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新しい武器と夜店グルメ

 一日目は大きな街で一泊する。

 きちんと幻獣が宿泊できる宿があって、快く迎えてくれた。

 夜は自由行動となる。

 活気のある街で、夜店がたくさん並んでいた。隊長より、羽目を外さないよう注意される。

 食堂で夕食を食べるか、それとも夜店に買いに行くか。迷っていると、ベルリー副隊長に声をかけられる。


「リスリス衛生兵、そういえば、魔棒はどうした? 最近見ていないが」

「あ~、あれ、魔力を多く消費するかもしれないので、使うのを止めているんです」


 魔棒グラ。魔力と引き換えに、私が採取した食料を作り出すことができる不思議な武器。

 魔力を使うことによって、暴走が起こったら困る。よって、魔棒グラは封印している。現在、洗濯物干しの棒として使っていた。


「そうだったのか。しかし、何か得物を持っていたほうがいいだろう」

「護身用ですね」

「ああ、そうだ」


 夜店にいくつか武器を売っている店があったらしい。


「今から、買いに行こうか」

「いいのですか?」

「ああ」


 人混みなので、アメリアとステラはお留守番である。リーゼロッテは二人の面倒を見てくれるらしい。

 ウルガスは食堂でゆっくり食事を食べると言っていた。若いのに、言っていることが爺くさい。

 ガルさんはスラちゃんとお茶会をするようだ。なんて可愛らしいことをしているのか。参加したかった。次回開催する時は誘ってくれと伝えておく。

 隊長とザラさんは報告書を書くので忙しいらしい。

 そんなわけで、私とベルリー副隊長の二人で夜店に出かけることになった。


「――わっ!」


 街中は黄色く光る灯篭がさまざまな場所に吊り下げられていた。


「綺麗ですねえ」

「リスリス衛生兵、見てくれ。光の正体は――」

「ええっ!」


 ベルリー副隊長の指した灯篭を見てびっくりする。

 中にお尻が光る虫が入っていたのだ。


「あれは光蛍リュシオルっていうんだ」

「へえ~~!」


 通りすがりのおじさんが教えてくれた。

 なんでも、この地域に生息する光る虫で、森の中に捕まえに行くらしい。

 魔力を含んだ草花を与えて世話をするのだとか。


「欲しかったら、向こうの店にも売っているよ」

「ありがとうございます」


 お値段を聞いたら、結構な高さだった。綺麗なので欲しいとは思うけれど、世話が大変らしい。


「おっと!」


 光蛍の灯篭を見ながら歩いていたら、前方から歩いて来たおばさんにぶつかってしまった。すみませんと謝る。どうやら、互いに余所見をしていたらしい。きちんと前を向いて歩かなきゃ。


「リスリス衛生兵、手を」


 危ないからと、ベルリー副隊長が手を繋いでくれた。

 全力の子ども扱いだけれど、今さっき人とぶつかったばかりなので、何も言えずにお言葉に甘えることにした。


「あ、武器屋さん、ありました」

「みたいだな」


 武器屋の夜店なんて初めて見た。剣や弓、短剣など、種類豊富に並んである。

 ベルリー副隊長が武器屋のおやじさんに話しかけた。


「いらっしゃい!」

「護身用の武器をみせていただけるだろうか?」


 武器屋のおやじさんが手に取ったのは、魔棒グラと同じくらいの長さの棒だ。

 受け取って、軽く振ってみる。


「リスリス衛生兵、どうだ?」

「う~~ん」


 少し、軽すぎるような気がする。これで打っても、なんの衝撃も与えられそうにない。

 店の商品を見ていると、赤札がついたある武器が目に付いた。


「あ、あれ、いいですね!」


 それは、半メトルほどの長さで、先端にトゲトゲが突き出た拳大の鉄の玉が付いている武器だった。


「お嬢ちゃん、これかい?」

「はい!」


 この武器はプロイ・ステラ――古代語で『明けの明星』という意味らしい。

 たしかに星っぽくて可愛い!

 しかし、結構重い。でも、これで殴ったら、結構なダメージを与えることができそうだ。

 お値段は半銀貨と、武器としてはそこまで高くない。

 型が古いので、長い間売れ残っていたらしい。


「価格もお手頃ですし、名前もステラとお揃いなので、これにします」

「大丈夫か? 重たくないか?」

「鍛えます! すみません、これください」

「まいど!」


 なんだかいい買い物をした気がする。

 おまけに、武器を背負える鞄をくれた。さっそく、身に着けてみる。


「よいっしょっと!」

「リスリス衛生兵、大丈夫か?」

「ええ。平気です」


 力はあるので、持ち運びに関しては問題ないだろう。


 その後、夕食の時間となる。猪豚麺という食べ物を買った。お値段は、一杯銅貨一枚という安さ。

 夜店の周辺に用意されていた野外席に座って食べる。


「うっ! お、おいしい!」


 空腹状態だったので、温かな麺が体に染み入るようだった。

 柔らかく煮込まれた猪豚の角煮がごろごろ入っていてお得感があったし、甘辛のタレにツルっとした麺が絡んでとっても美味!

 薬味もたくさんかかっていて、ピリッとした風味が甘いタレの味わいを引き立てくれた。


 ああ、どうしてこう、夜店の食事は安くておいしいのか。

 食後の甘味は、果物の飴絡めを買った。リーゼロッテやステラ、アメリアの分も購入する。


 武器も買えたし、夕食もおいしかったし、大満足の夜店散策だった。付き合ってくれたベルリー副隊長には感謝の言葉しかない。


 ◇◇◇


 遠征はまだまだ続く。

 シエル・アイスコレッタのいる山岳地帯までの道のりは順調だった。

 通常の遠征と違って、夜は宿に泊まれることが素晴らしい。

 幻獣宿泊許可のある宿屋なので、広くて贅沢なのだ。

 お風呂にも毎日は入れるし、毎回こんな任務だったらいいのにと思ってしまった。


 五日目。もう少しで目的地にたどり着く。

 馬車の先陣を、馬が単騎で駆っていた。

 このように、馬車を先導しているのには理由がある。

 山岳地帯までの道のりに、魔物が多く出現する街道があるのだ。馬車の中に全員乗っていたら、反撃が遅れる。よって二名、交代で馬車の護衛を行うらしい。

 護衛は戦闘員の前衛を行える人のみ。

 つまり、隊長、ベルリー副隊長、ザラさん、ガルさんが入れ替わりながらするらしい。

 私とウルガス、リーゼロッテは馬車の中で待機となる。

 今はザラさんとベルリー副隊長が護衛役を務めていた。

 ザラさんが馬に跨り、ベルリー副隊長がアメリアに乗っている。


 古い街道の中を、ガタゴトと進んでいたが、ゆったりと速度を落とし馬車が止まる。

 いったい何事なのか。


 隊長が窓から顔を出して、外にいるベルリー副隊長に声をかけた。


「おい、どうした?」


 ベルリー副隊長より先にやって来たのは、アメリアとステラである。


『クエ、クエクエ!』

『クウクウ』

「はあ?」


 隊長はアメリアとステラの訴えの内容がわからず、聞き返していた。


『クエッ! クエ~!』

『クウクウ!』

「おい、リスリス、通訳しろ!」

「はいはい」


 窓から顔を出し、どうしたんだと訊ねた。

 すると、驚くべきことが発覚した。


「えっと、少し離れた場所に不思議生物がいて、魔物に襲われているらしいです」

「不思議生物って、幻獣!?」


 隊長を押し退け、リーゼロッテが尋ねてきたが、詳細は近づかないとわからないとのこと。


「街道から逸れた場所らしいです。どうします?」


 このまま進んだら、魔物や不思議動物と遭遇することはないだろうとのこと。

 空を飛んでいたアメリアが発見したらしい。


「隊長、ご判断を」

「難しいな」


 もしも助けに行くならば、任務外の仕事になる。魔物と対峙して誰かが大怪我をしたら、隊長は上層部より責められるだろう。


 見ない振りをするのは心苦しいけれど、かと言って助けたいと訴えることはできない。

 私達は騎士だ。自らの感情を第一として動くわけにはいかないのだ。

 隊長は腕を組んで目を閉じ、眉間に皺を寄せている。

 みんな、隊長の判断を待っていた。

 パッと、目を開く。隊長の目には、迷いは浮かんでいなかった。


「ベルリー」

「はい」

「お前はどうしたい?」

「隊長に従います」


 隊長は他の人も順に見ていく。みんな、ベルリー副隊長と同じ意見なのか、コクリと頷くばかりであった。


「幻獣も、精霊も、妖精も、今まで不思議な縁があって、俺達を助けてくれている。今回も、何かの縁だろう」


 ――ということは、隊長は不思議生物を助けに行くつもりのようだ。

 隊長はアメリアに場所の詳細を聞く。私が通訳して伝えた。


「街道脇にある森を南に進んだ先だそうです。アメリアが上空から、案内してくれるみたいですよ」

「わかった」


 アメリアが空から誘導し、私達は地上を歩いて現場まで向かう。


「総員、戦闘準備!」


 馬車は街道の脇に停められ、隊員達は下りて武器を手にする。

 私も、昨日新しく購入した短い杖――プロイ・ステラを持った。

 ウルガスが目敏く気付く。


「リスリス衛生兵、その武器、どうしたんですか?」

「一日目に寄った街で、ベルリー副隊長と買いに行ったんですよ!」

「へえ、プロイ・ステラですか。気合い入っていますね」

「もちろんです!」


 昨晩素振りをして、筋肉痛になっているのは内緒だ。


「行くぞ!」


 隊長より号令がかかる。

 不思議生物救助任務の開始であった。


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