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ミル、第二部隊へ!

 ミルはアメリアに跨ったまま、入場許可証を示し、無事中へ入ることを許可されていた。

 ちょうど出勤時間の駆け込み時で、駐屯地の出入り口にはたくさんの騎士が行き交っていた。


「お姉ちゃん、すごい、騎士様がいっぱいいる! みんなカッコイイねえ。あ、女の人の騎士様だ!」


 森暮らしの私達にとって、騎士とは空想上の存在だった。しかし、王都にやってきたら、大勢いる。騎士を見て、ミルのように舞い上がってしまうのは、私も経験していた。


 今日はステラもいるし、ミルもいるので、目立ちまくる。

 フォレ・エルフにとって騎士が珍しいように、騎士の方々からしたら、フォレ・エルフが珍しいのだ。この辺はお互いさまだ。


 注目を浴びながら、第二部隊の隊舎前まで辿り着く。


「綺麗な建物だね」

「最近建て替えたばかりだからね」

「そうなんだ」


 ここで、ザラさんが隊長にミルのことを報告に行って来ようかと提案してくれた。


「あ、そんな、悪いです」

「妹さんとさっき会ったばかりなんでしょう? 積もる話もあるだろうから」

「ありがとうございます」


 ザラさん、良い人過ぎる。

 姿が見えなくなったあとで、ミルが話しかけてきた。


「カッコイイ上に、性格のいいお兄さんだね」

「そうでしょ?」

「両想いっぽいから、付き合っちゃえばいいのに」


 その発言に白目を剥きそうになる。


「な、なんで、そう思ったの!?」

「勘だけど」

「勘って……」

「で、実際はどうなの?~」

「そ、それは!」


 空気を読んでくれたアメリアが、地面に伏せをしてミルを降ろす。


「アメリアちゃん、ありがと!」

『クエ~』

「どういたしまして、だって」


 じっと、不思議そうな顔でミルが私を見上げる。


「何?」

「あの、この幻獣、どうしたの?」

「話せば長いんだけど、アメリアは赤ちゃんのころに拾って、ステラは最近出会って。どちらも同意の上で契約したんだけど」

「でも、お姉ちゃん魔力ないでしょ?」

「そうだけど、さっきも言ったとおり、同意の上の契約だから、魔力は必要ないっていうか」

「あのね、無意識っぽいから教えるけれど、幻獣との契約には種類があって」


 一つは単なる契約。利害が一致していて、特に魔力は必要ない。

 二つ目は強制契約。名付けによって、無理矢理従わせる。大量の魔力が必要。

 三つ目は魂の契約。幻獣と心を通わせた上に、魔力を共用している状態となる。


「魂の契約は、魔力が幻獣よりも勝っていないとできないの。それを、お姉ちゃんは幻獣二頭分としているから」

「え、待って。その魂の契約って、なんで分かるの!?」

「普通の人には視えないけれど私は魔眼持ちだから、繋がった魔力の糸が見えたんだよね」

「ま、魔眼!?」

「あれ、言ってなかったっけ?」

「聞いてない!」

「あ、でも、最近分かったんだけどね」


 なんと、ミルは高い魔力の結晶体である魔眼の持ち主だった。

 なんでも、魔術医の先生の診断で明らかになったらしい。


「物心ついた時から、森の精霊が見えていたり、魔力の流れが見えていたりしたんだけど、それって、みんな見えているものだと思っていたんだよね」

「なるほど、そういうわけ……」


 返事をしかけてハッとなる。


「ま、まさか、個人の感情とか、考えていることが見えるとか!?」

「しない、しない」


 ホッと安堵の息を吐く。


「でも、怒っている時とか、その人の周囲にある魔力の流れとかで分かるよ」

「そうなんだ」

「強い感情は、魔力にも影響を及ぼすからね」

「ふうん」


 ここで、ザラさんが出て来る。今から、紹介しに行ってもいいらしい。


「お姉ちゃん、隊長さんって、カッコイイ?」

「あ……うん」


 すごく山賊です、という言葉をなんとか呑み込んだ。

 こう、強面でがっちりしていて、好きな人は好きな男前の部類かもしれない。


 騎士舎の中を案内しながら思う。心構えなしに隊長を突然見たら、びっくりするかもしれないので、一応説明しておく。


「隊長の身長は、ザラさんよりも高くて」

「へえ」

「ザラさんよりも筋肉質で」

「すごいねえ」

「ザラさんよりも、こう、ゴツゴツしているというか、精悍な顔付きで」

「うんうん」

「最後に――すごく」

「おい、リスリス!! 妹は一人なのか!?」


 執務室から顔を出し、大声で話しかけて来たのは――。


「ギャアアアア、山賊だあ~~」

「……」

「……」


 真顔になる私と隊長。

 もちろん、先ほどの悲鳴はミルだ。

 どさくさに紛れて、ミルはザラさんに抱きついていた。


「あの、ミル? こちらの山賊は山賊ではなく」

「おい、リスリス、こちらの山賊はってなんだ!?」

「すみません、間違えました」


 まず、隊長は山賊ではないこと。強面だけど優しいこと。貴族であることなどを丁寧に説明する。


「まずその、山賊ではないという説明がおかしい」

「すみません」


 騒ぎを聞きつけた他の隊員が、休憩所から出てきた。


「どうした?」

「また山賊が出たんですか?」


 ベルリー副隊長とウルガス、ガルさんが廊下に出て来る。


「うわ、ワンちゃんの騎士様!」


 ミルがキラリと目を輝かせ、ガルさんに向かって走って行こうとしたので、慌てて首根っこを掴んだ。


「ワンちゃんって呼んだらダメ!」

「だって~だって~」


 ジタバタと暴れるミル。隊長は怖がったのに、初めて見る獣人のガルさんを怖がらなかったのはどういうことなのか。


「わあ、小さいリスリス衛生兵だ」

「リスリス衛生兵、彼女は?」

「あ、すみません」


 みんなミルの姿を見て驚いている。慌てて紹介した。


「妹のミルです。今日一日、見学をさせていただけたらなと」


 みんなに挨拶と謝るよう、耳打ちする。


「お騒がせしてごめんなさい。メルの妹のミルです。姉が、お世話になっております」


 なんだ、その、私が迷惑をかけているみたいな挨拶は。まあ、いいけれど。

 みんな、優しい笑顔でミルを迎えてくれた。

 ここでもう一人、我らが第二部隊の隊員がやって来る。


「おはよう。あら、どうしたの? こんなところで集まって――まあ!」


 リーゼロッテが出勤してきたようだ。

 ミルの顔を見るなり、驚いた顔をして駆け寄って来る。


「メル、どうしたの? 何かその辺に落ちている変な物を食べて、縮んじゃったの!?」


 リーゼロッテはミルのほっぺたをプニプニし、耳を引っ張っている。


「あの、リーゼロッテ、それは私の妹です」

「まあ、メル!」


 今度は私のほっぺたをプニプニしてくれるリーゼロッテ。

 それはなんの確認なのか。


「びっくりしたわ。そっくりだから、小さくなったのかと」


 さりげに拾い食いしたと思われていたのが……。その辺はあとでゆっくり話をしようと思った。


 ここで、始業の鐘が鳴る。


「朝礼するぞ。仔リスリスは休憩所で待っとけ」


 仔リスリスって……。野ウサギよりはいいけれど。


「あ、そうだ、メル」

「なんですか?」


 執務室に入ろうとしたら、リーゼロッテに呼び止められる。


「あの、ステラとアメリアが騎士舎の外にいて」

「あ、本当ですね」


 途中までいた気がするけれど……?


「なんか、震えていたから、怖いことでもあったのかと」

「あ、隊長を見て、ミルが叫んだのを聞いてびっくりしたのかもですね」

「ああ、なるほど」


 様子を見に行きたいけれど、アメリアと一緒ならば大丈夫だろう。

 朝礼をするため、執務室へと移動した。


 今日一日、ミルを連れて歩いていいことになった。

 ただし、遠征に持って行く食材の調理をしていいのは私のみ。あくまでも、ミルは見学をするだけ。


「怪我をさせると始末書ものになるから、気を付けろ」

「はい、分かりました」

「以上で解散」


 休憩所にいるミルを迎えに行った。

 すると、疲れていたのか、長椅子で眠っている。

 きっと、ここに来るまで眠れなかったのだろう。

 私もそうだった。

 乗り合いの馬車に乗って落ち着けなかったり、初めて宿屋に泊まった時、一階の酒場から聞こえる喧騒が気になって眠れなかったり。

 フォレ・エルフの森から、王都に来るのは本当に大変だった。

 外套を脱いで、ミルにかけてやる。

 それにしても、いったい何をしに来たのか。連絡もなかったし、観光に来たとは思えない。

 詳しい話をあとで聞かなければ。

 一応、みんなに休憩所で眠っている旨を報告に行った。しばらく、寝かせていてもいいとのこと。


 私はミルが寝ている間に、兵糧食をせっせと作った。

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