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任務開始!

「今回の任務だが――」


 予想どおり、幻獣保護局絡みだった。

 なんと、幻獣を誘拐していた一団のアジトを突き止め、壊滅状態にまで追い込んだらしい。

 幻獣保護局っていったい……。

 まあ、幻獣への愛ゆえ、ということにしておこう。


 問題は、そのあとだった。

 幻獣は魔法で束縛していたようで。術者が倒されたのと同時に、魔法が解ける。自由の身となった幻獣達は、四方八方へと逃げて行った。


「山猫など、人見知りしない幻獣はすぐに捕獲できたが、それ以外の幻獣は逃げてしまった。ということで、俺達の任務は幻獣の捕獲だ」


 ちなみに、誘拐された幻獣の数は十四。そのうち、二匹は山猫で、保護済みだ。


「第三級の数が七、内訳は火蜥蜴レザールが三、銀兎インレプスが二、白栗鼠スクイラルが二・第二級は恋茄子アルラウネ一角馬モノケロス。他は雪狐スノソラ宝石鹿ジャムハート黒銀狼フェンリルは契約していない幻獣なので、出会っても放っておけと」


 ちなみに、幻獣の捕獲は幻獣保護局が開発した、魔導リングというものを使うらしい。

 幻獣に投げつけたら、魔力にリングが反応し幻獣の大きさによって変化。首輪や腕輪のような形になって幻獣に装着される。その状態だと、幻獣が従順になるらしい。


「大勢で行くと幻獣がビビって姿を現さないらしいので、少人数の俺らに声がかかったと。とりあえず二日ほど、アジトがあった森の中を捜してほしいとのことだ。準備は念のため三日分用意しろ」


 皆、了解と言って敬礼する。

 アジトは港町の近くにある森に、ひっそりと潜むように築かれていたとか。地下室完備で、大きな屋敷らしい。中型の幻獣を収容できるように造っていたとのこと。

 発見が早かったからか、まだ外へ持ち運んでいない状態だったとか。危なかった。


 出発は三十分後。しばしの解散が言い渡される。

 私は隣に立つリーゼロッテを見た。もうすでに、涙目だった。


「リーゼロッテ、頑張りましょうね!」

「え、ええ」


 まず、包帯や傷薬などが入った衛生兵の七つ道具の入った鞄を取りに行った。肩から提げる。

 続いて、兵糧食の準備をしなければ。走って保存庫に向かう。

 パンと燻製肉と、乾燥森林檎に、粉末凍み芋――と、ニクスのおかげで、瓶物、冷暗所保存の食料など、種類関係なく鞄にたくさん持っていけるので非常に助かる。

 いくら詰め込んでも、鞄の重さは変わらないというのも、ありがたい。


「これは冷凍」

『冷え冷えねん』

「こっちは常温」

『ぬるぬるねん』

「ぬるぬる……」


 なんか違うと思ったが、ツッコミを入れている暇はない。

 幻獣保護局の人がやって来て、アメリアの果物を持って来てくれた。これも、ニクスの中に入れておく。

 それから、以前侯爵様に話をしていた、アメリアの装備一式を持って来てくれた。


「わっ、すごい!」


 全身黒の鎧みたいだ。顔全体を覆う大兜グレートヘルム顎当てラッパー前甲板ブレストプレイト前当てフォールド肩甲ポールドロン腕装備カノンに――足元までしっかりと防具が用意されていた。

 アメリアは幻獣保護局の女性陣に囲まれ、鎧を装着してもらっていた。

 私も、装着方法を覚えなければ。


 アルブムは休憩室でせっせと、唐草模様の布に、木の実やお菓子を並べて、どれを持って行こうかと選別をしていた。

 いやいや、あなた、収納魔法を使えるでしょう?

 自分の食料は、自分で持ち運びたいお年ごろらしい。

 アルブムの行動を観察している場合ではなかった。

 私は更衣室に行って、着替えをニクスの中へと詰め込む。


「すみません、これは私の私物です。食料と別にできますか?」

『大丈夫だよん』

「では、シャツに下着、精油に石鹸、タオルに――」

『しぶつ、しぶつ、しぶ、しぶぶぶぶ……』


 私物、多くてごめんなさい。

 お風呂は入れないかもだけど、着替えくらいはしたい。濡れた手巾で体を拭いて、薄めた精油を体に塗り込むだけでも、だいぶ気分は違うだろう。


 三十分はあっという間に過ぎていった。


 遠征部隊の外套を着込み、休憩所で『ヨイショット』と言って荷物を持ち上げていたアルブムを回収後、集合場所の騎士舎前に集合した。


 私は最後だった。まあ、兵糧食と医療道具の準備があったので、仕方がないことだが。


 リーゼロッテはいつもの綺麗な杖ではなく、以前支給された七つの大罪シリーズの中の一つ、魔杖インウィディアを持っていた。

 インウィディアは真っ黒な杖で、禍々しく、持ち歩くのは嫌だと言っていたが。

 きっと、何か思うところがあったのだろう。ベルリー副隊長が緊急時に、力を大いに発揮したのも気持ちを変えるきっかけになったのかもしれない。


 隊長のありがたいお話のあと、すぐに出発となる。

 皆、馬に跨った。私はアメリアの鞍に乗る。アルブムは外套のポケットに入れた。ニクスの中に入るのを嫌がったのだ。落ちないように気を付けてほしい。

 ちなみに、唐草模様の布に包んだ食料は邪魔だったので、ニクスの中に入れた。


『ケプー』

『ソ、ソレ、アルブムチャンノ、ダカラネ』

『わかっているよん』


 アルブムは、「こんなこと言っているけれど大丈夫?」的な視線を向ける。


「アルブム、大丈夫ですよ」

『ウン、ワカッタ』


 隊長が先頭を走る。続いて、ザラさん、ウルガス、私、リーゼロッテ、ガルさん、ベルリー副隊長の順で走って行く。

 騎士隊の裏門から外に出て、アジトのある森を目指した。

 アメリアは馬にも負けない健脚を見せていた。


「アメリア、飛ばなくても大丈夫ですか?」


 一応、飛行許可は出ている。しかし、アメリアは「平気」と言っていた。頼もしい娘だ。

 現場へは休憩もなく飛ばしていく。

 森の入り口付近に、幻獣保護局の局員がいた。背が高くて若いお兄さんだ。幻獣泥棒のアジトを本拠地にしているようで、そこまで案内してくれた。


「先ほど、行方不明だった銀兎を保護しましたが、黒銀狼の唸り声を聞いて、いったん捜索が中止になったのです」


 幻獣の中でも、黒銀狼というのは獰猛な部類らしい。人を食べることはしないが、襲って所持している食べ物を奪うことがあるのだとか。


 今回、契約していない黒銀狼だということで、なるべく避けるように言われているとか。


 私は恐ろしくなって、傍に歩いていたベルリー副隊長の腕を掴んでしまった。


「大丈夫だ、リスリス衛生兵」

「う、はい」


 くっつくのは迷惑かなと思ったけれど、ベルリー副隊長はぐっと私の腰に腕を回したまま歩いてくれた。心強いし、ありがたい。


 アジトに到着する。

 扉の前で、リヒテンベルガー侯爵様が腕を組んで待ち構えていた。


「よく来てくれた」


 さっそく、作戦会議に移るらしい。

 あちらこちらに、幻獣保護局の局員達が立っていたがなんだか元気がない。

 ここまで案内してくれたお兄さんにどうかしたのかと聞いてみる。


「あの、皆さんお疲れですね」

「はい、ほぼ徹夜で捜索をしていますから。携帯食糧が口に合わない者もいて、このありさまです」

「なるほど。ちなみに、ここにいるのは何名くらいですか?」

「十名くらいですね」


 ちなみに携帯食糧の中身は、ビスケットに乾燥チーズ、乾燥ソーセージ。

 ビスケットはほとんど味がなく、乾燥チーズと乾燥ソーセージは保存期間を長くするために、塩が利いていてしょっぱいらしい。


 食事を食べなければ元気がでない。お腹が満たされていないので、彼らは元気がないのだろう。

 私は侯爵様を見る。すると、バッチリと目が合ってしまった。

 ついでに、話しかけてみる。


「あの、よろしかったら、食事を作りましょうか?」

「なぜ?」

「みなさん、元気がないようなので」


 これから幻獣探しをしなければならないのに、この状態だったら保たないだろう。


「食事で、無気力感が改善されるというのか?」

「はい」


 侯爵様は訝しげな視線を向けていたが――私と侯爵様の間に割って入る者が現われた。


「局長、彼女は優秀な衛生兵です。ただのお節介で言っているわけではありません」


 私を助けてくれたのはリーゼロッテ。皆の前だと、父親である侯爵様でも「局長」と呼んでいるようだ。


「どうか、任せてくれませんか?」


 私はリーゼロッテの背後に隠れ、少しだけ、侯爵様を覗いてみる。

 すると、眉間に皺を寄せ、口を歪ませた怖い顔の侯爵様と目が合ってしまった。即座にリーゼロッテの背後に隠れる。


「わかった。メル・リスリスよ。局員のために、骨折りを頼む」


 あ、なるほど。侯爵様は遠慮をしていたというわけか。

 たしかに、私が幻獣保護局の問題に首を突っ込むのはおかしなことだろう。

 ただ、普段からお世話になっているので、見ない振りなどできなかったのだ。


 一応、隊長にも許可をもらう。


「会議をしている間に、ちゃっちゃと作ればいいだろう」

「ありがとうございます!」


 こうして、幻獣保護局の局員達が元気になるような料理を作ることになった。


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