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不思議生物救助任務!

 先頭に隊長、続いてガルさん、ウルガス、私、ステラ、ザラさん、ベルリー副隊長の順番で進む。

 上空には、アメリアに跨ったリーゼロッテ。森の中では炎系の魔法は使わないほうがいいと判断し、彼女が騎手として選ばれた。

 アルブムは私の首に巻きつき、襟巻状態となっている。だんだん暑くなっているので、真夏になったら毛皮で蒸れそうなので持ち方も考えなければならない。

 アルブムが背負っていた荷物は重かったので、ニクスの中に入れた。


 アメリアに先導してもらいながら、森の中を進んで行った。

 ステラは魔物の気配に敏感で、すでに毛を逆立てている。私を守ろうという気迫が、ひしひしと伝わってきていた。


 しばらく進むと、上空より『クエ~、クエ~!』というアメリアの鳴き声が聞こえた。

 魔物はこの辺りにいるらしい。

 ガルさんの耳がピクンと動く。ステラも低い声で鳴いた。


『クウ!!』


 敵が斜め前方より接近中。アメリアの叫びも聞こえた。

 みんな、戦闘態勢を取る。


「おい、リスリスはウルガスと共に後退。可能であったらステラに乗って後退しておけ」

「了解しました」


 ステラのほうを見たら、伏せをしてくれる。

 私はステラの胴に跨った。鞍などはないので、毛を掴むことになる。痛いかも? と恐る恐る握ったけれど、大丈夫らしい。

 ステラは軽やかな足取りで後退していく。

 続いて、ウルガスがやって来た。矢筒から矢を取り出し、いつでも射ることができるよう番えていたが。


「――ん?」

「ウルガス、どうかしました?」

「なんか、ちっこい変なのがこっちに来ます。たぶん、魔物ではないかと」


 ウルガスは前を指差すが、どれかわからない。


「ウルガス、目がいいんですね」

「いや、俺の視力云々の問題ではなく、緑色で保護色だから見つけにくいのかなと」

「緑色……」


 目を凝らすけれど、よくわからない。


『クウクウ!』


 ステラも発見したらしい。しきりに、「葉っぱだ!」と言っている。

 魔物に追われているのは、どうやら植物系の何からしい。


「はて、葉っぱとな」


 森の中なので、視界のすべてがはっぱだ。見分けることは困難である。


「あ、魔物が」

「来ましたね」


 魔物が目視できるようになった。


「ウルガス、あれは――」

蠕虫ワームですよ」

「き、気持ち悪いですね」

「ですねえ」


 長さは一メトルほど、太さは私の胴体くらいか。茶色い体をうねうねと動かしながら接近してくる。

 数は二十匹いないくらいか。ウッ、大量だ。しかも、なかなかの速さで接近してくる。

 私はステラに騎乗した状態で、プロイ・ステラを構えた。


「パンケーキノ娘ェ……アノ~、キチント、両手デ掴マッテイナイト、振リ落トサレチャウヨ?」


 アルブムに指摘されて気付く。武器を構えている場合ではなかったのだ。

 それにしても、アルブムに指摘されるなんて。反省せねば。


「そういえばウルガス。先ほどの葉っぱはどうなりました?」

「すみません、見逃しました」


 視線は敵にあるのだ。仕方がないだろう。そう思っていた刹那、ステラが叫ぶ。


『クウ!!』


 え、前だって?

 前方を向いた瞬間、ぺちん! と葉っぱみたいな何かが当たった。


「わっぷ!」


 顔面に張り付いていた物体をベリッと剥がして、握りしめる。


「えっと、これは……」


 私の手の中でジタバタと暴れるのは、小さな大根ラディブラン

 大きさは手のひらよりも小さい。葉は青々とした緑で、根となる部分は濃い黄色だ。

 つぶらな目に、『3』の形をした口、葉がついた枝のような手と根の先に足があって、なんとも愛嬌のある姿をしていた。

 たぶん、これが魔物に襲われていた不思議生物だろう。


「ア、アルブム、これは妖精ですか?」

『エ、アルブムチャンガ確認スルノ?』

「あなたしか、頼れる人はいません」

『ソ、ソッカ』


 幸い、こちらに危害を加える様子はないようだ。

 アルブムは恐る恐る、といった感じで大根もどきを見ていた。

 恥ずかしかったのか、大根もどきは両手でサッと顔を隠していた。


『パンケーキノ娘、コレ、妖精ジャナイヨ』

「そうですか」


 だったら幻獣か、精霊か。


「あなたは、誰ですか?」


 質問してみる。アルブムのように、意思が取れる可能性があるからだ。

 私の質問に対し、大根もどきが首を傾げている。

 話しかける内容を変えてみよう。


「私は、フォレ・エルフの、メルです。あなたは?」


 聞き取りやすいよう、言葉を細かく切って、ゆっくりと話しかけた。


『メ、メルゥ?』

「わっ、喋った!」 


 駄目もとで話しかけてみるものである。

 もう一度、話しかけてみた。


「私は、メル、です」

『メルゥ』


 どうやら、私の名前は発音しにくいらしい。


「あなたは?」


 指を差して、名前を聞いてみる。

 しかし、また首を傾げていた。その上、大根もどきは私の人差し指にそっと優しく両手を添えてくる。


「も、もしかして、握手をしてくれたのですか?」


 ぶんぶんと、掴んだ手を振っている。なんて友好的な生き物なのか。

 そんなことはいいとして。


「それで、あなたの名前は?」


 もう一度、自らを指差して私はメル、あなたはと問いかけた。

 ここで、合点がいったのか、頭部(?)から生えている葉がピコン! と立った。


『コメルヴ!!』

「コ、コメルヴ!?」


 そうだと言わんばかりに、コクコクと頷いていた。

 この大根もどきの名前は、『コメルヴ』というらしい。

 ステラに幻獣かどうか聞こうと思ったけれど、戦闘が開始する。


「アルブム、この子のこと、頼みます」

『へ!?』


 私はステラに掴まってふんばらなければならない。

 アルブムは手渡されたコメルヴを抱きしめ、外套の頭巾に潜り込ませたようだ。


「来ます!」


 ウルガスが弓の弦を引き、一射目を放つ。見事、的中していた。地面に縫い付け、動けないようにしている。


「うっ……。リスリス衛生兵、あの魔物、どこが急所かわかりません」

「で、ですね」


 そこまで強くないようだけど、数が多いので苦戦していた。

 しかも、熱を含んだ液体を放つようで、近接攻撃を得意とする隊長とベルリー副隊長は戦いにくそうだった。


「リーゼロッテの炎魔法で一掃できたらいいのですが……」


 結界を張らないと、森が大炎上してしまう。


「どうすれば……」

『コメルヴ、結界、張る!』

「え?」


 アルブムがコメルヴの発言を補足してくれた。


『アノ、コノ子、結界魔法ヲ張レルミタイ』


 コメルヴが森に結界を張るので、炎魔法でやっつけてくれと言っているらしい。


「でしたら――」


 私は空気をめいっぱい吸い込んで叫んだ。


「アメリア! リーゼロッテに伝えてください。今から森の広範囲に結界を張るので、炎魔法で魔物を焼き尽くしてください!」


 上空より、クエ~~と返事が聞こえた。案外近くにいたようだ。

 私達のすぐ上を、アメリアがさっと通り過ぎた。


『アノ、パンケーキノ娘?』

「なんです?」

『炎ノ娘ハ、幻獣ノ言葉、分カラナインジャナイ?』

「あ!」


 アルブムより、本日二度めの突っ込みを受ける。

 そうだった。もう一回叫ぼうと思ったら、リーゼロッテの声が聞こえる。


「メル、わかったわ!!」


 どうやら、私の声は届いていたらしい。とりあえず、ホッ。


『クウ!』

「おっと!」


 前衛が捌ききれなかった蠕虫がこちらに迫る。

 ウルガスがどんどん射止めていくけれど、数が多くて間に合わない。

 ついに、ステラが動く。


「わっと!」


 振り落とされないよう、しっかりと掴まった。

 ステラは鋭い一撃で蠕虫を屠る。体からブシャっと噴き出る熱い体液は、ひらりと躱していた。


 私は隊長に向かって叫ぶ。


「隊長、今からコメルヴが結界を張ります。そのあと、リーゼロッテが炎魔法で蠕虫を一掃するので」

「なんだ、コメルヴとは!?」

「あとで説明します」


 コメルヴに、結界を張るようにお願いする。


「コメルヴ、頼みます」

『コメルヴ、結界、張る!!』


 そう叫んだ瞬間、大きな魔法陣が地面に出現した。キラキラとした白い光が森を包み込む。

 結界魔法は成功したようだ。その瞬間、ステラが遠吠えしてリーゼロッテに合図を出した。

 同時に、隊長達も後退する。


「総員、後退!!」


 みんなが蠕虫から距離を取った。

 ほどよいタイミングで、リーゼロッテの炎魔法が上空より降り注ぐ。

 炎の矢が蠕虫の体を貫き、焼き尽くした。


 あっという間に、蠕虫を討伐してしまった。

 リーゼロッテの火力強めの炎魔法、すごすぎる!

 結界なかったら、森の中は大炎上だけどね。


 私は頭巾の中から、コメルヴを取り出す。一緒にアルブムも付いてきた。というよりは、コメルヴがアルブムにしがみついている感じ。


「な、仲良しですね」

『ア、ウン……』


 アルブムはちょっと困った様子を見せていた。

 とりあえず、不思議生物の救助に成功した。

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