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保存食作りからの~

 午後からはパンを焼く。

 大きなかまどなので、一気に焼けるのが嬉しい。しかし、選んだ鉄板が大きすぎて重たい。


「あら、メルちゃん!」


 ちょうど、ザラさんが通りかかったようで、鉄板を支えてくれた。

 お昼時にも、こんなことがあったような……。もっと筋力を付けなければ。


「ザラさん、ありがとうございます」

「別にいいけれど、重たい物は無理して運ばないほうがいいわ。危ないから」

「そうですね」


 他部隊の衛生兵みたいに、身体を鍛えなくてはいけないのかもしれない。

 目指せガチムチ衛生兵!

 朝、早起きして走り込みを行うか――と考え事をしていたら、ザラさんが調理台の上に置いてあった食材に反応する。


「あら、これ、懐かしい!」


 ザラさんが手に取っているのは、市場で買った凍み芋。

 そういえば、雪国で作られていると言っていた。どうやら、馴染みの食材のようだ。


「もしかして、食べたことがありますか?」

「ええ、もちろん」


 なんでも、作るのにひと手間もふた手間もかかるらしい。

 まず、雪の中に芋を埋める。朝になると、芋はカチコチに凍っている状態らしい。

 その状態のまま水に浸けて皮を剥いたあと、紐で繋げて川の中に入れて、灰汁抜きをする。


「灰汁抜きが終わった芋は水分を抜くために、敷物を被せて足で踏むの。すると、水鉄砲みたいに、ぴゅうって出て来て――」

「なるほど」


 こうして、水分を抜いた芋を乾燥させたら、凍み芋の完成らしい。


 常温で半年以上保つという、かなり優秀な保存食なんだけど、調理法がわからなかったのだ。ザラさんに質問してみる。


「これね、二、三日くらいかけて水で戻してからスープに入れて飲むんだけど」

「え!?」


 そんなに時間がかかるなんて、知らなかった。

 遠征で食べるのは難しい食材のよう。

 がっかりしていたら、ザラさんが凍み芋をすぐに食べられる料理を教えてくれた。


「粉末にして、水、塩と一緒にしっかり練ってお団子状にしたあとスープに入れたら、すぐに食べられるわ」

「へえ、おいしそうですね」


 ちょうど石臼があるので、凍み芋を挽いて粉末にしてみた。

 かなり大きくて重たい石臼なんだけど、ザラさんが回してくれた。

 あっという間に粉末状になる。瓶に入れて保管した。

 凍み芋団子のスープ、食べるのが楽しみだ。


「ザラさん、ありがとうございました」

「いえいえ」


 ここで、ザラさんとお別れとなる。


 その後、パンが焼き上がるのを待つ間に、木の実の蜂蜜漬け、檸檬のプリザーブド・塩漬けリモン、燻製肉の下ごしらえと、いろいろ作っているうちに、あっという間に終業時間になってしまった。

 完成したパンと乾燥森林檎、未完成の木の実の蜂蜜漬けと檸檬の塩漬け、燻製肉は保管庫へ。


 妖精鞄ニクスに入れたら、一気に運べるのが便利だ。今まで、何回台所と保管庫を行ったり、来たりしていたか。


 保管庫の棚に、パンや保存食の入った瓶を並べていく。


 保管庫には、予備と書かれた氷の魔石がある。ご自由にお使いくださいと書いてあった。もしや、これをニクスに与えたら、鞄に保冷機能が追加されるのだろうか? 聞いてみる。


『氷の魔石入れたら、中が冷え冷えになるよん』

「おお!」


 しかも、常温と分けることも可能らしい。いったい、どんな構造になっているのやら。

 まあいいかと思って、ニクスに魔石を与えた。


『ケプー』


 ニクスが吐いた息はひやりと冷たい。

 これで、要冷蔵の保存食も持ち歩けるようになった。

 今まで常温保存のみだったから、遠征先での料理の幅も広がるだろう。


 そろそろ終礼の時間なので、執務室に戻る。

 隊長のありがたいお話を聞いて、解散になった。


 帰りはザラさんの家まで街を歩く。

 今日はアメリアだけじゃなくて、ブランシュもいるので注目の的だ。

 ザラさんは、しっかりとブランシュに首輪をして、縄で引いている。


「こうしないと、うろちょろして大変なことになるの……」


 山猫は好奇心旺盛な生き物だ。きっと、興味のある物を見つけたら、一目散に走って行くのだろう。


「アメリアは良い子ね」

『クエエ~』


 ザラさんに褒められて嬉しかったのか、バサァと羽根を広げ、胸を張る。

 羽根が落ちるからね、アメリア。

 地面に落ちた鷹獅子の羽根は回収しました。


 ザラさんの家の前に辿り着いたので、お別れとなる。


「う~ん」


 ザラさんは顎に手をあて、何かを考えている仕草を取っていた。


「どうかしましたか?」

「いえ、エヴァハルト伯爵家に引っ越す日を早めようかしらって」


 予定を早めるとは。何かあったのか。質問してみる。


「いえ、メルちゃんと夜とかも、お喋りしたいなって。一緒に料理したりするのも、楽しそうだし」

「た、楽しいと思います!」


 市場でお買い物して帰ったり、庭で夜のお茶会をしたり、眠たくなるまでお裁縫とかしたり!

 そんなの、楽しいに決まっている。考えるだけで、ワクワクしてしまった。


『クエ、クエクエ~』

「なっ!」


 アメリアの一言に赤面してしまう。


「メルちゃん、アメリア、なんて言ったの?」

「あ、いえ、なんでも、ないです」


 アメリアは「新婚さんみたいだね~」と言ったのだ。恥ずかしくなって、頬を手で扇ぐ。

 もう、ザラさんと目を合わせることはできない。早々に撤退を決めた。


「あ、もう、帰りますね」

「ええ、気を付けて」


 アメリアに跨り、ザラさんに手を振る。

 今日も大変な一日だったけれど、いろいろ保存食も作れたし、充実していたように思える。


 ◇◇◇


 翌日。

 リーゼロッテの様子は相変わらずだった。元気がないし、顔色が悪い。

 しかも、朝から何も食べていないよう。騎士は体が資本なのに。

 話を聞いたら、昨日から幻獣保護局が動き出し、とある場所に調査に向かったらしい。侯爵様はまだ、帰って来ていないようだ。

 きっと、気が気でないのだろう。

 朝礼の時、隊長が見抜いて、怒っていた。可哀想だけど、気持ちを入れ替えてもらわなければ。

 とりあえず、麦粥を作る。頑張って食べてもらった。アメリアとブランシュが応援してくれたおかげで、完食できたようだ。あとは、ベルリー副隊長に任せよう。

 私は保存食作りを行うために、台所に向かった。

 今日は青魚のオイル・油漬けサーディンに挑戦する。

 小さな青魚のお腹を裂いて内臓を取り出し、頭を切り落とす。水で綺麗に洗ったあと、塩水の中に入れて一時間ほど放置。

 一時間後、水分を拭き取り、鍋に並べる。上から薬草ニンニク、迷迭草ローゼマリー月桂樹ベイリーフ唐辛子ピマンを入れて、魚と香草がひたひたになるまで、オリヴィエ油を入れて弱火で煮込む。小骨まで柔らかくなったら、完成だ。瓶に入れて保管する。

 これは、パンに載せたらおいしい。食べるのが楽しみだ。


 続いて、禾穀類グレインを蜂蜜で固めて、行動食を作った。

 ここで、昼食の時間となる。

 隊長に怒られたのが効いたのか、リーゼロッテは昼食を食べてくれた。ちょっと意固地になっているようにも見えるけれど、何も食べないよりはいい。


 午後から、木の実バターを作っていると、隊長が廊下を走って出て行った。きっと、上層部から呼び出しがあったのだろう。


「リスリス衛生兵~~」


 ぬっと、台所に顔を出したのは、ウルガスだ。


「どうしたのですか?」

「あの呼び出し、きっと遠征ですよ~~」

「でしょうね」


 まだまだ、食品の加工は終わっていない。だが、緊急で遠征がある可能性は考えていたので、市販品の燻製肉や果物の砂糖煮込みメルメラーダを買っていたのだ。三日くらいならば、大丈夫だろう。


「今回はいったい何が起こったのでしょうね~~」


 たぶんだけど、幻獣保護局絡みの気がしてならない。

 ウルガスはもう少し訓練をしたかったと言っている。私も、保存食の準備期間が短かった。あと、一週間くらいあれば、いろいろ揃えられたのに。


 三十分後、隊長が戻って来る。第二部隊の隊員達は、執務室に呼び出された。

 さっそく、隊長が宣言する。


「急だが、遠征に行くことになった」


 ウルガスが、「え~~」という顔付きになっていたのは、言うまでもない。


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