調査!
暑さでバテていたウルガスが元気になったので、調査を再開させる。
お昼過ぎとなり、もっとも太陽の日差しが厳しい時間となっていた。
ウルガスの様子を見て隊長も慎重になったのか、間に休憩を多く入れると言う。
みんな、暑さにやられていた。
スラちゃんやアメリア、ステラは平気なようだ。精霊や幻獣は体の作りが違うのだろう。
暑いと汗をかく。対外へ排出されるのは水分だけではない。塩分もなのだ。
水分と一緒に塩分も補給しないと、眩暈を覚え、頭痛や吐き気、脱水症状にもなる。
ウルガスは塩分不足だったのだろう。
昼食後、こっそり作った物を差し出した。
それは、油紙に包んだ飴。
隊長が訝しげな表情で聞いてくる。
「おい、遠足じゃねえんだぞ」
「遠足のお菓子ではありません。これは、塩分を補給するものです」
作り方は簡単だ。鍋に砂糖と塩を入れて、火にかける。焦がさないよう、注意が必要だ。
琥珀色になった飴は、油紙で作った型の中に流し込む。しばらく冷やしたら完成だ。
ニクスの中で急激に冷やしたので、しっかり固まっていた。
「甘いもんに塩って……」
「あっさりしていて、意外とおいしいですよ」
塩をいちいち舐めるのは大変だ。でも、これなら携帯しやすいし食べやすい。
以前、塩水を作って訓練後に渡したところ、大不評だったのだ。
どうやったら塩分の補給ができるかと考えたところ、この飴を思いついた。
「隊長、どうぞ!」
「いや、まあ……いただこう」
隊長は甘い物が苦手なのは知っている。けれど、この飴ならば甘ったるくないので、大丈夫なはず。たぶん。
隊長は顰めた顔のまま飴を摘み、そのまま口に放り込む。
表情は――変わらない。
「隊長、どうですか?」
「そこまで、悪くない。甘さもそこまでなく、普通の飴よりは、食えるかと」
「よかったです」
塩飴は他の隊員からも好評だった。これで、暑さを乗り切ろうと思う。
「リーゼロッテは大丈夫ですか? まだ、休みます?」
なんだか大人しかったので、顔を覗き込む。
「いいえ、大丈夫」
「我慢は禁物ですからね。きつい時は、言ってください」
「ええ、わかっているわ」
侯爵令嬢だというのに、リーゼロッテは根性で遠征についてきているのだ。
最近は体力作りをしているようで、気力と根性で任務を乗り切ることも少なくなっているよう。
表情が暗いので、どうかしたのかと聞いてみる。
「なんだか最近、おかしな事件ばかり起きているわ」
「それは――そうですね」
正体不明の何かが、暗躍しているのだ。この猛暑も、その可能性があると示唆されていた。
「大きな事件にならないといいけれど」
「ええ」
もっと話をしたかったけれど、隊長に呼ばれる。調査は再開となった。
◇◇◇
草木をかき分け、森の中を進んで行く。
魔物と遭遇し、何度か戦闘にもなった。あっという間に討伐したけれど、隊長が不吉なことを言う。
「前より、強くなっている」
「ええっ、なんですか、それ?」
「しぶとくなっているんだ」
以前だったら動かなくなるような致命傷でも、襲いかかるのを止めないらしい。
「今までは、ああいう捨て身の戦い方はしなかった」
「それは……」
もしや、戦った魔物にも、魔石があるのでは?
その指摘に、隊長は舌打ちする。
「おい、リヒテンベルガー。魔物の中に魔石があるかわかるか?」
「魔力を流せば、光ると思うけれど……。そのあと、どういう反応があるかわからないから、止めたほうがいいと思う」
「例えば、どんなことが起こるんだ?」
「爆発……とか」
「だったら、止めたほうがいいな」
隊長は大剣を鞘にしまい、腰のベルトから大振りのナイフを取り出すと、そのまましゃがみ込む。
「た、隊長、何をするのですか?」
「解体して調べる」
「え、止めたほうがいいですよ」
「だが、このままでは調査の意味がないだろう」
「そうですが」
「私も手伝うわ」
ザラさんが挙手する。ガルさんもだ。
「リヒテンベルガー。もしも魔石を埋め込むとしたら、どこが効果的なんだ?」
「魔力は血液に多く含まれていて……あるとしたら心臓部かしら?」
「そういや、前の時もそうだったな」
隊長はナイフを握り、心臓部分を突く。
「クソ、肉が硬い」
その呟きに対し、リーゼロッテが解説する。
「死後硬直が始まっているのね。人や野生動物より、魔力濃度が濃いから、硬くなるのも早いと聞いたことがあるわ」
「そういうわけか」
ザラさんとガルさんと三人がかりで、心臓部にナイフの刃を入れて肉を削ぐ。
「クッソ! 石みたいになってやがる」
なんだろう。どうしてこう、隊長はナイフを突き立てている姿が似合うのか……。
そんなことを考えていたら、ガルさんの耳がピンと立つ。
「お、ガル。見つけたか?」
どうやら、魔石らしいものが見つかった模様。
リーゼロッテが魔力遮断をして、魔石を取り出す。
前回、前々回は拳大の大きな魔石だったが、今回は人差し指と親指を丸めたくらいの大きさの小石だった。瓶に入れて、持ち帰る。
ふいに、強い風が吹く。
『クエッ!?』
アメリアが強い魔力を感知したようだ。
「隊長、アメリアが強い魔力を感じたようですが、どうします?」
「行くしかないだろう」
何もないといいけれど。いや、あるか。
がっくりと肩を落としていたら、ポンと肩を叩かれる。振り返ったら、ベルリー副隊長がいた。
「リスリス衛生兵、大丈夫か?」
「う……はい」
「慎重に進もう」
「了解です」
ドキドキしながら、森を進む。
万が一のことを考えて、プロイ・ステラを手に持つ。相変わらず重たい。
『クエクエ?』
『クウ?』
アメリアとステラに、大丈夫かと聞かれる。
「だ、大丈夫ですよ! もしも、魔物が飛び出してきても、こう、先端のトゲトゲで、一撃――うわっと!」
前に転びそうになったが、アメリアが外套の頭巾を銜えてくれたので、ことなきを得る。
「あ、ありがとうございます」
『フエエエ~~』
私の頭巾を銜えたまま、低く鳴く。むやみやたら武器を振るのは禁止と言われてしまった。
それにしても、またアメリアの『フエ~』を聞くことになるとは。
『フエッ!』
「はい、反省しております」
とりあえず、プロイ・ステラは扱えないのでニクスの中に入れておくことにした。
アメリア曰く、魔力の濃度はどんどん濃くなっているのだとか。
『クエ、クエクエ』
止めたほうがいいかもしれないと、アメリアは言っている。
気付いた時にはそうでもなかったようだけど、倍以上の濃さになっているとのこと。
すぐさま、隊長に報告した。
「わかった。今日は撤退しよう」
上に報告をして、判断を仰ぐようだ。
隊列を入れ替え、王都のほうへ戻ろうとしたら――隣を歩くアメリアの羽毛がぶわりと膨らんだ。
『クエ!』
『クウ!』
二人共姿勢を低くして、警戒していた。
「え、なんですか? 大接近している?」
隊長達も何か感じたのか、すぐさま武器を手に取っていた。
ガサリと、草むらから出てきたのは――。
「む。なんだ、お主らだったのか」
全身鎧姿の剣士、シエル様だ。
手には、籠を持っている。中には、たくさんの薬草が。
「リスリスよ、見てくれ! 先ほど、健康草を見つけたぞ!」
脱力して、膝から崩れ落ちた。
今年最後の更新となります。一年間、読んでくださりありがとうございました。
来年はまた不定期更新に戻りますが、お付き合いいただけたら嬉しく思います。