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帰って来たアルブムと、新しい任務

 中級レベル以上の魔物を倒したり、任務を短期間でこなしたりと、次々と成果を上げている第二部隊の評判はみるみるうちに上がっているらしい。

 世にも珍しい幻獣や妖精、精霊を保護し、その力を任務に活かしていることも評価されているとか。

 もちろん、各々の隊員の能力の高さも認められている。

 他部隊への引き抜きの話も多くあるらしいが、騎士隊の総隊長が止めているらしい。なんでも、第二部隊にいるからこそ、各々は力を発揮できていると分析しているとか。

 ご理解いただけて、ホッとする。

 幻獣保護局の局長であり、リーゼロッテの父親であるリヒテンベルガー侯爵も、第二部隊が権力者に悪いように使われないように圧力をかけているのだとか。

 大事な娘さんと、愛する幻獣が所属しているので、その辺は全力なのだろう。ありがたい話だ。


 そんなわけで、普通ではない私達第二部隊の活動は、さまざまな人の手を借りて守られている。


 ◇◇◇


 遠征から帰ったあと、休日を挟んで訓練、研修、食糧庫の整理など忙しく過ごしていた。

 休憩時間、ザラさんと一緒にお茶を飲んでいると、幻獣保護局の方々が面会に訪れる。

 いったい何事かと思っていたら、籠から白くて小さな生き物が飛び出してくる。あれは――。


「あ、アルブム」

『パンケーキノ娘エエエエエ、会イタカッタヨオオオオ!!』

「なんて大袈裟な……」


 侯爵様のもとで減量に励んでいたアルブムが戻ってきたようだ。心なしか、体がスッキリしている。減量の成果だろう。

 私の胸に縋りつき、頬をスリスリとさせる。強面侯爵様のもとで怖い思いをしたのか。可哀想に。背中を撫でてあげたら、嗚咽を漏らしていた。

 小さな声で、『パンケーキノ娘、良イ匂い……』、とか言っていた。さっきまで、ビスケットを焼いていたからだろう。

 ここで、隣にいたザラさんがアルブムを持ち上げる。

 再び私のもとへ戻りたいのか、手足をバタつかせていたがザラさんより忠告を受けていた。


「アルブム、メルちゃんに甘えていたら、また、侯爵様のもとで減量作戦が始まるからね」

『ヒッ!』


 アルブムは体をピンと伸ばし、大人しくなる。

 ザラさんはアルブムを籠の中に戻していた。


「あら? 籠に手紙が入っているわ」

「手紙、ですか?」

「ええ。メルちゃん宛てみたい」


 それは、侯爵様からのお手紙だった。

 いったいなんなのか。ドキドキしながら開封する。


「え~っと、前略――」


 手紙に書かれてあるのは、アルブムの取扱説明書だった。

 なんでも、アルブムは大気中にある魔力を得て、活力にすることができるらしい。よって、食べ物を大量に与える必要はないとのこと。

 あと、甘やかすなと書かれてある。


「なるほど。わかりました」

「メルちゃん、なんて書いてあったの?」

「アルブムに食べものを与え過ぎないようにと」

「まあ、最近は目に見えて太り過ぎだったし」


 意外な事実が発覚する。アルブムに食べものを与えていたのは私だけではなく、騎士隊の女性陣や女中さんなど、可愛い小動物好きの方々からもねだっていたらしい。

 アルブムよ、そんなことをしていたとは……。

 籠の中には、木札が入っている。表面に何か書いてあるようだ。


「なになに……『名前はアルブム。害のない小動物に見えますが、妖精です。食べ物を与えないでください。太ります。飼い主:リヒテンベルガー侯爵』……」


 自由にさせている時は首にかけるようにと書いてあった。この札には魔法がかかっていて、アルブムには外せないようになっているらしい。さすがだ。ここまで対策をしてくれているとは。


「で、アルブムはこれからどうするのですか? 毎日、真面目に侯爵家に帰ります?」


 アルブムは涙目になり、ぶんぶんと首を横に振った。


『アノ、オ願イシタノ。アルブムチャンノ、騎士隊ノオ給料ヲ、パンケーキノ娘ニ、渡スヨウニッテ』

「それは、それは」


 アルブムにも給料が出るんだ……。意外な事実である。

 それについての書類もあるらしい。アルブムが籠から取り出して私に手渡してくる。


「っていうか、その箱いろんな物が入っていますね」

『アルブムチャンノ、櫛モ、入ッテイルヨ!』

「うわ、高級な猪豚の櫛じゃないですか!」


 これで毛皮のお手入れをしろと言うのか。

 こんな高級品、私が使いたいわ。


 そんなことはさて置いて、書類を読む。


「……ふむふむ」


 なんでも、騎士隊の隊員として登録されているアルブム、アメリア、ステラ、スラちゃんにも給金が発生し、契約者に支給されることが決まったらしい。


「ってことは、アメリアやステラの給料を私が受け取るってことでしょうか?」

「そう、みたいね」


 ザラさんにも確認してもらう。

 その認識で間違いないとのこと。


「ブランシュも、アメリアやステラみたいに、遠征に連れて行ってお仕事できたらよかったのに」


 山猫イルベスは気まぐれなので、任務には適さないだろう。見た目は肉食獣みたいで強そうなんだけど。


 現在、遠征に行く際のブランシュは、リーゼロッテの家に預けている。


「あ、そういえば、エヴァハルト夫人の具合はどうなんです?」

「あまり、良くないらしいわ。療養に行くのを早めるかもしれないらしいの」

「そう、でしたか」


 依然として、面会謝絶状態は続いているらしい。

 先日、侯爵様より報告書が届いた。それは、エヴァハルト夫人は本当に借金を抱えていて、お屋敷は売りに出さなければならないという内容だった。そこに、エヴァハルト夫人についての容態は書かれていなかったのだ。


「なんていうか、世知辛い世の中よね」

「ええ」


 今は、リーゼロッテのお母さんが帰って来て、看病しているらしい。療養にも、ついて行くのだとか。


「お見舞いを考えていましたが、難しいようですね」


 とりあえず、お花と一緒に感謝の気持ちを書き綴った手紙を贈ろうと思う。

 突然お屋敷を締め出されたことは驚いたけれど、数ヶ月見ず知らずの私を受け入れてくれたことは、感謝しかない。


「それで、メルちゃんはこれからどうするの?」

「そうですね……」


 ベルリー副隊長の家にお世話になり続けるのも悪い。

 よって、侯爵様を頼る他ないだろう。


「メルちゃん、困ったことがあったらなんでも相談してね」

「ありがとうございます」


 ザラさんは私の手を握り、微笑みながら言ってくれた。

 嬉しくて、胸がいっぱいになる。


 しんみりしていたら、突然扉が開かれた。


「おい、執務室に集合――」


 具体的なことを考えようとしていたら、隊長が休憩所に入って来る。

 私達を見て、顔が引き攣った。

 何かと思ったら、私とザラさんは手と手を取り合っている状態だったのだ。


「お、お前ら、そういうことは、騎士隊の外で……」

「ち、違います! ちょっと、相談していただけで!」


 ザラさんからパッと離れて、弁解する。

 アルブムを掴んで、証言させた。


「アルブム、私達、変なことはしていなかったですよね?」

『ア、ウン、将来ニツイテ、話シ合ッテイタダケダヨ』


 アルブムの言葉を聞いて、その場に膝を突いてしまった。

 嘘は吐いていないが、まったく説得力のない言葉だったのだ。


 隊長の顔は山賊みが増している。

 私と隊長の間に、ザラさんが入ってくれた。


「隊長、何か任務でも入ったの?」

「ん? ああ、そうだ。今から報告する」


 執務室に行くと、みんな揃っていた。アメリアとステラも呼ばれたのか、壁側で待機している。


「よし、集まっているな。だいたい想像できていると思うが、任務が入った」


 また魔物の討伐か。それとも、怪奇現象の調査か。

 そう思っていたが、今回の任務は変わったものだった。


「セレディンティア国の大英雄を知っているだろうか?」


 セレディンティア国。また、遠い国の名前が出てきたものだ。

 かの国は東にある大陸にある大国で、規模はうちの国より大きい。

 経済大国とも呼ばれていて、かなり豊かな国だと聞いたことがある。


「セレディンティア国とマルディーラ帝国との長年にも及ぶ戦争を終わらせた、シエル・アイスコレッタという大英雄が、我が国の山岳地帯に移り住んでいるらしい」


 なんでも、その大英雄の性別、年齢などは不詳らしい。

 それで、今回の任務とは――?


「その大英雄を、我らが騎士隊エノクに勧誘してこい、と言われた」


 な、なんだって~~!? と、心の中で叫んでしまった。


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