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幻獣捕獲大作戦

 私達がここに来るまで、幻獣保護局の方々は何匹か幻獣を保護していたらしい。

 火蜥蜴が二、銀兎が二、白栗鼠が一、一角馬が一。

 半分以上見つけているようだ。仕事が早い。だから皆、あんなに疲れていたのか。

 残りは、火蜥蜴が一、白栗鼠が一、恋茄子が一。

 雪狐、宝石鹿、黒銀狼は契約していない幻獣なので、発見しても見逃すこと。


 今から森の捜索をするには、微妙な時間帯かもしれない。夜間での遠征部隊の活動は禁止されているからだ。

 しかし、今回は違った。回復魔法を得意とする、侯爵様が同行してくれるので、夜間の捜索も特別許可が出たらしい。

 そして、複雑に入り組んだ森の中では、アメリアの能力は発揮されないだろうとのことで、今回はお留守番になった。


『クエェ~~』


 切ない鳴き方をしているが、ダメなものはダメである。幻獣保護局のお姉さんとお留守番をしていてほしい。

 夜の魔物は戦闘能力が高くなる。なので、幻獣であるアメリアは真っ先に狙われる可能性があり、危険なのだ。


「危ないので、お利口にしていてくださいね」

『クエ~』


 なんとか、納得してくれた模様。ほっとひと安心。

 すぐに、出発しようという話になった。

 出かける前、侯爵様はリーゼロッテに注意していた。


「いいか? 森の中で大魔法は使うな。それと、夜間は魔物も強くなる。気を抜かないように。それから――」

「お父様、わかっているわ」

「しかし」


 この光景、どこかでみたことがあるような……。

 それは、ごくごく最近の記憶である。


 ――『クエクエ、クエクエクエ、クエクエ、クエクエクエ、クエ……』


 知らない人についていってはいけない、地面に落ちているお菓子は食べてはいけない、賑やかな場所には近づかない、目立たないように人混みでは頭巾を被るなど――つい先日、アメリアが外出をする私に言った言葉だった。


 その、お母さん的注意を、侯爵様はリーゼロッテにしていた。


「まったく、お父様ったら、過保護なんだから」


 リーゼロッテは侯爵様のもとを離れ、溜息を吐いていた。


「侯爵様、リーゼロッテのお母さんみたいですね」

「昔から、お母様があまり家にいないから、そういう風になってしまったのかもしれないわ」

「そうなんですか?」

「ええ、困った人なんだけど……」


 なんと、リーゼロッテのお母さんは慈善事業で忙しく、世界中を駆けまわっているらしい。


「きっと、慈善事業マニアなのよ」

「はあ」


 そんな環境だったので、侯爵様は母親代わりも務めているのだろう。


「たぶんね、お父様と結婚したのも、慈善事業の一環なんじゃないかって」


 天才魔法使いである侯爵様は、一時期いろいろあって、引きこもりになっていた。

 社会復帰のきっかけが、幻獣と今の奥様だった、という話は以前聞いていたけれど。

 それにしても、慈善事業の一環で結婚してもらう侯爵様っていったい……。


「奥さんがいないので、侯爵様の愛は幻獣に傾いているのかもしれないですね」

「ええ、そうかもしれないわ」


 リヒテンベルガー侯爵家の、意外なお家事情を知ってしまった。


 お喋りはここまで。さっそく、森の中へ行方不明となった幻獣の捜索を始める。


『パンケーキノ娘~~』


 アルブムがこちらへテッテケテーと駆けて来た――が、途中で体が宙に浮く。

 目を丸くして、手足をバタつかせていたが、誰に持ち上げられているのか気付いた瞬間、表情を凍らせていた。


「お前はこっちだ」

『ヒエエエエ!』


 アルブムはどうやら、侯爵様に捕まったようだ。収納していた杖を出すように命じられていた。

 涙目で、杖を出している。

 それが終わると、侯爵様は外套のポケットにアルブムを詰め込んでいた。

 涙目で、こちらを見ている。

 口が、微かに動いていた。

 読唇術はできないが、なんとなく言っていることがわかってしまう。


 ……ケテ……タス、ケテ……助ケテ……!


 余程、侯爵様と一緒にいるのが嫌なのだろう。仕方がないので、助けてあげる。


「すみません、侯爵様。アルブムを預かってもいいですか?」

「こんなの、一緒にいても役に立たんだろうが」

「あ、い、癒される、ので」


 侯爵様は信じられんという表情で、アルブムを私に渡してくれた。


『ウッ、パンケーキノ娘ェ、怖カッタ、怖カッタヨオ……!』


 アルブムは私にヒシっと抱き付いて、涙声で話す。

 いやいや、侯爵様はあなたのご主人様ですから。まあ、気持ちはわからなくもないけれど。

 ガタガタと震えて可哀想だったので、背中を撫でてあげた。


 そうこうしているうちに、出発となる。私は侯爵様の後ろを歩くように言われた。

 妖精鞄ニクスのおかげで、荷物は少ないので助かっている。鍋とか、地味にかさばっていたし。


 順番は隊長、ザラさん、ウルガス、侯爵様、私、リーゼロッテ、ガルさん、ベルリー副隊長の順となっている。

 侯爵様の身長が高いので、前が見えない。

 しかも、なるべく明るい時間に任務を終えたいからか、隊長はいつもより早足だった。

 一生懸命ついて行っていたら、侯爵様の背中に激突してしまった。


「ぎゃっ!」


 侯爵様は急に立ち止まった。いったい何事かと思っていたら、前方よりザッザッザッと四足獣の足音が聞こえる。単独だが、足音の大きさから、結構な大物だろう。


森大熊フォレ・オサだ」

「うわ……」


 この前遭遇した雪熊を思い出し、ゾッとする。

 すぐに、ベルリー副隊長より、後方に下がるよう指示があった。


 いつもと違う存在感に、ぞわっと、鳥肌が立つ。みんなの後姿からも、緊張が伝わっていた。


 隊長が大剣を抜く。続いて、他の人も武器を構えだした。

 侯爵様が何かの術式を展開させた。

 白い魔法陣が浮かび上がり、四方八方に光の粒が散っていく。


「アルブム、あれが何かわかりますか?」

『タブン、結界ダト』


 なんでも、リーゼロッテの炎系の魔法が森の木々に燃え移らないような対策らしい。なるほど。侯爵様は、そういうこともできるのか。

 使うなと言っていたリーゼロッテの魔法に頼らなければならないほどの、相手らしい。


 とうとう、森大熊の全貌が明らかになる。

 黒い毛に三つの赤い目、口元から覗くのは、鋭い牙。

 四つん這いの状態でも、隊長より大きい。こんな大型魔物が、どこにいたのか。


 地響きが起きるような、低い咆哮を上げていた。

 戦闘開始である。


 そんな中で、草木が生い茂る中から何かがぴょこんと出て来た。真っ白な栗鼠だ。

 あれはもしや――白栗鼠スクイラル


 侯爵様も見ていたようで、幻獣に間違いないと。


「リスリス、ウルガス、捕獲に行け!」

「あ、はい、了解です」

「わかりました」


 隊長からの指示を受けて動く。

 白栗鼠はきっと森大熊から逃げていたのだろう。


 森大熊の戦闘状況も気になるけれど、私とウルガスは白栗鼠のあとを追った。

 ぴょこん、ぴょこんと、木から木へと飛んで移動している。

 一応、契約はしているので、人慣れをしているはずだが。


「そこの白栗鼠、止まれ!」

「リスリス衛生兵、もしかしたら、アジトで脅されたか何かされて、契約者以外の人間を怖がっているのかもしれないですね」

「そんな」


 白栗鼠はどんどん先へと逃げて行く。追いつけるわけがない。

 ここで、ある着想が頭に浮かんだ。


「ウルガス、魔導リングを矢に付けて飛ばすことはできますか?」

「それは――」


 やじりは外して、魔導リングだけを付けて飛ばすのだ。


「できそうだったら、白栗鼠をリングに通した状態を狙ってください」

「ええ、難しいですよ」

「ウルガスにならできます!」

「あ~もう、それしか捕獲の手段はないですよね。追いつけないですもん」


 半ば、なげやりな感じでウルガスは言う。


「よろしくお願いします!」


 私達は追い駆けるのを止め、その場にしゃがみ込む。

 私は魔導リングに紐を括りつけ、ウルガスは矢の鏃をナイフで削ぎ落す。


「これ、鏃がなくても、目標に先端が当たったら、怪我を……」

「ウルガスの腕ならば大丈夫です」


 バン! と背中を強めに叩いておいた。

 ウルガスの弓の腕は確かなのに、いつも自信がないようにしている。若さ故なのか。


 大丈夫だと励ましていたが、チャンスは一度きり。ドキドキと胸が高鳴る。

 ウルガスは魔導リングが付いた矢を弦に当てて、思いっきり引いていた。

 白栗鼠はどんどん遠ざかっていく。白いので、目標として定めやすいところは幸いか。

 しかし、体の大きさは私の手のひらほどだ。

 ハラハラして見ていることができず、ぎゅっと瞼を閉めてしまった。

 その刹那、ヒュン! と風を切る音が聞こえる。おそらく、矢を射ったのだ。

 ハッと、ウルガスは息を呑む。まさか、失敗だったとか?

 瞼を開くと、木々の先に魔法陣が浮かび上がっていた。中心にいるのは――白栗鼠だ。

 走って確認する。白栗鼠の首には、魔導リングがあった。


「ウルガス!!」

「うっ、よかった」


 ウルガスの矢は、見事白栗鼠まで届いていた。

 捕獲作戦は大成功となる。


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