挿話 ◇ウルガスの第二部隊観察日記◇
×月○日
朝からガルさんが隊舎の花壇の水やりをしている今日は平和だ……と思っていたが、昼に食堂でリスリス衛生兵とリヒテンベルガー魔法兵を食事に誘いたいらしい騎士に橋渡しをしてくれと絡まれる。
おかずのソーセージを譲るからと懇願されたが、そんなのお断りだ。
自分で誘って、きっぱり振られるといい。
リスリス衛生兵の場合は、アートさんの妨害を潜り抜けることができたらだけど。
リヒテンベルガー魔法兵の場合は、侯爵に許可を取ったほうがいいだろう。
そもそも、下っ端の俺に頼むことから間違っている。
……自分で下っ端と言って空しくなった。
×月△日
今日は朝から遠征を言い渡された。気が重い。最近、中級~上級の魔物と遭遇する確率がぐっと上がっているような。恐ろしい。
それを倒してしまう我が部隊も恐ろしいけれど。
楽しみはリスリス衛生兵のごはんしかない。笑顔で器を差し出してくれる彼女を見ていると、つい、「お母さん」と言いそうになっている自分がいた。
リスリス衛生兵は俺のお母さんではありません。
×月◇日
ベルリー副隊長にはファンクラブがある。もちろん、本人には非公認の。
女中さんを中心に、女性騎士に貴族令嬢、庶民のお嬢さんと、結構な数がいるらしい。
彼女達の作った差し入れを、たまに運ばされるのだ。
綺麗なお姉さんにお願いされたら叶えるしかない。
そんな中で、知り合いの騎士から女性を紹介してくれと乞われる。そんなの、俺が紹介してほしい。
女性に囲まれているではないかと言われるけれど、ぜんぜんおいしい目にはあっていない。
リスリス衛生兵の背後には腕組みしたアートさんがいるし、隊長も「娘はやらん!」みたいな感じで厳しい視線を周囲に向けているし。リヒテンベルガー魔法兵には強面のお父様の姿が脳裏にちらつく。
二人共、女性としては大変魅力的だけど、危険を冒してまでお付き合いをしたいとは思えなかった。
ベルリー副隊長は頼りになるお姉さんって感じて、そういう目では見ることはできないし……。
どこかで素敵な出会いがあることを、夢見ている。
◇月○日
リスリス衛生兵がいない隙を狙って、妹のリスリス魔法兵が遊びに来る。
訓練は順調のようで、最近馬に乗りこなせるようになったと自慢していた。
寮や騎士隊の食事はおいしく、同僚や先輩騎士はみんな優しい。
休みの日は市場に買い物に行ったようで、王都暮らしを堪能しているようであった。
世間話はおまけで、リスリス魔法兵には真なる目的がある。
それは、手作りクッキーの味見だ。どうやら、リスリス衛生兵の作るクッキーの味に近付きたいようで、暇を見つけてはせっせと作っているようだ。
完成したら、プレゼントしたいらしい。姉妹愛に涙が……!
主に味見をするのは、妖精のアルブムチャンさんである。
今日も『マダマダ、パンケーキノ娘ノ味ニハ、遠イネ』と言われ、がっくりしていたようだ。しかし、すぐに復活して、また頑張ると宣言している。
もう一点、リスリス魔法兵のすごいところは、隊長を慕っているところだろう。
今日も、「隊長さんだ~~」と言って、突撃をかましていた。
隊長も女の子に好意を向けられたことがないからか、満更でもないような表情でいる。
いつか、一緒に活動できたらいいなと思った。
◇月×日
今日は朝からスラちゃんさんが外に出たがり、ドコドコと瓶の蓋を叩いていた。
ガルさんが開けると、ぴょいっと飛び出して、手をバタバタと動かしている。
あれは何をしているのかと聞いたら、ガルさんが朝の体操だと言っていた。いつもは家でやって来るのだが、今日はちょっと寝坊をしてさせる暇がなかったようだ。
ぴょこぴょこと手を動かしている様子を見ながら、俺も背伸びをして、膝の屈伸を行った。
なんか、眠気が取れたような気がする!
スラちゃんさんに感謝だ。
◇月□日
物陰から、クエクエと鳴き声が聞こえた。
何かと覗き込んだら、俯くリスリス衛生兵とアメリアさんの姿が。
リスリス衛生兵「はい、すみません、窓から外に出ません」と言っていた。
どうやら、人としての礼儀を諭されているようだった。
幻獣に注意されるリスリス衛生兵っていったい……。
○月◇日
ついに、友人から女性を紹介してもらえることになった。
なんでも、街で見かけた時に好意を抱いてくれたらしい。
さっそく、会うことになった。
結構可愛くて、嬉しくなる。
でも……。
さっきからずっと自分の話か職場の愚痴ばかり話している。
俺が話をしていると、自分も似たようなことがあったと話題を被せてくるのも。
う~~ん。
リスリス衛生兵やベルリー副隊長、リヒテンベルガー魔法兵はそんなことしない。
毎日キツイけれど、一言だって愚痴を漏らすことはなかった。
リスリス魔法兵だって、他人の話はきちんと聞いて相槌を打ってくれる。
可愛い女性だけれど、なんだかな~~と思ってしまった。
デートのあと友人に漏らしたら、その女性はごくごく普通の感覚の人だと言われる。
同じ部隊の女性陣が、出来過ぎていると。
なんてこった!
第二部隊にかかわる素敵な方々のおかげで、女性を見る目が厳しくなっていたらしい。
思わず頭を抱え込む。
この先、女性とお付き合いできる日は来るのか……。
不安になってしまった。
○月×日
リスリス衛生兵が手作りのお菓子を差し入れてくれた。やったー!
素朴な味わいがたまらない。
第二部隊のみんなで味わうことになった。
あとで、リスリス魔法兵にあげようと、こっそりハンカチに包んでおく。
きっと、喜ぶだろう。
◇◇◇
そんな感じで、面白おかしく日々暮らしている。
この先も、のんびり楽しい毎日が続くだろう。