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砂漠の謎について

 アルブムと手分けして、ベルリー副隊長やガルさん、アメリアに甘芋を配って歩いた。

 一応、自分達だけ楽しむわけにもいかないので、魔法研究局と魔物研究局の人達にも配る。


「なんだこれ、砂漠に芋なんて」

「ありえない」


 魔法研究局の人達は口々に言う。今まで、砂漠を掘っていたけれど一度も見つけることはできなかったと。

 ここで、先ほどの魔物研究局のおじさんが口を挟む。


「これは魔力を吸って育つ青い甘芋だ。ここでは幻とも言われているがな。衛生兵のお嬢ちゃんは運がいい。一生のうちで口にするか、しないかの物らしいから。……しかし、この芋うめえどころじゃないな」


 おじさんはアニス出身らしい。詳しい人がいて助かった。


「ま、待て! ここの砂の魔力で、このおいしい芋が育つと?」

「そうだが?」

「これを、アニスの者は農業利用しなかったのか?」

「したが、効果がなかったんだよ」

「品種が限られているというのか?」

「知らねえ」


 なんだか、新しい発見だったようで、魔法研究局の局員達がザワザワし始める。


「だったら、アレも知らないのか? 鍋で熱すると、強く光るってこと」

「なんだと!?」


 鍋で温めることも、魔法研究局の局員達は知らなかったようだ。


「以前、砂を熱した時は、反応しなかったが……?」

「いったいどうして……」


 研究所へと持ち帰り、さまざまな成分確認の実験を繰り返していたらしいが、成果は得られなかったとか。

 魔法研究局の局員が、今回の件を参考に推測する。


「鍋の成分に反応するとか?」

「いや、ここで直接砂に火を点けてみろよ。光るから」


 おじさん曰く鍋がないときは、直接砂場で蒸し焼きを作っていたらしい。


「皮が茶色い甘芋はアニスの名産品なんだが、ガキの頃は砂漠の砂に直接火を点けて、蒸し焼きにしていた」


 しかし、砂に着火させると広がってしまって大変なので、鍋を使ったほうがいいと魔物研究所のおじさんは話す。


「辺り一面火の海にしたことがあって、あの時は焦ったな~~」


 夜、砂漠に青白い炎が上がる風景は、見たこともないほど幻想的な雰囲気だったらしい。

 若気の至りだと言うおじさんに、同僚っぽい青年が「最低最悪の不良だ」とコメントしていた。


 一方で、魔法研究局の局員達はバタバタし始める。

 急遽、着火実験を行うことになったらしい。

 魔法陣を描き、火が燃え広がらないよう対策をして、術式を展開させる。

 魔法研究局の局員の一人が呪文を唱えると、ポッと小さな炎が砂の上に現れた。

 ゆらゆらと揺れる火に、輝きを増していく青い砂。

 鍋で見たものよりも、ずっと綺麗で強く発光していた。


「これは……」

「なんていうことだ……」


 私の鍋も見せてくれと言われた。普通の鍋なんだけど。

 軽く調べた結果、銅製の鍋は魔石銅で作られた物だと発覚した。珍しい素材なので、大事にするように言われる。

 なんでも、私が購入した金額では、絶対に買えないとのこと。おそらく、仕入れの者のミスだろうとも。


 魔法研究局の局員が、これらの実験で発覚したことを口にする。


「たぶん、この砂漠の下には、魔石金属が埋まっている」


 魔石金属とは、魔力を大いに含んだ物質で、大変貴重な物らしい。

 魔石銅製の鍋の反応と比べて、強い輝きを放っていたことから、魔石銀以上の物が埋まっているだろうと。


「魔石金属の魔力の影響で、ここの砂漠の砂はこのように白くなり、夜に青く光るようになったと」


 魔物研究局のおじさんが、ヒュウと口笛を吹く。

 そして、私の背中をバン! と叩いた。


「衛生兵のお嬢ちゃん、大発見だな」

「え、いや、私は何も」

「いやいや、あんたが甘芋をここで調理しなければ、発見できなかった。これで、国もかなり潤う。すげえな!」


 私とアルブムの食い意地が、こんなことになるなんて……。


「あの~」


 魔法研究局の局員に声をかける。


「どうしましたか?」

「報告書には、私のことについて、書かないでくれますか?」

「どうしてですか?」

「……」


 いや、だって、休憩時間とはいえ、発見したばかりの甘芋を我慢できず、その場で調理。その際に、砂が発光することを発見、だなんて恥ずかし過ぎる。

 食いしん坊ですと、わざわざ報告するようなものだ。


「何言ってんだ、衛生兵のお嬢ちゃん。これは褒章もんの大発見だ」

「いやいや、私は甘芋を蒸しただけですし」

「しかし、あんたが甘芋を持って来なければ、俺達は気付かなかった」


 地元民である魔物研究局のおじさんにとって、砂を熱したら光るというのは常識中の常識。おかしな点であると考えていなかったとか。


「それに、砂漠で育つ植物の研究が進んだら、この広大な砂地も有効活用できるかと」

「だってよ!」

「あ、はあ……」


 いいのに。私については、書かなくてもいいのに。

 きちんと正確な情報を上に報告しなければならないらしい。

 一応、アルブムが発見したとは言わなかったので、そこだけはよかったのか。

 もういい。私一人が、食いしん坊の泥を被ろう。

 これで、アルブムが平穏に暮らせるならば。

 特に、魔法研究局にアルブムの能力がバレたら大変だ。国のためとか言って、没収されてしまいそう。


『パンケーキノ、娘~~』


 ここで、アルブムが私のもとへテッテケテ~と走りながらやって来る。タイミングの悪い奴め!


「なんですか、あのイタチみたいなものは?」

「衛生兵のお嬢ちゃんの妖精だよな?」

「あ、はい。というか、契約しているのは、リヒテンベルガー侯爵なのですが」


 可愛い妖精さんについて聞きたかったら、顔の怖い侯爵様にお問い合わせしてねと、暗に伝えておく。

 侯爵様はアルブムのことを、守ってくれるはずだ。きっと、たぶん。


 魔物研究局と魔法研究局の局員達がじっと見つめるので、アルブムは慌てて私のほうへかけ寄って体をよじ登ると、首元に巻き付いて、襟巻の振りをしていた。

 なんだか、怪しい視線を感じ取ったらしい。


『アノ人達、怖イ』

「怖くはありませんが、大人しくしていたほうがいいですよ」

『ウン、ワカッタ』


 今日はとりあえず撤収するとのこと。

 よかった。無事に終わりそうで。いろいろと、引っかかるようなことはあったけれど。


 ベルリー副隊長、ガルさんと合流する。

 ガルさんより、アメリアが返された。彼女を戦闘に使わないほうがいいと言われる。

 どうしてかと聞いたら、装備が整っていないからだと。

 首を傾げる私に、ベルリー副隊長が補足をしてくれた。


「戦闘に参加するならば、兜などが必要だな」


 気付かなくてすまなかったと、謝るガルさん。


「いえいえ、というか、皆、気付かなかったことですし」


 確かに、戦闘に参加する馬などにも、専用の鎧みたいな物があった。

 幻獣保護局に言ったら、作ってくれそうだったが――。


『クエクエクエ!』

「え? あ、はい……」


 アメリア氏曰く、「鎧は可愛くないからちょっと嫌」とのこと。


「まあ、戦闘に参加するか否かは、アメリア次第ですし」

『クエクエ、クエクエクエ』

「はあ、なるほど……」


 アメリア氏曰く、「別に、戦闘への参加が嫌なわけじゃないんだけど」とのこと。

 ここで、ベルリー副隊長が助言する。


「鎧に花や蔓模様などの華やかな細工を施してはどうだろうか? 最近は黒鋼と言って、漆黒の美しい素材もある」

『クエ、クエクエ!!』


 ベルリー副隊長の語るオシャレ鎧に反応するアメリア氏。「それ、いいかも~」と乗り気だ。

 しかし、それってお高いのでしょう? と聞きたくなる。

 まあでも、私達にはお金持ちの支援者スポンサーがいる。相談したら、買ってくれるかもしれない。


「アメリア、帰ったら、侯爵様に相談してみましょう」

『クエ!!』


 アメリアは全身まっしろなので、黒い鎧を纏ったら、さぞかし綺麗なんだろうなと、想像してみる。


 身の安全のためにも、鎧は必要だろう。


 帰りは、私がアメリアに跨り、ガルさんは人工竜に乗る。

 なんだか疲れたので、早くお風呂に入って眠りたい。


 そんな話をしながら、アニスの街に戻ろうとしていたが、ズンと大きく砂漠の地面が揺れた。


「え、なん……?」

「やべえ、砂蟻の巣だ!!」


 魔物研究局のおじさんが叫ぶ。


 突然、砂漠が沈み、そこから出て来たのは――巨大な蟻だった。


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