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現代旅情ナイアガラ逆落し

作者: ヲシダ

 あれは私が3日前に旅に出た時のことですが、そうあそこがどこだったかというと、まあとんと覚えていないわけですけど。たしか草ぼおぼおの草むらの中であったかと思います。


 私は参っていました。参っていたのはなぜかというと、それは車ががーんとですね、岩かなにかにぶつかってしまって。いや岩じゃなかったかもしれない。まあそりゃあ、別にいいことなんですが。とにかく車が使えなくなってしまったんですな、使えなくなった。


 こりゃあダメだ、と。

 参ったことに携帯電話も使えません。

 どうしましょう。

 草むらの中です。先ほども言いました。

 先ほども。


 しょうがないので草むらの中を歩いたんです。

 するとしばらくするとですね、なんだかテラテラと光るもんが見えてきて。近づくわけです。私は。

 近づくとそこは一軒の家でした。

 かやぶき屋根の。いまどきかやぶき屋根っていうのもおかしいですけど。


 まあそれは置いといて。

 とにかくかやぶき屋根に近づいたところですね、戸がガラリと開いたんです。

 入り口の戸がです、私はなんも声すらかけてなかったはずだったんですけど。

 不思議です。


 戸が開くとですね、一人の男の人が出てきたんです。

 頭に仮面をかぶってました。白い。

 で、上半身が裸なんです。

 私はぶひぇひぇ、と笑ってしまいましたけども。

 みなさんはどう思いますか。

 まあそんなことはどうでもいいんだよ。

 とにかく私が笑うと、男の人もにやりと笑って。

 仮面をかぶってるのに笑ったっていうのもなんか変ですけどね、笑ったような気がしたんです。だから笑ったんです。

 で、男の人が言うわけですよ。


「中に入りなさい」


 私は言うままにしました。

 で、中に入りますと、囲炉裏がまあもちろんありましてね、そのそばにおばあさんが座っているわけです。

 そうするとなんだか私は安心するわけでしょう。

 そりゃそうですね。

 かやぶき屋根のね、家に。囲炉裏があって。ばあさんが座ってる。

 これは安心するわけです。

 するとばあさんがね。


「旅の人お困りかな」


 と言うんです。

 私は「ハイ」と答えました。

 「は、ハイ」だったかもしれない。

 まあその辺りはかんにんしてください。


「泊まっておいきなさい」


 とばあさんが言います。

 私は


「はははい」あるいは「ははい」と答えました。


 でも本当は「ははっはは、ハイっ」だったかもしれませんけど。

 どうでしょう?

 とにかく泊まっていくことになりました。


 夜にはイノシシ汁なんかが出てきてね、たいそう美味しかった記憶があります。

 で、そのあとに寝室に通されました。

 囲炉裏のある部屋の隣の部屋です。

 布団がしいてあったので、まあ寝ました。

 体が疲れてたんでしょうね、ぽっくりと寝ましたよ。

 ぽっくりっていうのは変かな。

 死んだみたいだな。

 とにかく寝た。


 私は夜中に目を覚ましました。

 夜中に目を覚ましてなんとなくああ夜中だなあ、って分かる時があるでしょう。

 ああいう感じです。

 私はまあそういう時ですからお小便をしたくなったんです。

 立ち上がりました。

 で、ガラリとふすまを開けたんですね。

 もちろんそこは囲炉裏のある部屋で。


 すると囲炉裏のある部屋で、ばあさんがね、立ってたんです。

 上半身は裸でした。

 そして私を見て言うんです、


「おっぴらぱらげんこ! おっぴらぱらげんこ!」


 もちろんなんのことだか分からない。

 分からないのですが、私は、


「おっぴらぱらげんこ!」


 とオウム返しにしてやりました。

 すると、ばあさんが


「はちゃー、あちゃー」


 と叫んで、ばったりと倒れた。

 するとそこに仮面の男が出てくる。

 白い仮面の上半身裸の男ですね。私を迎え入れた。

 それがノシノシと歩いてきて、バアさんの上に乗っかるんです。

 こう上からかぶさるようにね。

 そして


「いーち、にーい、さーん」


 と数える。

 数え終わったら、立ち上がります。

 そして私の方を見て言うのです。


「君のおかげでばあさんはこんなになっちまった。こんなに。こんなに」


 ふとばあさんの方を見るとね、なんとそこにはシシャモが転がってるんですよ。

 これにはびっくりしました。シシャモですから。

 これがマグロだったら驚かなかったと思う。

 でも人間がシシャモになったらびっくりするでしょう。

 大きさが違うから。それはね。

 変ですよっていう。

 私はあんまりにも怖くなって涙があふれてきました。


「かんにんしてください。かんにんしてつかあさい」


 そう言って泣きながら拝んだんです。

 すると仮面の男は、


「かんにんもなにも、もう遅い。シシャモだ。ばあさんはシシャモになっちまった」


 と、やはり泣きながら言うんですね。

 これは泣くのも仕方ない状況ですからね、仕方ないと思いましたよ。

 そして男はうわー、と叫ぶと、家の戸を開けて外に出て行きました。

 私は、ああ、なんてことをしてしまったんだろうと思いながら寝床に帰りました。

 そして布団に横になった。

 心臓がバクバクしましたが、まあ少し寝れました。

 そして朝になった。

 

 囲炉裏の部屋に行きます。

 すると当然、そこにはシシャモが転がっているんです。

 ただシシャモが一匹だけじゃなくてね、なんだか百匹くらいいるんですね。

 まあシシャモというのはたくさん卵を産みますから。

 それぐらい増えてても不思議はない。

 私は、両手をあわせて、


「かんにんしてください。かんにんしてください」


 と言いながらシシャモの合間を通ってね、外に出ました。

 そして車のところに戻る。

 車にエンジンをかけました。

 するとかかった。

 なにかの拍子に調子がよくなったんですかね。

 あるいはシシャモのせいかもしれんです。あれは。

 とにかくエンジンがかかったので帰ってきました。


 ええ、まあ、こういうことがあったんです。

 ちょっと思い出して涙で目がうるんでまいりますよ。

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