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黄金蜂蜜尽くしの料理

 ウルガスの矢が、木に止まっていた野鳥を仕留める。こんな薄暗い中なのに、獲物の位置を把握するどころか、射止めるなんてすご過ぎる!

 落下した瞬間に、ステラが走る。地面に落下した野鳥を拾って来てくれた。


「お~、ステラ、偉いです!」

『クウ!』


 褒めたら尻尾を振って喜んでいた。ご褒美の乾燥果物を与えるのも忘れない。

 ウルガスに大き目の野鳥を三羽、狩ってもらった。待機中に、薬草ニンニクやら、迷迭草ローゼマリーを採取する。

 深い森の中から、開けた場所に出て夕食の時間とする。


 ちなみに、今日はここで野営をするらしい。夜の移動は魔物の標的になりやすいので、危険なのだ。馬車の周囲には聖水で結界を張り、御者は馬車の中で一夜を明かすらしい。

 私達はここに天幕を張って休む。


 隊長とガルさんが、寝床の準備をしていた。

 御者への伝令係をしていたベルリー副隊長は、何やら報告書を書いている。


「よし、料理をしますか!」

「メルちゃん、手伝うわ」

「ありがとうございます」


 どうやら、ザラさんが手を貸してくれるらしい。野鳥の解体作業があるので、非常に助かる。

 ここは小川が流れていて、料理をするのに都合がいい。

 ザラさんと二人で、野鳥の羽を毟る。


「なんか、こういうの、久々ね」

「ですね」


 妖精鞄ニクスがやって来てから、こうして食材を現地調達していなかった気がする。


「なんか、初期の頃はすごいガツガツしていた気がします」


 自分の身の安全なんかなんのその。待機しておけと命じられていたのに、勝手に食材を探しに行っていた。当時の私は怖いもの知らずにもほどがある。


「あの時の任務は低級の魔物狩りだったし、メルちゃんは魔物避けをしていたから」

「そうですけどね」


 そう。あのころは低級魔物を討伐する任務だったので、ある程度の自由も許されていたのだ。

 最近は中級魔物を相手にするような場所に遠征していたので、食材集めをする余裕がなかった。食材の持ち運びを手伝ってくれるニクスには、感謝をしなければならない。


「ニクス、いつもありがとうございます。あなたの呪いも、早く解けるように頑張りますね」

『ありがとねん』


 私の魔力のこととか、謎の魔石事件とか、問題は山積みだけど。中でもニクスのことは優先して考えなければならない。


 少し離れた場所では、ウルガスとリーゼロッテ、アメリアとステラがかまど作りをしてくれている。


「アメリアさん、こう、ですか?」

『クエクエ!』

「え? こう?」

『クエッ!』

「ねえ、違うみたいよ」


 ウルガスはその辺で拾って集めた石を積んでいたが、アメリアより「そうじゃない!」と厳しい指摘を受けていた。リーゼロッテはアメリアの言葉をなんとなく身振りや鳴き方から推測しているようで、通訳をしている。


 最後に、リーゼロッテが拾った枝に火を付けてくれたのだが、天を突くような火柱が上がって目を剥いた。

 相変わらずの、火力強めな魔法使いである。


 火の調節を終えてかまどが出来上がると、みんな達成感に満ち溢れた表情をしていた。

 遠征にやって来た騎士の姿には見えない。

 リーゼロッテが満面の笑みで報告してくる。


「メル、かまどが完成したわ」

「ありがとうございます。助かりました」


 野鳥の解体を再開させる。

 沸騰した湯に野鳥を潜らせ、毛穴を開かせてからさらに羽を抜いた。

 抜けないものは火で炙る。

 腹を裂いて内臓を抜き取り、川の水で洗った。

 ここで、アルブムとコメルヴがやって来る。


『何カ、アルブムチャン、手伝ウ?』

『コメルヴも、手伝う!』

「では、この薬草を洗って来てください」

『ワカッタ!』


 コメルヴが薬草を持ち、アルブムに乗る。軽やかな足取りで川の畔まで走っていた。

 野鳥は手羽、胸肉、モモ肉、ササミに分ける。

 まず、胸肉でスープを作る。


「メルちゃん、胸だけでいいの?」

「はい。胸肉には、疲労回復の効果があるのですよ」


 この疲労回復効果は、動物のもっとも動かす部位にある成分らしい。おばあちゃんの豆知識である。


 まず、胸肉に黄金蜂蜜を塗る。

 肉の組織に蜂蜜が染み込んで、肉が硬くなることを防いでくれるらしい。

 続いて乾燥キノコで出汁を取り、途中から胸肉と塩を少々投下する。灰汁を取りつつぐつぐつ煮込んで、スープが澄んできたら『胸肉の疲労回復スープ』の完成。


 二品目は、手羽、モモ肉、ササミと黄金蜂蜜を使って料理を作る。

 作り方は実に簡単だ。

 これも、肉に黄金蜂蜜を塗っておいた。

 鍋にオリヴィエ油を敷いて、肉を置いて皮がパリパリになるまで焼く。

 肉に火が通ったら、薬草ニンニク、黄金蜂蜜、オリヴィエ油、辛子モスターサ、塩胡椒を混ぜて作ったソースに煮詰めながら絡めるだけ。

 『鳥モモ肉の黄金蜂蜜ソース絡め』の完成だ。


 三品目はコメルヴ用の料理。

 とは言っても、湯に蜂蜜を溶かして仕上げに柑橘汁を垂らしただけのものである。これが、大好物らしい。植物なので、水分しか取らないようだ。

 なんだかいい匂いだったので、私達の分も作ってみた。


「よし、準備完了!」

「メルちゃん、お疲れ様!」


 ザラさんが労ってくれる。

 勤務中は衛生兵の資格を持っていないザラさんは料理を手伝えない。しかし、今は勤務時間外なので、手を貸してくれたのだ。おかげさまで、いつもより手早くできたような気がする。


 みんなを呼んで、食事の時間となった。


「今日は黄金蜂蜜を使って料理を作ってみました」

「わあ、うまそうですね!」


 きっと、おいしいに違いない。

 祈りを捧げたあと、食事の時間とする。


 まずはスープから。蜂蜜を揉み込んだ上に、じっくり煮込んだので胸肉だけど柔らかいはず。そのまま煮たらボソボソで硬いけれど、匙でホロリと解れるくらいになっていた。


「んっ、あふっ……!」


 冷まさずに食べたら舌を火傷しそうになった。

 シンプルな味付けのスープはホッとする味わいだ。出汁が濃くて、体の内側から温まる。

 胸肉はすごく柔らかくなっていた。とてもおいしい。

 みんな、無言でスープを飲んでいる。きっと、疲れているのだろう。これを飲んで、元気になってほしい。


 アルブムは尻尾を振りながらスープに顔を付けたまま離さない。聞かずとも、おいしいというのはわかる。


 続いて、鳥モモ肉の黄金蜂蜜ソース絡めを食べた。

 まず、濃厚な黄金蜂蜜の風味を感じた。


「うわ、すごい……」


 ウルガスが小声で言う。私もそれに頷いてしまった。

 普通の蜂蜜とは違う味わいの深さ。これが、黄金蜂蜜なのか!

 モモ肉は柔らかくてジューシーだ。噛むと、じゅわっと肉汁が溢れてきて、蜂蜜辛子ソースと相俟って極上の味わいとなる。

 パリパリに焼いた皮も香ばしい。


 最後に、蜂蜜湯を飲んだ。

 若干脂っこくなっていた口の中が浄化されるよう。

 黄金蜂蜜を湯に溶いただけなのに、上品な飲み物となっていた。


「コメルヴ、蜂蜜湯はおいしいですか?」

『うん、おいしい!』

「よかったです」


 どうやら、お気に召してもらえたようだ。


『……マスタにも、飲ませたい』

「コ、コメルヴ!」


 もう会えない主人に飲ませたいなんて。なんて健気なのか。でも、なんだか切なくなる。

 良い主人にこれから会えるといいけれど……。


 隊長の分は、蜂蜜湯に柑橘を強めに利かせたものを酒で割ってみた。


「隊長、蜂蜜を使った料理はどうでしたか?」

「どれもうまかった」


 ただ一言だけだったが、滅多に褒めないので、すごくおいしかったという意味に受け取ってもいいだろう。


 黄金蜂蜜を使った料理は、大成功だった。


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