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スコーンもどきと朝食プレート

 私とリーゼロッテ、ベルリー副隊長はアジトの二階にある部屋を借りて夜を明かす。

 アメリアとステラは二階へ上がれないので、一階の広間で休むことになる。幻獣保護局の方々が見張りをしてくれるのが心強い。

 いつもだったら、アメリアは一人でしょぼんとなってしまうけれど、今日はステラに「一緒に眠ってあげるからね!」と、お姉さん風を吹かせていた。なんとも微笑ましい光景である。アルブムはザラさんが持って行った。涙目だったけれど、引き留める理由は特にないので、そのままにしておいた。


 今夜は酷く冷え込む。部屋に暖炉用の薪などはなかったが、リーゼロッテが魔法で火を熾してくれた。便利だなあ。


「さて、眠るとしよう」

「了解です」

「わかったわ」


 床に野営用の敷物を広げる。妖精鞄のニクスを枕にして眠るのだ。

 ベルリー副隊長が扉側。私が真ん中で、リーゼロッテが窓側。三人並んで眠る。


「ベルリー副隊長、リーゼロッテ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

「ああ、ゆっくり休め」


 部屋の明かりを消すと、疲れていたのか、すぐに寝入ってしまった。


 翌朝。


「――ウッ!」


 寝苦しさを覚えて目覚める。

 なんと、リーゼロッテが私の体に足を絡め、抱き枕のように抱きしめた状態で眠っていた。苦しいはずだ。

 体を捩って拘束から逃れ、起き上がる。ぐっと背伸びをした。

 ベルリー副隊長は薄目を開けて、挨拶してくる。


「リスリス衛生兵、早いな」

「はい。朝食を作ろうかと思いまして」


 相変わらず、ベルリー副隊長は低血圧のようだ。

 目をしょぼしょぼさせながら、話しかけてくる。


「私も、何か手伝いを……」

「いえ、大丈夫ですよ。昨日、見張りもされていましたし、起床時間までゆっくり休んでください」

「すまん。お言葉に、甘えさせて、いただく……」


 ベルリー副隊長は夜中、見張りをしていたのだ。私は免除してもらったので、早起きしてみんなのために料理を作ろうと思っていたのだ。


 替えのシャツに着替え、外套にはブラシをかけて綺麗にする。

 髪の毛に杏子シンツの精油を少しだけ垂らし揉み込んだあと、櫛で梳った。これをすると、髪の毛がツヤツヤになるのだ。

 桶に水を満たして顔と歯を洗い、使った水は窓の下に誰もいないことを確認してから捨てる。

 身支度が整ったら、ニクスを肩からかけて部屋の外に出た。外は太陽が僅かに顔を出したからか、うっすらと明るくなっていた。

 ザラさんとウルガスの部屋の前を通ると、扉が僅かに開く。


『パンケーキノ娘ェ』

「アルブム。おはようございます」

『オハヨオ』

「眠れましたか?」

『ウン』


 昨晩はウルガスと一緒にぐっすり眠ったようだ。すっかり、可愛がられているよう。


「今から食材探しに行くのですが」

『アルブムチャンモ、行ク!』


 私がアルブムを持ち上げ、首に巻いた。朝は肌寒いので、温かくてちょうど良い。


 外に出ると――。


『クエエ!』

『クウウ!』


 アメリアとステラが出迎えてくれた。朝のお散歩中だったらしい。

 出迎えてくれて嬉しいけれど、それよりも、幻獣保護局の人達のデレっとした表情が気になる。この人達、本当に幻獣が好きだな。


「おはようございます、アメリア、ステラ。夜は寒くなかったですか?」

『クエ』

『クウン』


 別に寒くはなかったけれど、身を寄せ合うように眠っていたらしい。すると、安心して眠れたとか。

 それは良かった。

 幻獣保護局の方々にも、お礼を言う。女性に夜の見張りは辛かっただろう。


「すみません、ありがとうございました」

「いえいえ、とんでもない」

「仲が良さそうで、心癒されました」


 鷹獅子と黒銀狼の生態について、知ることができたと喜んでいた。

 とても嬉しそうだった。

 アメリアとステラの食事は幻獣保護局の方々に任せ、私は食材探しをする。


 アジトの周囲は薬草の宝庫でもあった。


「あ、これ!」


 昨日、アルブムが採って来てくれた、森人参。茎を発見したので、引いてみる。


「おっ!」


 結構な大きさの物が埋まっていた。アルブムと同じ長さくらいだろうか?


「これ、肥料もなしに自生しているのがすごいですよね」

『ウ~~ン』

「どうかしました?」

『土カラ、魔力ノ反応ヲ感ジルンダヨネエ』

「魔力のおかげで、大きくなったってことですか?」

『タブン、ソウカモ』

「不思議なことがあるんですねえ」

『ウ~ン』


 その後も、森人参や薬草を採取して、アジトに戻る。

 朝食を作るため、腕まくりをした。

 かまどに火を入れて、調理を開始する。

 森人参はバターでほっくりなるまで炒め、火が通ったら潰す。それに水と牛乳を入れて、塩胡椒で味を調えたら『森人参のスープ』の完成。


 続いて、アメリアが昨日粉末にしてくれた、幻獣保護局提供の味のしないビスケットを使って、スコーンもどきを作る。


 ボウルに粉末ビスケットと蜂蜜、ふくらし粉を入れ、混ぜ合わせる。

 途中から溶かしバターを加え、練った。生地がボソボソになったら牛乳を加え、なめらかになるまで混ぜる。

 生地がまとまったら、コップの縁で型抜きをして、油を塗った鉄板に並べる。三十分ほど焼いたら、蜂蜜スコーンもどきの完成だ。


「う~ん、良い匂い!」


 バターの焼ける匂いは食欲がそそられる。めいっぱい吸い込んだあと、籠にスコーンもどきを積み上げていった。


 最後に、浅い鍋で燻製肉を焼き、その上から卵を割って落とした。

 目玉焼きが焼けるまでの間、人数分の食器を用意する。鍋の中を見守るのは、アルブムの仕事だ。


 皿に採れたての薬草を入れ、酢とオリヴィエ油、塩胡椒で作ったシンプルなドレッシングをかける。


「しかし、ニクスのおかげで、きちんとした料理が作られるようになりましたね。ありがとうございます」

『お安い御用だよん』


 牛乳や生卵を持ち歩けるようになったのは大変助かる。

 どちらも栄養たっぷりなので、精が付くはずだ。


『パンケーキノ娘、卵焼ケタヨ』

「あ、ありがとうございます」


 目玉焼きの白身をフライ返しでザクザクと分け、燻製肉ごと皿に盛りつける。

 完成間近になると、ザラさんが顔を出し、食堂へ運ぶのを手伝ってくれた。非常に助かる。


 食卓には、森人参のポタージュに、目玉焼き、焼き燻製肉、薬草サラダ、蜂蜜スコーンもどきと、なかなか豪勢な朝食が並んでいた。


 皆を呼びに行って、食事の時間にする。


「すごいな、リスリス衛生兵。朝から豪勢な」

「はい、頑張りました!」


 ベルリー副隊長は褒めながら、私の頭を撫でてくれた。


「ニクスのおかげで、いろいろ食材が持ち運べるようになったので」


 第二部隊のみんなだけでなく、幻獣保護局の方々にも喜んでもらえた。


「では、食べましょう」


 神に祈りを捧げて、いただきます。

 まずは、スコーンもどきから。一口大に千切って食べた。


「――んっ!」


 表面はサクッ、中はホロホロ。蜂蜜の優しい甘さが口の中に広がった。

 想像以上においしかったので、頬に手を当ててハアと溜息。

 元はおいしくなかったビスケットとは思えない。

 ポタージュにも浸して食べてみる。甘みを多く含んだスープとの相性はバツグン。これまたおいしい。

 というか森人参、甘くておいしいなあ。


「あ、そうだ。侯爵様。先ほどアルブムが言っていたのですが……」


 アジトの外に魔力を多く含んだ土があったことを報告した。


「そのおかげで、外にある薬草などがよく育っているようです」

「魔力を含む土だと?」


 ここで、リーゼロッテが眉間に皺を寄せつつ、口を挟む。


「もしかしたら、実験で作って失敗した魔石とかを、埋めて処分をしていたんじゃないかしら?」


 そういえば、魔石を体内に取り込んだ森大熊の凶暴化の問題があった。

 それと、この幻獣誘拐犯のアジトが繋がっているとしたら、最悪だろう。


「少し、調査をしなければならないな」


 やはり、騎士隊や魔法研究局、魔物研究局に報告するつもりはないらしい。


「この件を預かったのは幻獣保護局だ。まだ、幻獣のすべてを保護しているわけでもないし、並行して調査を続けようと思う」

「でも、森大熊が出たらどうするんですか?」

「それは心配ない。聖魔石を使った結界を昨晩作った。どんな魔物も、この地へは入って来ることができないだろう」

「お、おお……!」


 聖魔石とは、魔物避けの聖水を結晶化させたもの。とんでもなく高価な品だとも聞いたことがあった。侯爵様はそれを、自腹で用意したらしい。

 今回の問題に、本気の姿勢を見せていた。


「お前達はきちんと役目を果たしてくれた。今日は帰るといい」


 隊長は「わかった」と返事をする。

 予定通り、任務完了となったので王都へ帰れるようだ。


 良かった~。


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