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接近、黒銀狼!

 速度を速めても、黒銀狼は付いて来る。もしかして、まだお腹が空いているのか。

 一度、アメリアに止めてもらい、振り返った。


「あの、お腹、空いているのですか?」


 私の問いかけに対し、黒銀狼は首を傾げる。

 妖精鞄ニクスの中から行動食を取り出し、紙を剥いで差し出してみたが、反応は示さない。

 空腹ではない? う~~む。

 黒銀狼は尻尾を振って私を見ている。この様子を見ていたら、獰猛な幻獣だとは思えない。

 それにしても、どうして私に付いて来るのか。


「あの、何かご用ですか?」


 アメリアに通訳してもらおうとしたが――遠くからガサリと、草木をかき分ける音がする。

 複数の足音が聞こえるので、もしかしなくても、隊長達だろう。


「リスリス衛生兵~~」


 ウルガスの声が聞こえた。

 暗闇から、ぼんやりと光の玉が浮かび上がる。あれは、リーゼロッテか侯爵様の魔法なのか。


「ウルガ~ス、私、ここで~~す」


 果たして、聞こえただろうか?

 アメリアは、羽根の光の量を増し、存在感を示してくれた。


「そういえばアメリア。それ、魔法ですか?」

『クエ!』

「そんな能力があったのですね」

『クエクエ』


 鷹獅子の初級魔法らしい。魔法適正があるとは、知らなかった。


「いつから使えるようになったのですか?」

『クエクエ~』

「え!?」


 なんと、私の姿がよく見えないと思ったら、突然羽根が光り出したんだとか。


 話をしているうちに、第二部隊のみんなと侯爵様がこちらに到着する――が、私を見て、ぎょっとした。


「おい、リスリス……」

「う、後ろ……」

「後ろ?」


 隊長が、私の背後を指差す。振り向いてみたが、黒銀狼しかいない。


『クエクエ』

「あ!」


 アメリアより、「あの、他の人は黒銀狼怖いと思うよ」という冷静な指摘が入った。

 そうだった。私、黒銀狼に連れ去られたんだった。


 隊長は凄まじい山賊顔で剣を抜く。

 あとに続いていた他のみんなも、武器を構えていた。


『クルルルルルル!!』


 黒銀狼も、姿勢を低くして唸る。

 危ない。止めなければ!

 アメリアから飛び降りて、対峙する隊長と黒銀狼の間に割って入った。


「隊長、ダメです。武器をしまってください!!」

「おいこら、リスリス! 黒銀狼に背中を向けるな!」

「この子は大丈夫なんです!」

「何を馬鹿なことを!」

「とにかく、大丈夫なので剣をしまってください!」


 ここで、ベルリー副隊長が私と隊長の間に入ってくれる。


「ルードティンク隊長、見てくれ。あの黒銀狼は、リスリス衛生兵を襲っていない」

「だが、あれは、リスリスを連れ去っただろうが」

「違うんです。この子、お腹が空いていただけなんです。私から良い匂いがしたから、人のいない場所でペロペロしようとしていただけで……!」

「なんだと!?」

「危険な存在なら、今すぐにでも私を襲っていてもおかしくないでしょう!?」


 黒銀狼は私を襲うことなく、背後で大人しくしていた。

 ここで、隊長は構えていた剣を下ろす。

 シンと、気まずい沈黙の時間を過ごした。


「リスリス衛生兵を、ペロペロ……」


 ウルガス、そこは復唱しなくてもいいから。

 ベルリー副隊長は緊迫した表情で黒銀狼を見つめている。ガルさんは槍をぎゅっと握りしめていた。ザラさんが怖い顔で、黒銀狼を睨んでいる。


「あの、大丈夫です。ペロペロ……舐められる前に、アメリアが助けてくれました」


 なんだか恥ずかしくなる。別の言い方をすればよかったと、後悔した。


「それで、魔導リングで捕獲したのか?」


 侯爵様に質問される。

 黒銀狼の生態をよく理解しているからか、かなり遠い位置から話しかけられた。

 あと、キラキラした目をしているリーゼロッテを羽交い締めにして、幻獣に駆け寄っていくのを阻止しているよう。

 ……お父さん、大変だね。


 それはいいとして、魔導リングの話に戻る。


「あ、この子、魔導リング付けていないです」


 すると、私の体がふわっと浮く。

 ザラさんがやってきて、私を抱き上げてすごい速さで後退して行ったようだ。


「ウッ、ザラさん……」

「メルちゃん、危ないから!」


 ぎゅう~と抱きしめられる。私、黒銀狼に咥えられて、お腹あたりべとべとしているけれどと言ったけれど、関係ないと返されてしまった。


「隊長、指示を」


 珍しく、ザラさんが隊長に指示を仰ぐ。


「ウルガス、魔導リングを黒銀狼に投げろ!」

「ま、まさかの大抜擢ですね」


 ウルガスは「投擲なんてできないのに……」とぼやきながらも、命令通りウルガスは魔導リングを黒銀狼へと投げつけた。


 孤を描いて飛んで行き、良い感じに黒銀狼のほうへと飛んで行ったが、前脚で弾いて地面に落としていた。

 まあ、そうなるよね。


 黒銀狼は、私達に敵意がないと分かったのか、伏せをしつつ、お尻だけ上げた姿勢で、尻尾をフリフリと振っていた。

 こんな風にしていると、ただの犬にしか見えない。

 ウルガスがボソリと「可愛いっすね」と言っていた。

 隊長がゴホン! と咳払いする。


 続いての指示は――。


「撤退する!」


 で、ですよね。

 隊長の言葉と共に、皆、一斉に走り出す。

 ザラさんは私を抱き抱えたまま踵を返し、全力疾走する。アメリアも並走していた。


「ザ、ザラさん」

「どうかした?」

「あの、それが……」


 ザラさんの背中越しに後方を見ると、黒銀狼が付いて来ていた。

 これはもう、諦めたほうがいいだろう。


「隊長!」

「なんだ!」

「私、この子と契約します!」

「なんだと!?」


 だって、悪い子には見えないし、このまま一人にさせていたら悪い人に捕まってしまうかもしれない。


 ここで、隊長が止まるように指示を出す。

 黒銀狼は私の前にやって来て、お座りしていた。

 お手と言ったら、そのまま前脚を差し出してきそうだ。まあ、デカい足なので、両手でも抱えきれないだろうけれど。


 ここで、侯爵様が私のもとへとやって来て、一言物申す。


「おい、勝手に判断するな。これはこちらで保護して、生息地に連れて行く」


 黒銀狼の生息地は拘束した犯人から聞き出すようだ。

 しかし、不安な点も残る。


「だったら、侯爵様が魔導リングで捕獲してくださいよ」


 私の言葉を受け、侯爵様は顔を顰めたのちに、魔導リングを黒銀狼へと投げた。

 当然ながら、前脚で叩き落とされる。

 弾かれた魔導リングは、コロコロと地面を転がっていた。

 侯爵様は舌打ちをしている。


「では、お前が生息地まで同行すればいいだろう。騎士隊に要請を出して、第二部隊を護衛にするよう申請すれば問題はない」

「ですが、また捕獲されてしまったらどうするのですか? 今回の事件で、珍しい幻獣がその地にいると、噂になっているかもしれませんよ?」


 侯爵様は悔しそうな顔で私を睨みつける。


「お前は、黒銀狼と契約することが、どんな大変なことか、分かっているのか?」

「大丈夫ですよ。アルブムより食事量は少ないですし」

「食事量の問題ではない!」


 そういえば、アルブムはどこにいるのか?

 ウルガスに聞いてみたら――。


『コ、ココダヨオ……』


 か細い声が聞こえている。

 なんと、ガルさんの首にしがみついていた。黒銀狼が怖すぎて、怯えているらしい。


「アルブム、大丈夫ですよ。こう見えて、怖くありませんから」


 このあとも侯爵様がいろいろ言っていたけれど、私は決めた。

 黒銀狼と契約すると。

 一応、アメリアにもお伺いを立てた。家族だからね。


「あの、アメリア」

『クエクエ』


 すべて言わずとも分かると言われた。私の思う通り、好きにするようにとも。


「アメリア、ありがとうございます」

『クエクエ』


 アメリアの許可が出たので、最後に本人(?)の意思を確認してみる。


「あの、黒銀狼。一つ、質問させていただきます」

『クウ』


 首を傾げ、話を聞こうとしている黒銀狼に問いかけた。


「私と契約しますか?」


 そう問いかけると、青い目がキラリと輝いた。


『クウ!!』


 尻尾をブンブン振り、その場で跳ねだした。そうとう、嬉しいらしい。


「……どうなっても、知らないからな」


 背後にいた侯爵様が、低い声で言う。私は振り返って、言葉を返した。


「困ったことになったら、侯爵様が助けてくれるので、大丈夫ですよ」

「お前は!!」


 説教するために近付いて来ようとしたけれど、リーゼロッテが止めてくれる。

 侯爵様を羽交い締めにしていた。リーゼロッテ、すごい……意外と力強いんだね。

 そんなことはさて置いて、私は黒銀狼を見上げる。

 同時に、以前ザラさんが話をしていた幻獣との契約の話を思い出した。

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