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シエル様とお庭探索!

 遠征から帰ったあとは、三日間の休みとなる。

 買い取ったエヴァハルト伯爵邸へ翌日に引っ越し! というわけにはいかないよう。さまざまな準備があるらしい。


「それまでメルはここに下宿するといいわ!」


 リーゼロッテがそんなことを言っているので、お言葉に甘えることにした。

 ベルリー副隊長には、諸々の知らせの手紙を送ってくれたらしい。

 ザラさんは荷物の整理をするため、ブランシュを連れて帰って行った。


 客間に案内されて、そのまま寝室に向かう。

 いろいろあって疲れた。今日は何も考えず、ゆっくり休もう。

 寝台は幻獣と一緒に眠れるように大きな物が用意されていた。大型幻獣の主人用にと造っている部屋だと聞いた。

 今まで、アメリアやステラ以外に大型幻獣が宿泊しにきたことはないらしいけれど。

 実に幻獣保護局の局長の自宅らしい設備だ。


 寝台の上に寝間着があったので、着替える。綺麗にしてもらった髪型も解いた。

 ニクスは帽子掛けにかけ、櫛で梳ってあげる。

 さんざん遠征に連れ回したけれど、ぜんぜん汚れていない。匂いもしないし、どうなっているのやら。


「ニクスも洗ったほうがいいですか?」

『洗わなくても、いいよん』

「そうなのですね」


 そういえば、アルブムも洗っていない気がする。妖精はその辺の獣とは違うのだろう。


『ありがとねん』

「いえいえ。明日、ニクスのこと、シエル様か侯爵様に相談してみます」

『このままでもいいよん』

「よくないですよ」


 アルブムやニクス達のような鼬型の妖精は、森のぐうたら者と呼ばれていたらしい。

 一日中ほとんど眠り、使役した妖精に食べ物を集めさせたりしている種族なのだと。


「なるほど。私といたら、ぐうたらできると」

『そうだよん』


 元の姿よりも鞄のほうが生きやすいとか、なんというぐうたら。


「とにかく、このままではよくないです。一度、相談します」

『うん、まあ、ありがとねん』


 手入れしたニクスは少しだけ艶々になったような気がする。


「これでよし!」


 あとは眠るばかりだ。


「ふわあ、なんだか、今日は良く眠れそうです」

『クエ~』

『クウ』


 ずっと、野営をしていて眠るのは地面の上だったのだ。

 アメリアやステラで暖を取っていた。リーゼロッテはアメリア自慢の羽布団をしてもらって、感激して顔が真っ赤になっていた。興奮してしばらく眠れなかったのはちょっと心配したけれど。


「明日は早起きして、ベルリー副隊長の家に荷物を取りに行って……ふわあ~」


 先ほどから欠伸が止まらない。

 今日はさっさと眠ることにした。

 寝台の上に上って横たわろうとしたら、キイと音を立てて扉が開く。ひょっこりと顔を出したのは、アルブムだった。


『アノ、アルブムチャンモ、一緒二眠ッテモイイ?』


 返事をする元気がなかったので手を差し伸べる。すると、アルブムは嬉しそうな表情で飛び込んできた――が、アメリアが翼を広げ私を守る盾のように前に出してくる。


『ヘヴン!!』


 翼にぶつかったアルブムであるが、柔らかな羽なのでダメージはない。

 アメリアはアルブムを嘴で銜える。


『エ、アルブムチャン、オイシクナイヨ!』


 ジタバタと暴れていたが、アメリアはしっかり銜えて離さない。

 何をするのかと思っていたら、アルブムを端っこにある枕の下にぐいぐいと押し込んでいた。


『クエクエ』

「あ、はい」


 女子ばかりなので、隔離したかったらしい。

 アルブム、ごめんね。

 っていうか、侯爵様と契約しているのだから、ご主人様と一緒に眠ればいいのに。


「クエクエ、クエ」

「はいはい」


 アメリアから早く寝たほうがいいと言われる。横たわったら、ステラが布団をかけてくれた。

 アルブムが円卓の上にあった角灯を、息を吹きかけて消す。


「では、おやすみなさい」


 長い一日が、ようやく終わった。


 ◇◇◇


 翌朝。温かいなと思ったら、ステラに抱きついて眠っていた。アメリアの羽布団もかかっている。

 視界の端に緑色の何かがあったので、掴んでみる。


「んん?」

『メルゥ……』


 緑色の何かは、コメルヴだった。いつの間に潜り込んできたのか。


「コメルヴ、どうかしたのですか?」

『メルゥの近くは、落ち着く』

「そ、そうですか」


 まさか、コメルヴまで懐くとは。


 身支度を整えた私は、シエル様とリヒテンベルガー家の庭に立っていた。

 食べられる野草を知りたいらしい。

 当然ながら、手入れがきちんとなされている庭に野草なんてない。

 よって、野生にも生えている薬草を教えてあげることにした。


 シエル様は金色の全身鎧で現れた。太陽に反射して、ピカピカと輝いている。


「うわっ、眩し……ではなくて、ご案内しますね」


 侯爵家の庭には、料理用の薬草園がある。そこに、お邪魔することにした。もちろん、許可は取っている。


 コメルヴも一緒に付いて来ていて、軽やかな足取りで歩いていた。自然がいっぱいなので、嬉しいのだろう。


「美しい庭だ」

「はい! もう初夏と言ってもいい時季ですが、花も咲いていて」


 今は薔薇が旬だ。砂糖煮込み用にいただけるだろうか。


「薔薇を食すのか?」

「はい。香りが良くて、おいしいですよ」

「摩訶不思議よの」


 薔薇茶とか、貴族の人は飲んでいる感じがするけれど、そうではないようだ。


 薬草園に入ると、さっそく知っている植物を発見した。


「あれは――健康草セージです」


 健康草はその名のとおり、強壮効果のある薬草だ。肉料理の臭い消しなどにも使われる。

 他に、防菌、防腐、精神安定効果などもある。


「風邪の予防や喉の痛みを和らげることも可能です」

「なるほどな」


 健康草の葉を、収穫する。

 シエル様は恐る恐るといった手つきで、摘んでいた。

 続いて、大きな木を見上げた。


「あれは、肉荳蔲ニクズクの実です」


 肉荳蔲の実からは、二種類の香辛料が採れる。


「ほう? 一つの実から、二つの香辛料とな。面白い」

「種の周りにある皮から取れるのが『メース』と言い、種子の中にあるものから取れるのが、『ナツメグ』といいます」


 メースとナツメグは味も香りも同じようなものだが、かすかに違いはある。

 取れる量はナツメグのほうが少ないので、値段も高い。


「こちらも、肉料理の臭み消しに使われます。加えて、肉の味を引き立てる効果もあるのですよ」

「ふうむ」


 肉荳蔲の実が熟すと、亀裂が入ってメースに覆われた種子が顔を出す。

 メースを剥いだ種子は、一ヶ月半ほど乾燥させなければならない。


「では、種子を拾っても、すぐには食べられないのだな」

「そうですね。シエル様のお話していたスローライフとは、そういうものなのかもしれません」


 森で食べ物を集め、獲物を狩り、魚を釣る。

 得たものは、先の生活を考えて保存できるようにするのだ。


「生き急ぐのではなく、のんびりと、穏やかに。それが、すろーらいふか」

「だと、思いました」


 勝手な想像だけど、シエル様は興味深いと言ってくれた。


 肉荳蔲は拾って、あとで加工することにする。

 私はシエル様を振り返って、ある提案した。


「シエル様、今日は健康草とナツメグを使った料理を作りませんか?」


 今日集めたやつはまだ加工していないので、健康草とナツメグは侯爵家にあるものを使うことになるが。


「何を作るのだ?」

「それは――ソーセージです!」


 ソーセージはセージと呼ばれる健康草と猪豚スースで作られる。

 スースとセージが鈍って、ソーセージと呼ばれていると聞いたことがあったような。


「楽しみだ」

「はい!」


 まずは、朝食を食べなければ。


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