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渡り鳥の山賊焼き

 隊長の無茶振りに対し、リーゼロッテが待ったをかける。


「待って。それ、魔力酔いした鳥よ? どんな影響が出るか、わからないじゃない」

「でも、魔力は生きている存在ものにあるんだろう? こいつは死んでいるから、魔力は抜けたんじゃないのか?」

「そんな簡単に、抜けるわけないわ」

「せっかく昼食があるのに、もったいない」


 私だって、亡くした命は無駄にしたくない。

 ここで、ドコドコという音が聞こえた。スラちゃんだ。

 ガルさんの腰から吊り下げられたスラちゃんが、何かを伝えようとしている。


「スラちゃん、どうかしましたか?」


 にゅっと伸ばした手で、何かを主張している。

 握りこぶしを作っているので、スラちゃんに任せなさいと言いたいのか。


「あの子、何を言っているのかしら?」

「……もしかして、渡り鳥の中の魔力を抜き取る、とか?」


 仮説を立てると、スラちゃんは正解だとばかりに、手でマルを作った。


「ええ、スラちゃん、本当にそんなことができるのですか!?」

「リスリス、どうした?」

「スラちゃんが、渡り鳥の魔力を抜き取ることができるらしいです」

「こいつも、どんどんわけのわからん能力を身に付けつつあるな」


 スラちゃんの能力は隠されている。上に報告したら、どんな酷い扱いを受けるかもわからない。


「今まで、スラちゃんにはいろいろ助けていただきましたが……」

「まあいい。食えるのならば、任せよう」

「わかりました」

「じゃあ、ガルは馬車の車体整備、ザラは馬の世話、ベルリーは報告書を書け。他の者はリスリスに協力しろ」


 隊長から許可が出てホッとする。話を深く聞かれなくて、良かった。

 スラちゃんの能力は、一回体内に取り込んでモグモグしてから、有害物質などを取り出す。

 もしも、隊長がその方法を見ていたら、食べるのを躊躇するだろう。

 あんなに山賊めいた顔をしているのに、中身は貴族のお坊ちゃんなのだ。

 見た目が悪い食材にも嫌悪感を示すし、困ったものである。

 隊長は、その辺の山賊力をもっともっと上げてほしい。切実に。


 そんなことはさておいて。


「では、アメリア、ステラ、かまどの準備をお願いします」

『クエ!』

『クウ!』

「わたくしもお手伝いするわ!」


 かまど作りに、リーゼロッテも挙手して参加する。

 ウルガスも女子ばかりのかまど作りに行きたそうな顔をしていたが、呼び止めた。


「すみません、ウルガスは料理の手伝いをお願いします」

「あ、はい。わかりました」


 まずは、羽を毟る。手で抜けない羽は、あとで焼く。続いて、毟った状態のものをスラちゃんへと差し出した。


「では、スラちゃん、お願いいたします」


 スラちゃんは任せなさいと、胸を打つ。拳二つ分ほどの渡り鳥をパクンと一口で呑み込んだ。モグモグと咀嚼するような動きを繰り返す。

 後ろを向いてぴゅっと吐き出したのが、魔力だろうか?

 そのあと、渡り鳥が出される。


「わっ!」


 まだ、焼かなければ取れない羽が残っていたけれど、綺麗に抜けて食べられる状態になっていた。


「スラちゃん、すごいです! 助かります!」


 あっという間に、七羽の鳥の中にあった魔力と羽を抜いてくれた。


「ありがとうございます。すごく、助かりました!」


 スラちゃんはちょいちょいと、私を手招きする。何かと近付いたら、私の手のひらに赤い木の実のような物を吐き出した。


「スラちゃん、これは?」


 スラちゃんは身振り手振りで説明してくれる。

 まず、木の実を食べる振りをした。続いて、ビョンビョンと跳び上がる。


「これを食べたら、元気になるということですか?」


 木の実を見せながら質問すると、スラちゃんは手をみょんと伸ばして丸を作った。


「スラちゃんお手製の、精力剤的なものですか?」


 スラちゃんはバツを作る。


「え~っと……、精力剤ではない、と」


 スラちゃんの身振り手振りは続く。

 伸ばしていた手を魔法使いの杖の形に変え、サッと振り上げた。

 スラちゃんは体の一部で火や雷、水などを作りだす。


「も、もしかして――魔力を回復する実ですか!?」


 スラちゃんはマルを作った。

 どうやら有害物質を抜き、混じりけのない魔力だけをこうして物質にしたようだ。


「たしか、魔力の固体化って、誰もしていないような……?」


 わからない。けれど、子どもの頃に習った気がする。

 リーゼロッテに聞かなければ。その前に、隊長に報告しなきゃいけない。


 スラちゃんが首を傾げている。

 私が褒めないので、不思議に思っているのだろう。


「ス、スラちゃん、とてもすごい力ですが……これは、他の人の前で使ってはいけません」


 私の訴えに、スラちゃんはマルを作った。


「リスリス衛生兵、どうかしたんですか?」

「ちょっと、スラちゃんの新たな能力のことで。とりあえず、隊長に報告に行ってきます。ウルガスは、渡り鳥の内臓を抜いておいてください」

「わかりました」


 ウルガスに鳥の解体方法を教えていて良かった。今日ほど、そう思う日はないだろう。

 私はスラちゃんを手のひらに持ち、隊長のもとへと急いだ。


「隊長」

「なんだ?」

「ほ、報告したいことが、あ、あります」

「嫌な予感しかしないが、言え」


 隊長は私の声の震え方から、いろいろ察したらしい。


「あの、これ、スラちゃんが作ったのですが」

「なんの実だ?」

「魔力を固めたものらしいです」


 この前食べた、冬苺フレサ風味らしい。味まで付けてくれるなんて、スラちゃんったらなんて気遣いを……。


「魔力の固体化なんて、夢物語だろう?」

「ですが、今、スラちゃんが成し遂げました」


 私は隊長の手のひらに、魔力の実をそっと置いた。


「本当だとしたら、ヤバいな」

「とっても、ヤバいです」


 隊長は明後日の方向を向き、目を閉じる。しかし、それも一瞬のことで、カッと目を見開いていた。


「俺は、魔力のことはわからん」

「はい」

「だから、リヒテンベルガー侯爵と、アイスコレッタ様に任せようと思う」

「ですよね」


 魔法のことは魔法の専門家へ。

 二人だったら、この魔力の実が本当に魔力を固体化したものかわかるはずだ。


「とりあえず、他の者には黙っておけ」

「了解です」


 そんなわけで、この問題は侯爵様とシエル様に丸投げすることになった。


 私はウルガスのもとへ戻り、調理を始める。


「わっ、かまどが完成しています!」


 石が綺麗に積み上げられ、簡易かまどには見えない物が完成していた。


「アメリア、ステラ、リーゼロッテ、ありがとうございました」


 みんな、誇らしげだった。立派なかまど職人になってくれて、嬉しい。

 作ってくれたのは高位幻獣と、侯爵令嬢だけれど。


「リスリス衛生兵、下処理終わりました」

「ありがとうございます」


 渡り鳥は小ぶりなので、このまま料理する。

 まず、ナイフでザクザクと刺し、火を通りやすくさせる。

 続いて、塩胡椒、香辛料を揉み込んで、薪として集められた太い枝に渡り鳥の肉を巻きつけて炙る。

 肉を焼いている間、酒、砂糖少々、薬草ニンニク、生姜ゼンゼロ唐辛子ピマン牡蠣オストラソースでタレを作った。


 枝をくるくる回しながら、渡り鳥の肉に火を通していく。

 ほぼほぼ火が通った状態で、表面にタレを塗った。焦げやすいので、この工程は最後なのだ。


 皮までパリパリに焼けたら、完成である。


「題して、『山賊焼き』です」


 渡り鳥を豪快に、丸かじりだ。その命名に、リーゼロッテはピンとこなかった模様。


「ねえメル、どうして山賊焼きなの?」

「山賊がアジトで食べてそうな肉だからです」

「よくわからないけれど、そうなのね」


 お嬢様育ちのリーゼロッテには、山賊感は伝わらなかったようだ。


 皆を呼んで、食事の時間とする。

 隊長は山賊焼きを見て、珍しくにっこりと微笑んだ。


「おっ、やっぱこの渡り鳥、うまそうじゃないか」

「大変手間がかかりましたが」

「偉いぞ、リスリス」

「……」


 なんか、隊長に褒められたの、初めてかも。もしかして、鶏肉が好きなのだろうか。

 以前から、自分で狩りに行っていたみたいだし。


 リーゼロッテはナイフで枝から肉を削いでいたが、隊長はそのままかぶりつく。


「うわっ、うまい! 歯ごたえのある肉だが、噛んだら肉汁が溢れてきて、皮に塗った甘辛のタレが香ばしい!」

「リスリス衛生兵、うまいです!」

「本当に、おいしいわ」


 ガルさんも尻尾を振りながら食べている。男性陣には好評のようだ。

 私も食べてみる。

 渡り鳥を刺してある枝を持ち上げると、ポタポタと脂が滴った。

 大きく口をあけて、がぶり!

 皮はパリッパリに香ばしく焼けている。肉質はちょっと硬いけれど、歯ごたえがあって食べ応えがある。肉を噛むと、脂が溢れてきた。

 かなり、良質な鳥肉だろう。

 こんなごちそうにありつくことができたのも、スラちゃんのおかげだ。


「スラちゃん、ありがとうございます!」


 お礼を言うと、スラちゃんは腰に手を当てて、えっへんと胸を張っていた。


 ちなみに、スラちゃんの腰とか胸とかどこなのという疑問は、頭の隅に追いやっておく。


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