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驚愕! 貝料理

 どうやら夜の間に船の整備をするようで、村で一泊することになった。

 村に宿泊施設はないので、私達は散り散りになって村人達の家に一泊させてもらう。

 ベルリー副隊長と、私、リーゼロッテは村長の家に。アメリアとステラは家の中に入れないので、厩を開けてもらった。綺麗に洗浄して、新しい藁を敷き詰めてくれたようだ。

 隊長とウルガスは役場長の家、ガルさんとザラさんは雑貨屋さんに泊まる。

 おかげさまで、ぐっすりと眠れた。

 翌日。礼を伝え、村を出る。

 どうやら、出発は昼過ぎらしい。それまでの時間、砂浜で訓練をすると言っていた。

 私はステラとアメリアを伴って、海岸のほうへと向かう。

 村長さんより聞いていたのだ。今日は大潮であると。海が引いているのでちょっとした魚介が獲れるらしい。

 張り切って出かけようとしたが――隊長より待ったがかかる。


「おい、リスリス。念のため、誰か一人連れていけ」

「え?」

「危険はどこに潜んでいるのかわからん」


 アメリアとステラがいるから大丈夫だけど、隊長がそう言うのならば。

 ザラさんかなと視線を向けようとしたが、一名(?)、我が! と主張している者がいた。

 瓶の蓋をドコドコと叩く、スラちゃんだ。皆の注目がガルさんとスラちゃんに集まる。

 だったらと、ガルさんに手伝いを頼んだ。


 逆に、アメリアやステラは砂浜の散策に向かないだろうと考え直し、置いて行くことにした。


『クエクエ!』

『クウ……』


 抗議の声を上げていたが、磯臭くなってもお風呂には入れませんよと言ったら、大人しくなった。


「危険が迫ったら、呼ぶので」

『クエ』

『クウ』


 アメリアとステラの見送りを受け、ガルさん、スラちゃんと共に出発する。


 その辺に生えていた大きな葉っぱを円錐状に丸め、魚介入れを作る。ちょっと大きすぎるかと思ったけれど、まあいいか。


 ガルさんと並んで歩いていると、昨日海だった場所が砂浜になっていることに驚いた。


「わあ!」


 これが大潮なのだ。

 研究者曰く、空から見える天体の引力によって、潮の満ち引きが行われるらしい。

 ガルさんが、面白いものがあると教えてくれる。


 砂浜は水分を含んで、湿っている。ところどころ、水たまりもあった。

 マントの裾を濡らさないように、注意しながらしゃがみ込んだ。

 ガルさんはスラちゃんを瓶の中から出す。何をするのかと思いきや――なんと、スラちゃんは砂をパクンと食べた。


「え!?」


 もぐもぐと咀嚼し、砂と水はぺっと吐き出す。

 ガルさんの手のひらに出したのは……塩。


「おお、スラちゃん、自家製塩ですか!」


 すごい! と褒めると、スラちゃんはエッヘンと胸を張っていた。


「この塩を使って、面白いことをするのですか?」


 ガルさんはコクンと頷く。

 指差された先を見ると、水たまりの中に小さな穴があった。そこに、ガルさんはスラちゃん特製の塩をサラサラと入れた。


 しばし穴を見つめていると、コポコポと泡が浮き上がってくる。

 そしてにゅっと、細長い何かが出てきた。ガルさんは目にも止まらぬ速さで引き抜く。


「な、なんですか!?」


 引き抜いた物体を、見せてもらった。

 細長い筒状の殻を持った何か・・だ。


「こ、これは、食べ物ですか?」


 ガルさんは頷く。これは貝の一種で、真手貝マテガイというらしい。

 巣穴に塩を入れると、潮が満ちたと勘違いしてひょっこりと顔を出すのだとか。

 春先の今が旬らしい。焼いて食べるとおいしいと言う。

 その後もガルさんは穴に塩を入れて、真手貝を引き抜く。


「わ~、楽しそうですね!」


 スラちゃんは私のために、塩を作ってくれた。さっそく、真手貝引きに挑戦する。

 まずは穴を見つけ、塩を入れる。しばし待つと、コポコポと泡が出てきた。

 じっと穴を見つめていたら、真手貝が出てきた。急いで手を伸ばすが――すぐに引っ込んでしまった。


「ぐぬぬ……」


 意外と難しい。

 塩を入れて反応がない場合は、塩を追加する。少なかったら反応しない時もあるのだ。

 もちろん、すべてが真手貝の穴ではないので、見極めも大事だが。

 ニュっと出てきたところを、冷静に、しかし素早く手を伸ばし――捕獲。


「よし!」


 なんとか、獲れるようになった。

 やり始めると止まらない。真手貝狩りはとても楽しかった。


 ここでも、スラちゃんは活躍した。


「あっ!」


 私が獲り逃した真手貝を、スラちゃんがにゅっと手を伸ばして捕獲するのだ。


「スラちゃん、すごいです! さすがですね!」


 褒めたたえると、スラちゃんは真手貝を頭上に掲げ、誇らしげにしている。

 そうこうしているうちに、用意していた葉っぱの入れ物は真手貝でいっぱいになった。


「ちょっと獲り過ぎましたか」


 楽しくって、止まらなかったのだ。

 まあ、いい。残ったら、ニクスの中に入れて持ち帰ろう。


 まずは砂抜きを行わなければならない。ガルさん曰く、貝の構造上砂を噛まないと言われているが、それでもじゃりっとすることがあるらしい。砂場の生き物なので、仕方がないだろう。一時間ほど砂を吐かせたら十分だろうと言っていたが、そんなに待てない。

 どうしようかと考えていたら、スラちゃんが挙手する。どうやら、砂抜きをしてくれるらしい。


「スラちゃん、助かります!」


 とりあえず、みんなが訓練している場所へと戻った。


『クエクエ!』

『クウクウ!』


 アメリアとステラが出迎えてくれた。

 突然別の場所へと走り出したので、何かと思いきや、石を積んで作ったかまどが完成していた。


「わあ、すごい!」


 すでに火も入っていて、湯も沸いている。

 かまどの近くにはウルガスがいて、「どうも」と言いながら片手を挙げていた。


「ウルガスが手伝ってくれたのですね」

「はい。なんか俺にクエクエクウクウ言っていて、理解するのに時間がかかりましたが」

「それはそれは」


 ありがたく、かまどを使わせていただく。

 まずは、塩抜きからしなければならない。


「リスリス衛生兵、それなんですか?」

「真手貝です」

「お手貝、ですか?」


 ウルガスが私の手のひらにポン! とお手をしながら聞いてくる。

 お手貝ではなく、待て貝! じゃなくて、真手貝です。


「へえ、筒状の貝ですか。面白いですね。これは、どうやって食べるのですか?」


 私は周囲に隊長がいないことを確認し、秘密の瓶を取り出した。


「こ、これは……!」


 橙色に輝く万能スライム。スラちゃん様だ。


「まず、スラちゃんに砂抜きをしてもらいます」

「だ、大活躍ですね」

「ええ」


 まずは、乾燥野菜と一緒に鍋に入れて、スープを作る。

 真手貝を殻のまま入れる。火が通ると、パカっと開くらしい。生姜ゼンゼロ、スラちゃん特製塩、その他香辛料で味付けした。


 続いて、鍋にオリヴィエ油を敷いてバターと一緒に炒める。こちらも、塩胡椒で味付けをした。


 最後に、酒蒸しを作る。磯の良い香りが漂っていた。

 隊長のお酒を使うと怒るので、今回はきちんと料理用の酒を準備していたのだ。


 以上で昼食は完成となった。

 頑張ってくれたスラちゃんへのお礼に、ビスケットをあげる。とても喜んでいた。


 みんなを呼んで、昼食の時間とする。


「なんだ、こりゃ」


 警戒心の強い隊長は、初めて見る貝の形を不審がっていた。しかし、ガルさんがおいしい貝だと説明すると、安心したようである。

 神々に祈りを捧げて、いただきます。


 まずは、スープから。


「うん、おいしい!」


 思わず自画自賛してしまう。貝の旨味がスープに溶け込んでいて、非常に美味である。

 ザラさんに素材の味を最大限に生かした素晴らしい出汁の味わいだと、褒めてもらった。


「この出汁で、米を焚いたらきっとおいしいわ」

「なるほど。真手貝ご飯、おいしそうです」


 時間があったら、再び採取に行って試してみたい。


 続いて、バター炒めを食べてみた。


「おいしい……」


 思わず、といった感じに呟いたのはベルリー副隊長だ。

 頬は緩み、本当においしそうに食べている。どうやら、お気に召したご様子だった。

 バターで炒めることによって、風味がぐっと上品になり、まるで高級レストランのとっておきの一品を食しているような気分になった。


 最後に、酒蒸しを食べる。


「おっ!」


 隊長が反応する。

 真手貝の濃い旨味を酒が閉じ込め、おいしさが増し増しとなっているようだ。


「これは、うまい!」


 食べる手が止まらない。おいしい、おいしすぎる。


 作り過ぎてしまったかと思ったが、あっという間になくなった。

 大満足の真手貝料理だった。


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