「とりあえず、リスリス、こいつにさっきのゼリーの残りを食わせろ。それから、情報を吐かせる」

「り、了解です」


 私はニクスの中から、メルスラゼリーを探す。そのあいだに、隊長とガルさんがデイ・ユケルの手足を縛っていた。


 隊長がデイ・ユケルの口を開き、私はゼリーを口元へと運ぶ。

 だが、その時――動物の鳴き声のようなものが聞こえた。


『キュウ!』


 それは、猫と同じ大きさくらいの、耳の長い生き物だった。

 額には菱形のガーネットのようなものが付いていて、目はくりっとしている。エメラルドグリーンの毛並みはピカピカしていて、とても美しい。


 体は小さいけれど、ツンと澄ました女王然な雰囲気で私達の前に現れる。


「あ、あれは――!?」

「そんなはずないわ!!」


 リーゼロッテが叫ぶ。何事かと聞いたら、驚くべき情報がもたらされた。


「あれは、伝説の幻獣、魔石獣カーバンクルよ!」


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