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騎士隊売店の日替わりサンド

「メル、野宿したって本当なの!?」

「ええ、まあ」

「なんでうちに戻ってこなかったのよ!!」


 案の定、リーゼロッテにも怒られる。覚悟はしていたけれど。


「すみません、なんか、自分でなんとか切り抜けられないかなと思いまして」

「無謀よ、そんなの!」


 みんなに怒られてひしひしと痛感する。

 無理してなんとかしようとしたら、余計に周囲に心配と迷惑をかけてしまうことを。

 今度から、遠慮せずに誰かに頼って解決したい。


 質問するのは気が引けるけれど、エヴァハルト夫人について聞いてみる。


「それが、お祖母様はお父様に話をしている途中で具合が悪くなられて……。親子喧嘩をして仲が今まで以上に悪くなった話は聞いたけれど、それ以上詳しくは知らないの。その、お祖母様の具合が良くなり次第、お父様を通して聞いてみるわ」

「よろしくお願いいたします」


 この件に関してはしばらく保留ということで。まずは、エヴァハルト夫人の体の具合が快方に向かうのを祈るばかりだろう。


「それで、今晩は私の家に来るのよね?」

「いえ、侯爵家にはアルブムがいるので」


 現在、侯爵様の監督のもと、減量中だろう。私が行ったら、アルブムは甘えてくるかもしれない。今は距離を置くことが最善だと思っている。


「だったら、どこに行くの?」

「ベルリー副隊長の家にしばらく置かせてもらおうかな、と」

「そうね。それがいいと思うわ」


 ベルリー副隊長に迷惑をかけたくないけれど、アメリアとステラが入れる場所は限られている。今回ばかりは頼るしかない。


「もしもの時は言ってね。お父様とアルブムは家から追い出すから」

「あ、ありがとうございます」


 リーゼロッテに追い出される侯爵様とアルブムの姿を想像したら、気の毒過ぎた。

 世知辛い世の中である。


 ◇◇◇


 昼を知らせる鐘が鳴り響く。

 リーゼロッテにアメリアとステラを任せ、売店へ急ぐ。日替わりサンドと瓶入りのお茶を二つずつ購入し、騎士見習いで訓練中のミルのもとに行ってみた。

 ちょうど昼休みになったばかりのようで、座学室から出てきたところを捕獲する。


「ミル!」

「わっ、お姉ちゃん!?」

「ちょっと話をしたいことがあるの。大丈夫?」

「うん、いいけれど、食堂で?」

「いや、パンがあるから、中庭かどこかで」

「もしかして、お姉ちゃんの作ったパン?」

「ううん。騎士隊名物の日替わりサンドだけど」

「なんだ~」


 私の作ったパンを食べたかったらしい。今度作って差し入れしてあげよう。

 そんなことはさて置いて、渡り廊下を横切って煉瓦が地面に敷き詰められた中庭へ入る。


 騎士隊の中庭は木々がたくさん植えられ、花壇には綺麗な花が咲いていた。中心には国の英雄的存在である、剣を構えた勇ましい姿の騎士像が建てられている。


「あ、お姉ちゃんこれね、大英雄のお尻がすごいって有名で」


 ミルが私の手を引き、像の裏側に連れて行く。


「ね、ね、すごいでしょ?」

「う~~む」


 たしかに大英雄のお尻はすごい。形が整っていて、張りがあるように見える。しかし、これだったら我らが隊長のお尻のほうがすごいような。

 こう、ぎゅっと引き締まっているというか、なんというか。


「え、大英雄のお尻、そんなにすごくない?」

「いや、もっとすごい人を知っているから」

「誰!?」

「うちの隊長」

「そうなんだ! 気付かなかった~。今度見てみよう。でも、このお尻よりすごいって……」

「いや~、もう、服の上からでもわかるくらい、筋肉バキバキで」

「ええっ、すご~い!」


 ここで、ハッと我にかえる。

 なんで私達は姉妹で隊長のお尻について話をしているのかと。こんな話をするために呼び出したのではない。

 まずは食事を取らなくては。


「お姉ちゃん、ここにしよ」


 そう言って、英雄像の影にミルは座った。


「いや、お尻を前に食事をするなんて」

「ここ、人目に付かないし、日陰だし、いいところだから」

「そりゃ、お昼時に大英雄のお尻を見に来る人なんていないだろうけれど」


 まあいいかと、大英雄像の影に座った。

 今日はポカポカ陽気で、吹く風も気持ちが良い。大英雄の尻さえ目の前になければ、爽やかな気持ちになっただろう。

 ニクスの中に入れていた売店で購入した日替わりサンドとお茶を取り出す。


「はい、これはミルの」

「わ~い、ありがと!」


 本日の日替わりサンドは、白パンに炒り卵とソーセージが挟まった物だ。

 卵はフワフワで、ソーセージは皮がパリっと弾ける。実においしいパンである。


「うわあ、おいしい! 騎士隊の売店って、こんなおいしい物が売っているんだあ」


 見習いの騎士舎には売店がないようだ。基本的に、時間割がきっちりしているので、食いっぱぐれる人が出ないからだろう。


 食事を終えると、本題へと移る。


「この前話をした、私の魔力についてなんだけど」

「なんか分かった?」

「うん、大変なことが……」


 ミルに話をすべきか迷ったけれど、私より魔法や村について詳しいので打ち明けることにした。


「知り合いのおじさんに調べてもらったら、私の中にとんでもない量の魔力があったみたいで」


 しかも、伝説に残る歴代の勇者並みとか、なんとか言っていたけれど。


「そっか。やっぱり、見間違いじゃなかったんだ」


 魔眼持ちのミルには、どうやら視えていたらしい。信じられない情報だったので、言わなかったようだ。


「そんなにたくさん魔力があったら、大変なのに……。どうして、お姉ちゃんが……」


 分からない。平和な世の中になぜ、大量の魔力を持って生まれてきたのか。


「おじさんが言うには、扱えない魔力は危険だから、竜と契約しておいたほうがいいって言っていたんだけど」

「竜……」

「その、フォレ・エルフの森の中に封じられているのは、邪竜じゃないかって」

「え!?」


 巫女をしていたミルも知らない情報だったようだ。

 大きな目を瞬かせ、衝撃を受けている。

 私もそうだった。村の森に、邪竜が封じられているなんて。


「もしかしたら、邪竜と契約したら、フォレ・エルフの村は救われるのかな?」

「邪竜と契約って、お姉ちゃん、本気!?」

「もしかしたら、話せば分かる相手かもしれないし」


 私は邪竜に魔力を与える。その代り、村から生贄を出さないようにする。

 どちらにも益があるような気もするけれど。


「ダメ、ダメ! 邪竜との契約なんて! 竜と契約するんだったら、もっとこう、白竜とか、緑竜とか、善き存在ものとしなきゃ!」

「そうだけど……」


 ここで、昼休みが終わる十分前の鐘が鳴った。

 急いで戻らなければ。


「お姉ちゃん、勝手に邪竜と契約したらダメだからね!」

「うん、大丈夫」


 ここで、小指と小指を絡ませて、約束のまじないをする。


「お姉ちゃんは勝手に暴走して契約し~ない! 破ったら毎日私のためにお菓子を作る!」

「ミル、毎日お菓子を食べたら太るよ?」

「そういう問題じゃなくって!」


 でも、ムチムチなアルブムの姿を思い出したら、言わずにはいられなかった。


 そういえば、減量しているアルブムは元気だろうか。

 侯爵様に怯えている姿はすぐに想像できる。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「あ、いや、なんでもない。約束は守るから」


 こうして、私はミルと邪竜と契約しない約束を取り交わした。


おかげさまで、遠征ごはんの重版が決定いたしました。応援してくださり、ありがとうございました。本当に、嬉しいです。

お礼のショートストーリーを活動報告に載せておりますので、読んでいただけましたら嬉しく思います。

(∩´∀`)∩

これからも頑張ります!!

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