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仲間達との朝食

 食堂に辿り着くと、一番に大柄で隙のない強面の男性に視線が向かう。

 あの朝から何人か殺してきたかのような鋭い目、誰も寄せ付けない殺気立った雰囲気、騎士隊の制服に身を包みながらも、どこか粗野で野性味の溢れる姿!


 山賊だ、間違いなく、山賊だ!!


 すごい、やっぱり怖い顔だ。でも、安心感がある。

 やはり、山賊あってのエノク第二部隊なのだ。


「誰が山賊だ!」

「ひゃあ!」


 山賊が振り返り、怖い顔で怒鳴る。私は思わず、隣にいたベルリー副隊長に抱きついた。


「おいこら、リスリス、こっちに来い! 朝から人の顔を見るなり、山賊山賊と連呼しやがって!」


 わざわざ立ち上がり、こちらへ詰め寄り顔で迫って来るので、私はベルリー副隊長の背後に回り込み、マントに顔を埋める。


 どうやら、私は無意識のうちに、隊長と山賊を言い間違っていたようだ。


「隊長、止めてくれないか? リスリス衛生兵は昨晩、怖い目に遭ったのだ」

「ベルリー、まるで、俺の顔が怖いとでも言っているようなものだな?」


 押し黙るベルリー副隊長。二人共、いったい、どんな顔をしているのだろうか。ちょっと気になるけれど、私は隊長が怖いので、顔を逸らしたまま。確認できないでいる。


「隊長、まずは朝食にしよう」

「そうだな。腹減った」


 やっとのことで、追及から解放された。

 それにしても、隊長がいる安心感は半端ない。ざわざわしていた心が、やっと落ち着いた。


 隊長の他に、ザラさんやウルガス、リーゼロッテもいる。みんなが一緒だということも、安堵感に繋がっているのかもしれない。


 ザラさんが心配そうにこちらへとやって来る。


「メルちゃん、話は隊長から聞いたわ。大変だったわね」

「ザラさん……!」


 うっ。ザラさんの顔を見たら余計にホッとして、泣きそうになった。

 抱きついて、いかに怖かったか語り倒したかったけれど――。


「お客様、こちら様のお連れですか?」

「あ、はい」


 店員さんに席まで案内されてしまった。


 テーブルには焼きたてのパンに野菜のスープ、茹で卵に、カリカリの燻製肉など、お決まりの朝食のメニューが並べられていた。

 おいしそうな料理を目の前にすると、お腹がぐうと鳴る。


 まずは手と手を合わせ、神様に祈りを捧げる。それから、料理を味わうことにした。


 ここの地方は、外側も中もカリッカリなハードタイプのパンのようだ。薄く切りわけられている。一枚手に取って、壺に入ったバターを塗った。

 焼きたてだからか、中の生地はほんのりやわらか。バターがじわり、じわりと溶けて、透明になっていく。すべて溶けたら、パンの気泡から滴ってしまう。私は慌ててパンを頬張った。

 外の皮はカリッ、中はやわらかくてむっちり。バターの濃厚なコクが、小麦の味を引き立ててくれる。

 このパンが、野菜の旨みが溶け込んだスープに合うんだ!

 肉汁滴る燻製肉はナイフで裂いて食べ、茹で卵はシンプルに塩で食べる。

 どれもおいしい。

 一言付け加えると、みんなが一緒だから余計においしく感じる。

 仲間がいるって、ありがたい。心からそう思う。


 ◇◇◇


 食後は宿の個室を借りて、今回の任務について話し合った。


「今回は俺の作戦ミスのせいで、大変な目に遭わせた。すまなかった」


 隊長は深々と、私とベルリー副隊長、ガルさんに頭を下げる。

 ちょっとというか、かなりびっくりした。隊長が謝るなんて。


「まさか、巨大な巣穴を作っていた砂蟻に大蠍が食われるなんて事態を、想像もしていなかった」


 今回の件は、魔物研究局の人も前例がないと驚いていたくらいだ。仕方がない。

 そもそも、砂蟻が直接地上へと出てくるなんて、生態を考えたらありえないことらしい。


「すべては、大蠍を喰らい、自身の力が種族の限界を超えたことによる行動だったのだろう」


 ベルリー副隊長は、淡々とした様子で語った。


「まあ、今回の任務が成功か失敗かは、上の判断に任せるしかない」


 続けて、隊長は本日の予定を険しい表情で述べる。


「今日は現場検証に行く」


 私は「え~~!!」と言いたいのを我慢するために、口元を手で塞いだ。

 せっかく砂蟻と大蠍の討伐の証である部位を持ち帰ったのに、また現場に向かうようだ。


 魔物研究局や魔法研究局の方々も同行する模様。

 もう、嫌だ。けれど、仕事なので当然ながら拒否権などない。

 …………凹む。


 そして。

 白い砂、澄み渡る青空、照りつける太陽、やる気のないわたくし。

 やだ、もう。恐怖の夜から時間もさして経たないうちに、現場にまた行くことになるなんて。

 今回は人工竜にウルガスと共に同乗する。いつもの後衛コンビだ。アメリアには、リーゼロッテが跨り、おまけのアルブムと一緒に移動してもらうことになった。


 アルブムは作戦が告げられると、シュンとした様子でいた。


『アルブムチャン、貴族ノ娘と一緒ニ、鷹獅子グリフォンに乗ラナキャ、ダメナンダ……』


 魔力値の高いアルブムは魔物に狙われる可能性があるので、そうしてもらった。

 リーゼロッテは満面の笑みを浮かべながら、アメリアによろしくと言っている。

 本当に、嬉しそうだ。

 今から任務だからね。一応、釘を刺しておく。


 アルブムは背中に唐草模様の風呂敷を背負い、張り切って任務に挑もうとしていた。いったい何を持って来たのか。気になったので中身を見せてもらったら、飴やチョコレートなどの小さなお菓子が詰め込まれていた。部屋にあった茶菓子だろう。


 隊長より、出発すると声がかかる。


「じゃ、アルブム、頑張ってね」

『ウ、ウン』

「アメリアも、リーゼロッテとアルブムをよろしくね」

『クエ!』


 リーゼロッテは軽やかに騎乗した。美しき貴族令嬢と箱入り鷹獅子グリフォン。うむ、実に絵になる。

 アルブムはアメリアの背中に張り付き、ガタガタ震えているけれど、紐で縛っているので、落ちても大丈夫だろう。一応、アメリアにもゆっくり飛ぶようにお願いしておく。


 アメリアは助走をつけて飛び立つ。


『オッ、ウッ、ヒエエエエ~~!!』


 悲鳴を上げながらアルブムは飛んで行った。それとなく心配していたリーゼロッテは平気なようだ。

 なんていうか、うん。頑張れ、アルブム。


 私達は再度砂漠へ向かって駆けだす。


 見渡す限りの砂漠にも、もう飽き飽きしてしまった。王都郊外の鬱蒼とした森が恋しい。

 圧倒的に緑が足りない。それは、私が森育ちのフォレ・エルフだからなのか。

 じりじりと照り付ける太陽。茹だるような暑さ。もう、勘弁してほしい。

 その上に魔物に襲われるとか。って魔物!?


「総員、戦闘準備!」


 ベルリー副隊長の凛とした声が、響き渡る。


「リスリス衛生兵、戦闘みたいです。手綱は任せました」

「うっ、はい」


 今回、こういう事態を想定して、ウルガスが前に跨っている。

 騎乗したまま弓矢を操るので、私は人工竜の操縦係を任命された。責任重大だ。


 それにしても、本当についていない。


 前方より襲いかかって来たのは、砂猪ザントボアの群れだ。

 茶色い体毛が針のように逆立っていて、爪は鋭く、つぶらな目が真っ赤なのが特徴。

 大きさは成人男性が四つん這いになったくらい。あまり大きくはないが、数は十五と少々多い。


 隊長は臆することなく人工竜の腹を蹴り、群れへ突撃する。

 大剣を抜き、大きく振り上げた刃を、砂猪の脳天に叩き込む。

 鈍器のような大剣は身を裂き、頭蓋骨を砕いて、噴水のように血飛沫が上がる。顔の半分を返り血で染めた隊長は、次なる獲物へと剣を向け、突進していた。


 ザラさん、ガルさんは群れの周囲を、人工竜で駆ける。


 ベルリー副隊長は群れから逸れて動く、一体の砂猪と対峙していた。

 一回りも大きな個体であった。

 人工竜に向かって、猛進してくる。

 ベルリー副隊長は双剣を抜いた状態で鞍の上に立ち、高く飛び上がった。同時に、人工竜は別の方向へと走り出す。


 くるりと一回転して砂の上に着地したベルリー副隊長は、落下の反動をバネのようにして前に跳び出し、砂猪の足に斬りかかる。


 バランスを崩した砂猪であったが、方向転換し、再度、ベルリー副隊長に突撃しようとしたが――トス! と胴部に矢が突き刺さった。


 ウルガスの毒矢だ。


 体が大きく、暴れ回っていたので、すぐに毒が体に回り、息絶える。

 砂の中に沈むように倒れ込んだ。


 ザラさんとガルさんが、群れを追い込む。


 一点に集めると、後退した。

 群れの真ん中で暴れていた隊長も、引いていく。


 魔法研究局の魔法使いが、群れの周囲に結界を張った。


「――今だ、撃てッ!」


 ベルリー副隊長の合図と共に放たれるのは、リーゼロッテの炎系の大魔法。


 アメリアに跨った彼女の杖より、拳大の炎の球が落ちて来たと思ったら、地面に着弾した瞬間に大きな火柱が上がった。


「うわ~、相変わらず、えげつないくらい威力の高い魔法ですね」

「はい」


 砂猪の群れは、あっという間に真っ黒焦げになった。

 火が消えたあとに漂うのは、猪豚が焼けたような、ジューシーで香ばしい匂い。


「……ちょっとおいしそうですね」

「魔物は食べられないので!」


 砂猪を見る目が変わったウルガスに、注意をしておく。

 ゲテモノ食いはダメ、絶対!!


 ◇◇◇


 こうして、現場を検証し、やっと王都に帰れることになった。

 諸々の報告については、隊長任せ。

 何かあったら、侯爵様に泣きつけばいい。


 いろんなことがあり過ぎて、もうどうにでもしてくれという感じだった。

 ベルリー副隊長に関しては心配だけれど。

 隊長は悪いようにはさせないと言っていた。今はそれを信じるしかない。


 帰りはさすがに疲れていて、アメリアに跨る元気など残っていなかった。

 代わりに、ガルさんが騎乗してくれた。


 そして、私は竜車の中で泥のように眠る。

 いつの間にか、ザラさんの膝枕で寝ていたが、それに気付いたのは王都に到着してからだった。


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